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2章
2章73話(174話)
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お礼を伝えてくれた令嬢たちに、私からもお礼を伝えた。みんな不思議そうな表情を浮かべていたけれど、すぐに小さく微笑みを浮かべて「エリザベス様って面白い方なのね」と言われた。面白いかどうかはわからないけれど、こんな風に気軽に話し掛けてくれたら嬉しい。
そして私たちは歌う曲を決めて練習することにした。それぞれ得意な音域が違うから、ハーモニーになるように。歌っている途中でみんな気分が高揚して来たのか、声が大きくなっていく。普段こんなに大きな声は出さないから、少しスッキリした。
音楽の先生はそんな私たちを面白そうに見ていた。……いや、他の生徒たちも見ていた。
「大きな声を出すのはスッキリするだろう?」
「はい」
きっぱりと言う私たちに、先生は楽しそうに目元を細めた。
「君たちの声には魔力が乗ってないね」
「……歌に魔力を込めるのはいけないことでは?」
「ああ。だが慣れていない子は歌に魔力を乗せちゃうことが多いんだ。思いを声に乗せるとついって子が多いよ。声楽に限らず、他の楽器でもね」
そうだったんだ……。実はアカデミーの授業で歌を歌うのは今日が初めてだ。初日には楽譜の読み方やこの曲に込められている意味を理解するとか、そんな感じの内容だったから。そして、その意味をそれぞれの楽器や声楽のグループで話し合う――そんな授業だった。音楽の授業は少なく、今日が二回目。刺繍の授業のほうが多い。……それなりに、刺繍の腕は上達している……と思いたい。
「だからこそ、音楽の授業もある意味魔法の授業だ。コントロールを覚えて損はない」
「……もしかして、先程の授業を見ていらっしゃったのですか……?」
声楽の一人が先生に尋ねる。先生はこくりとうなずいた。……そっか、見られていたのか……。……全然気付かなかった。もしかしたらソルとルーナは気付いていたかもしれないけれど……。ソルもルーナも、私に危険がないと判断したら出て来ないものね。
……と、考えると、ジェリーの悪意は危険がないと判断したのかもしれない。もしくは、様子見かな? どちらにせよ、ジュリーと対立することになりそうで、少し……いいえ、かなり気が重い。私に謝ってくれた彼女となら、良い関係が築けるのではないかとも考えたけど……、理由もなく私を敵対視するのはなぜなのか。彼女に関しては、本当に謎が多い。
そんなことを考えていたら授業が終わってしまった……。
授業終わりに喉が渇いたからお茶を飲みに向かう。ジーンも一緒に来てくれた。ディアは次の授業は良い席で受けたいから、と教室に向かって行った。
「ディアの目、輝いていたわね」
「本当に好きなのね……古代語」
正直私には古代語はさっぱりとわからないのだけど……。ディアが生き生
きとしているのを見るのはとても嬉しく感じた。
「……あ」
「……え?」
向こう側からジェリーが数人のクラスメイトたちと話しながら歩いていた。私に気付くとバツが悪そうに視線を逸らして私の横を通り過ぎようとして――……。
「きゃあっ!」
と、派手に転んだ。あまりに突然のことでびっくりしていると、彼女のクラスメイトたちが私のことを睨んだ。
「エリザベス様っ、ジェリーに足を引っかけるなんて酷いですわ!」
「そうですよ! 先程の授業だって、自身のコントロールを見せつけるようにしていたではありませんかっ! 魔力がうまく使えない私たちへの嫌味ですか!?」
転んだジェリーを心配するように彼女たちはジェリーに手を差し伸べて、ジェリーはその手を取って立ち上がる。その目に涙を浮かべているのを見て、私はどこか他人事のように彼女たちの言葉を聞いていた。
「――エリザベスが足を引っかけた?」
ジーンの低い声が、彼女たちに向けられた。
そして私たちは歌う曲を決めて練習することにした。それぞれ得意な音域が違うから、ハーモニーになるように。歌っている途中でみんな気分が高揚して来たのか、声が大きくなっていく。普段こんなに大きな声は出さないから、少しスッキリした。
音楽の先生はそんな私たちを面白そうに見ていた。……いや、他の生徒たちも見ていた。
「大きな声を出すのはスッキリするだろう?」
「はい」
きっぱりと言う私たちに、先生は楽しそうに目元を細めた。
「君たちの声には魔力が乗ってないね」
「……歌に魔力を込めるのはいけないことでは?」
「ああ。だが慣れていない子は歌に魔力を乗せちゃうことが多いんだ。思いを声に乗せるとついって子が多いよ。声楽に限らず、他の楽器でもね」
そうだったんだ……。実はアカデミーの授業で歌を歌うのは今日が初めてだ。初日には楽譜の読み方やこの曲に込められている意味を理解するとか、そんな感じの内容だったから。そして、その意味をそれぞれの楽器や声楽のグループで話し合う――そんな授業だった。音楽の授業は少なく、今日が二回目。刺繍の授業のほうが多い。……それなりに、刺繍の腕は上達している……と思いたい。
「だからこそ、音楽の授業もある意味魔法の授業だ。コントロールを覚えて損はない」
「……もしかして、先程の授業を見ていらっしゃったのですか……?」
声楽の一人が先生に尋ねる。先生はこくりとうなずいた。……そっか、見られていたのか……。……全然気付かなかった。もしかしたらソルとルーナは気付いていたかもしれないけれど……。ソルもルーナも、私に危険がないと判断したら出て来ないものね。
……と、考えると、ジェリーの悪意は危険がないと判断したのかもしれない。もしくは、様子見かな? どちらにせよ、ジュリーと対立することになりそうで、少し……いいえ、かなり気が重い。私に謝ってくれた彼女となら、良い関係が築けるのではないかとも考えたけど……、理由もなく私を敵対視するのはなぜなのか。彼女に関しては、本当に謎が多い。
そんなことを考えていたら授業が終わってしまった……。
授業終わりに喉が渇いたからお茶を飲みに向かう。ジーンも一緒に来てくれた。ディアは次の授業は良い席で受けたいから、と教室に向かって行った。
「ディアの目、輝いていたわね」
「本当に好きなのね……古代語」
正直私には古代語はさっぱりとわからないのだけど……。ディアが生き生
きとしているのを見るのはとても嬉しく感じた。
「……あ」
「……え?」
向こう側からジェリーが数人のクラスメイトたちと話しながら歩いていた。私に気付くとバツが悪そうに視線を逸らして私の横を通り過ぎようとして――……。
「きゃあっ!」
と、派手に転んだ。あまりに突然のことでびっくりしていると、彼女のクラスメイトたちが私のことを睨んだ。
「エリザベス様っ、ジェリーに足を引っかけるなんて酷いですわ!」
「そうですよ! 先程の授業だって、自身のコントロールを見せつけるようにしていたではありませんかっ! 魔力がうまく使えない私たちへの嫌味ですか!?」
転んだジェリーを心配するように彼女たちはジェリーに手を差し伸べて、ジェリーはその手を取って立ち上がる。その目に涙を浮かべているのを見て、私はどこか他人事のように彼女たちの言葉を聞いていた。
「――エリザベスが足を引っかけた?」
ジーンの低い声が、彼女たちに向けられた。
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