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3章
3章72話(282話)
しおりを挟むその日の夜、リタから『エドワード様はしっかりと休みました』と連絡をもらった。わざわざホテルに手紙を送ってくれたみたい。
夜のダンスを終えてからホテルに戻ると、手渡されたの。その手紙の内容にホッと安堵の息を吐いた。どうやらエドの風邪はきちんと完治したみたい。良かった……。
「アンダーソン家から?」
「エドの体調は、もうすっかりよくなったみたい」
「そっか、良かったね」
私の手元を見てジーンが尋ねてきた。手紙の内容を口にすると、ジーンもディアも安堵したように微笑む。
「それじゃあ、明日はエドワード様と建国祭を見て回るのね?」
「うん、そのつもり。エドにも建国祭の思い出をたくさん作って欲しいもの」
ずっと寝込んでいて見られなかっただろうから……。
「そうね。せっかくのお祭りだから、見て回らなきゃ損よね」
くすりと笑いながらジーンがうなずく。
「ふたりとも、明日の用事は?」
「わたくしは、少し疲れが出てきたので、控室でゆっくり休もうと思っていたわ。建国祭、あと二日でしょう? 最後はわたくしがセンターだから、気合を入れたいの」
そうよね、ディアは建国祭最終日の朝、最後のダンスでセンターを務めるもの。しっかりと体調管理をして、最後に最高のダンスをしたいわよね。
「私はちょっと用事があるわね、仕事関係で」
……商談でもあるのかしら? 建国祭でも仕事関係の用事があるとは、大変ね……。いえ、むしろ建国祭だからこそ、なのかしら。
「とりあえず、汗を流したいわね」
「そうね。お風呂に入ってさっぱりしましょう」
「賛成!」
私たちはホテルの部屋へと向かい、今日の疲れを癒すようにお風呂に入った。ご飯も食べて、明日に備えて眠ることにした。さすがに五日目にもなると、疲労度は増している気がする。
ベッドの上で目を閉じると、すぐに眠りに落ちた。
☆☆☆
――ふわり、ふわり、と浮いているような感覚。辺りは暗闇で、なにも見えない。そのうちに、トン、とつま先がどこかに触れた。
『ここが……地上?』
私じゃない声がした。でも、口を開いているのは私。……なに、これ?
『私、ついに地上に降りることが出来たのね』
土の感触を確かめるように歩く。デコボコとした地面は歩きづらい。
これはきっと、夢、よね。夢を見ているのだと思う。だって、私、こんなに背が高くないし、髪もこんなに……足元に届くほど伸びていないもの。
『――誰だ?』
男性の声がした。女性はぴたりと動きを止めて、声のほうへ顔を向ける。そして、優しく微笑んだ。
『あなたこそ、だぁれ?』
こてんと首を傾げて問う女性を見て、男性がかぁ、と顔を赤らめる。夜で見づらいはずなのに、しっかりと見えた。
『オレは――……』
夢は、彼が名乗ろうとしたところで終わった。
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