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4章
4章1話(301話)
しおりを挟む「エリザベス、準備は出来た?」
「はい、マリアお母様」
建国祭が終わり、あの光の柱を調べるために私はカナリーン王国に向かう。亡国に向かうことになるので、いろいろなものを集めた。私がこれまで作ったアミュレットも荷物に入れた。きっと、なにかの役に立ってくれるだろう。
準備をしていると、マリアお母様が顔を覗かせた。血の繋がりはないけれど、私のことを実の娘のように愛してくれる、お母様。真っ赤なバラを連想される瞳は、心配そうに揺れていた。
「……無理や無茶は、しちゃダメよ?」
「……すみません、どうなるのかわからないので、その約束は出来ません……」
ふるふると首を横に振る私に、お母様はそっと手を伸ばして頬に触れた。いつも温かいお母様の手。今日は、少し冷たかった。
「あなたの無事を望むものがいる。そのことだけ、忘れないでちょうだい」
「……はい、ありがとうございます」
お母様の手に自分の手を重ねて、甘えるように頬を擦る。お母様は一瞬驚いたような表情を浮かべたけれど、すぐに優しく微笑みを浮かべてくれた。
お母様が笑う姿が好き。心の中が、ぽかぽかと温かくなるような感覚がするから。
アンダーソン家の人たちのことも好き。だからこそ、私が出来ることをやりたいの。
そして、ここの人たちを守りたい。
――あの光の柱は、強大なエネルギーだ。魔石と、魔力を持つ者の魂が融合したもの。遠くからでも、解放を求めて叫ぶ声が聞こえた気がした。
触れたら一溜まりもなく、この国も――……。そう考えて、ゾッとした。そうなる前に、対処しないといけない。
「――さぁ、今日はゆっくり休んで、明日に備えるのよ」
「はい、お母様。おやすみなさい」
「おやすみなさい、わたくしの可愛い子」
ちゅ、と額に唇が触れた。お母様は名残惜しそうに手を離し、そのまま部屋から去って行く。その後ろ姿を、私はじっと見つめていた。
パタン、と扉が閉まり、ソルとルーナが出てきた。精霊たちはじっと私を見つめる。視線を落とすと、ソルとルーナがベッドに横になるように促してきた。
まだ休むには早い時間だったけれど、明日の準備も終えていたので素直に従った。
左右にソルとルーナが陣取り、ぽつぽつと言葉をこぼしていく。
「……これは、ソルとルーナの独り言」
「エリザベスは目を閉じていて」
切なそうな声に、私はそっと目を閉じた。ソルとルーナは言葉を紡ぐ。それは、精霊たちの記憶。ソルとルーナを生み出した人との思い出。
「ソルとルーナは、シェイドみたいに自然から生まれていない」
「『カナリーン王国の監視役』として生み出された存在」
カナリーン王国の監視役? ソルとルーナは切なそうに息を吐いた。
「ソルとルーナは、ずっとカナリーン王国を見守っていた」
「建国から滅亡まで、ずっと」
「カナリーン王国が滅亡して、月の女神との契約が切れた」
「本来なら、ソルもルーナも精霊界にはいけず、消滅するはずだった」
「役目の終わった精霊だから……」
私はがばりと起き上がる。それに驚いたソルとルーナの身体がビクッと揺れた。
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