265 / 353
4章
4章37話(337話)
しおりを挟むあてもなく彷徨い、今度はまた暗い場所に来た。そして、また泣いている声が聞こえた。暗い場所で泣く子どもの声。……とは言っても、子どもは声を押し殺して泣いていて、時折我慢できずに声が出ているようだった。
――その泣き方を、知っている。
子どもの姿がはっきりと見えてきた。私の存在に気付いたのか、子どもが恐る恐ると言うように顔を上げた。銀色の髪が揺れて、黄金の瞳が私の姿を捉える。そして、ハッとしたように左側の顔を隠した。
……『私』だ。
「……どうしたの?」
自分で自分に問いかけるのは、少し滑稽かもしれない。出来るだけ、優しく微笑む。幼い……三歳くらいの『私』は、じっと私の姿を見つめていた。そして、口を開く。
「……こわかったの」
「そうね」
炎に皮膚が焼かれる感覚を、今でも覚えている。きっと一生忘れることはないだろう。
「ジュリーを守ったことに、こうかいはしていないの。だって、私は『おねえちゃん』だもの」
双子の姉として生まれた――つもりだった。二年前までは、そう信じていた。真実を知った今となっては、なんとも言えない気持ちになる。それでも、彼女たちは私の異母妹であることに変わりない。
「……でも、どうして私だけこうなっちゃったんだろう?」
……これから、ファロン家はどんどんと『私』を蔑ろにして、孤立していく。そのことを思うと、胸がズキンと痛んだ。
すっと『私』に手を差し出す。右目を丸くする彼女に、声を掛けた。
「顔を隠さなくて良いわ。私は、すべてを知っているから」
「すべて?」
「そうよ、ジェリー・ファロン。私は、あなたをよーく知っているの」
だって、私だもの。過去の記憶なのかな、この夢は。でも、私とヴィニー殿下はこの時期に会っていなかったと思う。
それとも、私が作り上げた幻影なのかしら?
少し迷ったようだったけれど、『私』は差し出された手を掴んだ。きゅっと優しく握ると、驚いたように私を見上げ、それから左側の顔を隠していた手を下ろした。
「どうして知っているの?」
「どうしてかしらね? でもね、これだけは言えるの。――あなたは幸せになれるよ」
「……しあわせ?」
「そうよ、幸せ。その幸せに辿りつくまで、まだまだ時間はかかるけれど……。諦めないで、その時期が来るまで、待っていてね」
そう言うと、泣いていた子は「本当に?」と疑うように私を見る。それはそうだろう。
「本当よ。十三歳になったら、運命が動き出すの」
――そう、あの日、アル兄様に助け出されてから、私の運命は回り出したと思う。今でも不思議なことだけど、あの日、アル兄様がファロン家に来てくれたことがきっかけで、いろいろなことが廻り始めた。
それを運命と言わずにして、なんと言えば良いのかわからない。
「……そっかぁ……」
ホッとしたような声だった。そして、くいっと私の手を引っ張る。
「ジェリー?」
「――しあわせに、なれたんだね」
ざぁ、と『私』の姿が変わる。私よりも背が高く、火傷もなく……、ふわりと花が綻ぶように微笑むその姿を見て、私は息を呑む。
「――あの子たちは、精霊界に居るわ。魔力を使い果たしてしまったから、精霊界で魔力を蓄えているの。あとで迎えに行ってあげて」
そう言って、彼女の姿は消えていった。それと同時に、意識が浮上するのを感じた。
目を開けると、リタとタバサが傍に居てくれたことがわかり、彼女たちに声を掛けると、ふたりは同時にばっと私を見た。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
8,762
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。