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4章
4章35話(335話)
しおりを挟むリタに手紙をジェリーに届けて欲しいと伝えると、リタは小さくうなずき「お任せください」と頼もしい声が聞こえた。ジェリーにも心配を掛けてしまったし……、そういえば、ディアとも話せていない。
……ジーンやイヴォンにも会いたいわ。
「ねぇ、あとでジーンたちにも手紙を書いて良いかしら?」
リタは手紙を手にして振り返り、数回目を瞬かせてからふわりと微笑む。
「もちろんですわ。きっとお喜びになります」
「そうだと……いいな……」
ベッドに横になっているからか、急に眠くなってきた。まだ完璧に魔力が戻ったというわけではないみたいね……。目を閉じると、あっという間に眠りに落ちた。
☆☆☆
ふわふわ、ふわふわ。身体が浮いているような感じがする。
ああ、夢だ。また夢を見ているんだ。
きょろきょろと辺りを見渡すと、真っ暗な空間でなにも見えなかった。なにもない空間の夢を見るのは、初めてかもしれない。
「誰もいないの?」
私の声に返事はない。ただ、ぼんやりと……淡い光が見えた、気がした。光のほうに視線を向けて近付こうとすると、その光は遠ざかってしまう。
追いかけて走るけれど、距離は縮まらない。
息が切れるくらい走った。たくさん走って――ようやく、あと少しで光に届くというタイミングで、ぱぁっと辺りが真っ白な空間に変わる。
「――なにが起こっているの……?」
眩しくて目を閉じる。呟かれた言葉は困惑に満ちていた。
そっと目を開けると、眩しさはなく、ただただ白い空間にひとりで立っていた。夢とは言え、ひとりぼっちになって心もとない。
……とりあえず、深呼吸をして落ち着こう。心がざわめいているような気がして……。緊張しているのだと、自分でわかる。
数回深呼吸を繰り返して、落ち着きを取り戻してから歩き出す。
どこまでも続きそうな白い空間。
歩いていると、しくしくと泣いている声が、耳に届いた。
一度足を止め、耳を澄ませる。
どこかで、誰かが泣いているのなら……。両耳に手を添えて目を閉じる。どこで、誰が泣いているのだろう?
「――」
聞こえた。泣いている人に近付こうと走り出す。どんどんと大きくなる泣き声に、全力で走った。
そして、しゃがみ込み膝に顔を埋めて泣いている子を見つけた。
とても小さな子だった。三歳くらい、かな?
でも……なんだか見覚えがあるわ。
「……どうしたの?」
「……だれ?」
しくしくと泣いていた子は、窺うように私を見て、身体を硬直させながらも尋ねてきた。
「……ヴィニー殿下?」
金色の髪に紫色の瞳を見て、ヴィニー殿下のことを思い出した。
その子はキョトンとしたような表情になり、首を傾げる。
「だぁれ?」
もう一度問われ、私はふっと表情を緩めて彼の隣に座った。
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