上 下
160 / 353
3章

3章22話(232話)

しおりを挟む

「……前世ってそんなに大切か?」

 飲み物をこくりと飲み込んだ後に、ハリスンさんが軽く首を傾げた。私とイヴォンは目をぱちぱちと瞬かせて、それから「え?」と聞き返してしまった。
 ハリスンさんは椅子の背もたれに身体を預けるようにしてから、言葉を続けた。

「なんというか……、先代の人たちが築いて来たものは大切だけど、前世の自分が今の自分ってことにはならないだろ? 魂は同じかもしれないけど、記憶もないんじゃまるっきり『別人』じゃないか?」

 私とイヴォンは目を丸くして、それから数回瞬かせて、ハリスンさんの言葉をもう一度思い返した。そして、思わずクスッと笑った。

「エリザベス嬢?」
「ふふ、申し訳ありません。ただ……、本当に、そうだなぁって思って」

 口元を隠すように手を添えて、笑い続ける私にイヴォンがそっと私の肩に手を添えた。私はイヴォンとハリスンさんに対して頭を下げた。

「ありがとうございます。話をして、なんだかスッキリしたわ」
「それなら良かった。うん、顔色も大分良くなったわね。ハリスン、私はこのままリザを送ろうと思うのだけど、あなたもついて来てくれる?」
「もちろん、マイレディ」

 そう言って恭しくイヴォンの手を取り、手の甲に唇を落すハリスンさんに、イヴォンは少し頬を赤らめて、私はそんなイヴォンたちを見てなぜか照れてしまった。ハリスンさんは本当にイヴォンのことが好きなのね、と心の中で呟いた。
 買ってもらった温かい飲み物を飲み干して、お金を払おうとしたけれど止められた。

「舞姫に奢るって経験、滅多に出来ないしな」

 とのこと。
 私はイヴォンに視線を向けると、イヴォンは小さくうなずいた。

「ごちそうさまでした」
「どういたしまして。それじゃあ、行こうか」

 イヴォンとハリスンさんに控室まで送ってもらった。私が戻ると、ジーンとディアが迎え入れてくれた。そして、イヴォンがふたりにさっきまでのことを軽く話した。

「……やっぱり行かせないほうが良かったかしら。ごめんね、止められなくて……」
「ジーンのせいじゃないよ。でも、ありがとう」

 ぎゅっと私を抱きしめてくれたジーンに、私もぎゅっと抱きしめた。ディアも心配そうに見ていたから、私はそっとディアの袖を摘んだ。

「……イヴォンたちにも話したの?」

 こくり、と小さくうなずく。そして、ジーンとディアがふたりに問いかけた。

「誰か、後をついて来なかった?」
「そんな気配はなかったよ。気付いていれば恐らく、精霊たちが警戒するだろうし……」
「……前世の話、も聞いたのよね?」

 おずおずと尋ねるディアに、「ええ」とイヴォンが答えた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

恋愛 / 完結 24h.ポイント:766pt お気に入り:713

9歳の彼を9年後に私の夫にするために私がするべきこと

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,485pt お気に入り:104

車いすの少女が異世界に行ったら大変な事になりました

AYU
ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:489pt お気に入り:53

不完全防水

BL / 完結 24h.ポイント:411pt お気に入り:1

mの手記

現代文学 / 連載中 24h.ポイント:1,391pt お気に入り:0

記憶がないっ!

青春 / 連載中 24h.ポイント:1,618pt お気に入り:1

夫の浮気相手と一緒に暮らすなんて無理です!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,469pt お気に入り:2,711

【BL】死んだ俺と、吸血鬼の嫌い!

BL / 完結 24h.ポイント:156pt お気に入り:240

進芸の巨人は逆境に勝ちます!

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:142pt お気に入り:1

地味だからと婚約破棄されたので、我慢するのをやめました。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:113pt お気に入り:5,923

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。