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2章
2章74話(175話)
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ジーンはジェリーたちを一人一人、しっかりとその目で見つめて言葉を続けた。
「私には、ジェリー・ブライトが勝手に転んだように見えたけれど?」
腕を組んで彼女たちを睨むジーン。……私が反論しなくてはいけないことだと思うのだけど、ジーンのほうが素早かった。ジェリーは「そんな……酷い……」と涙を浮かべてちらりとジーンを見る。パンッ、とジーンの身体に向けられた魔力が弾けたのが見えた。
「……あなたは本当に、ジェリー・ブライトなの……?」
その魔力には覚えがあった。女子寮に充満したあの重苦しい魔力。
「……ジーン様は随分とエリザベス様の肩を持つのですね」
ジェリーの隣にいる女性がそう言った。クラスが違うと名前もわからない。ジーンはそれを聞いて小さく微笑みを浮かべた。
「当たり前でしょう? 私とエリザベスは二年前からの友人。知り合って間もないジェリー・ブライトを、どうして私が信用するとお思いになったのかしら?」
自身の胸元に手を置いて、ずいっと前に出て彼女たちに尋ねる。
「あら、友人関係は長ければ長いほど良いというわけではありませんでしょう?」
「私が言っているのは、昔からの友人と知り合って間もない人と、どちらのほうが信用出来るかということ。問題をすり替えないで頂ける?」
……すごいわ、ジーン。悔しそうに表情を歪めるジェリーのクラスメイトたちに、ジェリーは小さく眉を下げて、「ごめんなさいね」と声を紡ぐ。
「エリザベス様がお小さくて見えなかったのかもしれません」
……私の身長が低いのは見ればわかることだけど、嫌味に聞こえるのは気のせいかしら。
「あなたね……」
「良いのよ、ジーン。でも、おかしいわね。あなたは私とすれ違った途端に転んだ。私たちは歩いていたし、どうやって向こう側からくるあなたに足を引っかけられたのかしら? 足を引っかけるなら、立ち止まらないといけないでしょう? 言っておくけれど、私の運動神経は普通だから、歩きながら足を出すなんて芸当無理よ? それに、そんなことをしていたら、変な動きになるでしょう? あなた方、私がそんな変な動きをしていたと思うの?」
実際に私は動いてみた。周りの人たちはちらちらと私たちを見ていて、そのうちの一人が「エリザベス様の動きは自然でしたわ」と声を掛けてくれた。分が悪くなったと判断したのか、ジェリーたちは眉間に皺を刻んでからなにも言わずに去って行った。……ジェリーのあの魔力。どこかで感じたことがあると思った。……マザー・シャドウの魔力と、似ているんだわ……。
「行きましょう、エリザベス」
「……うん。あ、あの、お騒がせして申し訳ございません。……声を掛けてくれてありがとう」
「エリザベス様……、いいえ、すみません。声を掛けるのが遅くなってしまって……」
「いいえ。本当に助かったわ。ありがとう。それでは、また」
小さく頭を下げてこちらを見ている人たちに謝罪を口にすると、声を掛けてくれた女性が申し訳なさそうに眉を下げていた。……こんな風に、気にかけてくれる人がいることもありがたかった。軽く手を振ってその場を去る。……アル兄様に、話すべき、よね。アル兄様を探さないと。
ジーンが心配そうに私を見ていたから、私はにこりと笑みを浮かべて、ジーンの腕に自分の腕を絡め、彼女を見上げた。
「ありがとう、ジーン」
「私はただ、自分の友人を陥れようとしたあの人たちに苛ついただけよ」
「それでも。嬉しかったわ」
私のことで怒ってくれる友人がいること。私は本当に、良い人たちに恵まれているのだと、改めて思った。
「私には、ジェリー・ブライトが勝手に転んだように見えたけれど?」
腕を組んで彼女たちを睨むジーン。……私が反論しなくてはいけないことだと思うのだけど、ジーンのほうが素早かった。ジェリーは「そんな……酷い……」と涙を浮かべてちらりとジーンを見る。パンッ、とジーンの身体に向けられた魔力が弾けたのが見えた。
「……あなたは本当に、ジェリー・ブライトなの……?」
その魔力には覚えがあった。女子寮に充満したあの重苦しい魔力。
「……ジーン様は随分とエリザベス様の肩を持つのですね」
ジェリーの隣にいる女性がそう言った。クラスが違うと名前もわからない。ジーンはそれを聞いて小さく微笑みを浮かべた。
「当たり前でしょう? 私とエリザベスは二年前からの友人。知り合って間もないジェリー・ブライトを、どうして私が信用するとお思いになったのかしら?」
自身の胸元に手を置いて、ずいっと前に出て彼女たちに尋ねる。
「あら、友人関係は長ければ長いほど良いというわけではありませんでしょう?」
「私が言っているのは、昔からの友人と知り合って間もない人と、どちらのほうが信用出来るかということ。問題をすり替えないで頂ける?」
……すごいわ、ジーン。悔しそうに表情を歪めるジェリーのクラスメイトたちに、ジェリーは小さく眉を下げて、「ごめんなさいね」と声を紡ぐ。
「エリザベス様がお小さくて見えなかったのかもしれません」
……私の身長が低いのは見ればわかることだけど、嫌味に聞こえるのは気のせいかしら。
「あなたね……」
「良いのよ、ジーン。でも、おかしいわね。あなたは私とすれ違った途端に転んだ。私たちは歩いていたし、どうやって向こう側からくるあなたに足を引っかけられたのかしら? 足を引っかけるなら、立ち止まらないといけないでしょう? 言っておくけれど、私の運動神経は普通だから、歩きながら足を出すなんて芸当無理よ? それに、そんなことをしていたら、変な動きになるでしょう? あなた方、私がそんな変な動きをしていたと思うの?」
実際に私は動いてみた。周りの人たちはちらちらと私たちを見ていて、そのうちの一人が「エリザベス様の動きは自然でしたわ」と声を掛けてくれた。分が悪くなったと判断したのか、ジェリーたちは眉間に皺を刻んでからなにも言わずに去って行った。……ジェリーのあの魔力。どこかで感じたことがあると思った。……マザー・シャドウの魔力と、似ているんだわ……。
「行きましょう、エリザベス」
「……うん。あ、あの、お騒がせして申し訳ございません。……声を掛けてくれてありがとう」
「エリザベス様……、いいえ、すみません。声を掛けるのが遅くなってしまって……」
「いいえ。本当に助かったわ。ありがとう。それでは、また」
小さく頭を下げてこちらを見ている人たちに謝罪を口にすると、声を掛けてくれた女性が申し訳なさそうに眉を下げていた。……こんな風に、気にかけてくれる人がいることもありがたかった。軽く手を振ってその場を去る。……アル兄様に、話すべき、よね。アル兄様を探さないと。
ジーンが心配そうに私を見ていたから、私はにこりと笑みを浮かべて、ジーンの腕に自分の腕を絡め、彼女を見上げた。
「ありがとう、ジーン」
「私はただ、自分の友人を陥れようとしたあの人たちに苛ついただけよ」
「それでも。嬉しかったわ」
私のことで怒ってくれる友人がいること。私は本当に、良い人たちに恵まれているのだと、改めて思った。
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