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3章
3章73話(283話)
しおりを挟むがばっと起き上がる。胸の鼓動が早鐘を打っていた。今のは、一体なんだったの……? とにかく、落ち着かなくちゃと何度も深呼吸を繰り返した。
「……どうしたの、リザ。そんなに深呼吸をして」
ガチャリと洗面所から出てきたディアが驚いたように私を見る。なんでもない、と言おうとしたけれど、言えなかった。なんでもない、ワケがないから……。
「変な夢を見たの。私であって、私じゃない人の感覚で……」
支離滅裂になりながらもディアに身振り手振りで説明すると、ディアがぎゅっと私の手を握った。
「落ち着いて、リザ。ゆっくりでいいのよ」
優しい声色でそう言われて、ようやく落ち着きを取り戻したような気がした。それから、私はディアに夢の内容を話す。ディアは真剣な表情で聞いてくれた。
「……そんな夢を、見たの」
「……そうなのね……。ハンフリーさんの言う通り、リザは『めーちゃん』の生まれ変わりなのかしら……?」
もしも彼の言うことが本当だとしたら、私は月の女神の生まれ変わりということになってしまう。そんなことが、あり得るのかしら……?
「それでも、あなたは『エリザベス・アンダーソン』でしょう?」
柔らかく微笑むディアに、こくりとうなずく。そうよ、前世の私が誰であっても、今の私は『エリザベス・アンダーソン』。アンダーソン家の長女であることに変わりはない。
「……うん、そうよね」
夢は自分の記憶を整理するために見ることもある、って聞いたことがあるし、きっとハンフリーさんの話を聞いていたから、そんな夢を見たんだわ。あれが本当にあったことかどうかなんて、私には知る術もないのだし……。
「ありがとう、ディア。話を聞いてくれて。なんだか落ち着いたわ」
「それは良かった。今日で六日目ね。最後までがんばりましょう?」
「ええ!」
ジーンを起こさないように小声で話す私たち。ジーンは「うう、ん……?」とゆっくり目を開けた。私とディアが手を繋いでいるのを見て、キョトンとした顔をして、「どうしたの?」と寝起き特有の掠れた声で聞いてきた。
「建国祭もあと今日と明日だから、気合入れましょうって話していたの」
ディアがふふっと微笑みながら答えると、ジーンが「そっか、そうね」と目を擦り、ベッドから起き上がった。ぐーんと背伸びをするように腕を天井へ伸ばし、「ふはぁ!」と息を吐く。
「……うーん、長期休暇の時は少し身体を休ませないとダメかしら……」
「短い時間とはいえ、踊りっぱなしだものね」
「疲労回復に良さそうなものがあればいいのだけど……」
そんな話をしているうちに、身支度を整える時間になった。素早く身支度を整え、朝食を食べに向かう。
「おはようございます、舞姫たち。今日は特製のドリンクがございます」
「ドリンク?」
「はい。アカデミーのグレン様より、預かっております」
料理担当のグレン先生から? と目を丸くする私たち。そのドリンクはすぐに用意された。
「こちら、はちみつレモンでございます」
「グレン先生が、わざわざ持って来てくださったのですか?」
「はい。舞姫たちの疲労もピークに達しているだろうから、と。お優しい先生ですね」
私たちは顔を見合わせて、それからありがたく、そのはちみつレモンを水で割って飲んだ。本当は炭酸水で飲むとすごくスッキリするらしい。今日は朝食前だから、胃を驚かせないために炭酸はなし。気に入ったのなら、グレン先生に頼んで屋敷に送ってもらうことも可能、とのこと。
「……美味しい」
「本当。スッキリして良いわね」
「確かにこれは飲みたくなるわ……」
なんて、三人で話しながらはちみつレモンを飲んで喉を潤した。
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