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4章
4章36話(336話)
しおりを挟む男の子はびっくりしたように私を見た。
「私はリザというの。あなたは?」
「……ヴィー……」
……やっぱりヴィニー殿下なのだろう。でも、どうして私の夢の中に? こんなに小さい姿で? 少し混乱しながらも彼が泣いていたことに気付いて、ハンカチを取り出し差し出した。
きょとん、とした表情を浮かべたけれど、素直にハンカチを受け取り、そっと涙を拭う姿は優美だった。
「……なにかあったの?」
そう問いかけると、ふるり、と彼の肩が震え、それからぎゅっとハンカチを握りしめた。
「――……みんながこわい顔をするの」
少し話すのを躊躇ったようだったけれど、ヴィニー殿下はぽつりと言葉をこぼす。怖い顔をする? と首を傾げると、ぽつぽつとなにがあったのかを話してくれた。
「いろんなひとの、いろんなことが視えるの。それを言うと、みんながこわい顔をするの。おにいさまたちも、ぼくのことをにらむの」
……兄弟仲はあまり良くない環境で育ったのね。
二年前に聞いた、『身内ほど他人に近い人』という言葉を、ふと思い出した。ヴィニー殿下は、どのくらい前から……あの王宮で孤独を感じて生きていたのだろう?
「でもね、シリルにいさまやアルがいるから、へいき。ひいおじいさまも、いてくれるもん」
気丈に振る舞う小さな子。シー兄様とアル兄様の存在は、きっとヴィニー殿下にとってとても大切なものだったろう。私がそうだったように。
……私たち、似ているところがあったのかな?
そっと手を伸ばして、ヴィニー殿下の頭を撫でる。さらさらとした触り心地の良い髪を撫でていると、目をぱちぱちと瞬かせて、驚いたような表情を浮かべているヴィニー殿下。
安心させるように微笑んで、撫でていた手を止めて、ぎゅっと抱きしめた。
「えっ?」
驚いたように声を上げる彼。背中をぽんぽんと優しく叩くと、緊張したように強張った身体から力が抜けていったようで、戸惑いながらもぎゅっと私の服を掴んだ。
――つらかったとき、こうして抱きしめてもらいたかった。人肌の温もりに、少しでも
癒されてほしい。
夢の中だけど、そう思った。
そのうちに、すぅすぅと寝息が耳に届いた。そして、そのまま淡い光を放ち、私の腕から消えてしまった。……ヴィニー殿下が夢から覚めた、のかしら? もしかしたら、同じ時間に眠りに落ちたのかもしれないと思うと、なんだかおかしかった。……そして、私もそろそろ眠りから覚めたいのだけど、どうすればいいのかしら?
立ち上がって、ゆっくりと深呼吸をする。
そして、また歩き出した。この夢は、私になにを見せたいのだろう?
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