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4章
4章87話(387話)
しおりを挟む「なにしてるんだ?」
「お茶会の準備です、シー兄様」
「お茶会?」
キョトンとした表情を見せるシー兄様に、ジーンたちとたくさん話をするためにお茶会を開くことを話すと「へえ」と感心したように言葉をこぼす。
「それは楽しそうだね」
「シー兄様も参加しますか?」
「いや、オレはいいよ。リザたちで楽しんで」
「わたくしは構いませんけれど……?」
「いやいや、オレが浮くって。それに、男が居ては話せないことだってあるだろう?」
――私の身体が大人に近付いたことは、たぶん屋敷の全員が知っている。そして、そのことについても触れるのだろうというシー兄様の配慮を感じて、私は小さく笑みを浮かべた。
「ご配慮いただきありがとう存じます、シリル兄様」
「……でもいきなりそんな大人っぽい態度を取られると、寂しいなぁ」
すっとカーテシーをしてみせると、シー兄様は眉を下げて後頭部に手を置く。
それから、私の頭に手を伸ばして撫でようとして、その手を止めた。代わりに跪き、自分の胸元に手を置いて、真っ直ぐに視線を向ける。
「――ヴィンセント殿下との婚約、おめでとうございます、エリザベス・アンダーソン公爵令嬢」
そう言って、パチンとウインクをひとつ。今度は、私がキョトンとする番だった。
「リザとヴィーにはちゃんと言わなくちゃなぁと思っていたんだけど、なかなかこうやって話せなくて。ようやく言えた」
ホッとしたような表情を浮かべるシー兄様に、私は「ありがとう、シー兄様」と手を差し伸べた。シー兄様は私の手を取って立ち上がり、ディアに視線を向ける。
ディアが小さくうなずくのを見て、私の手を離し、今度はディアの手を取った。
「クラウディア王女から聞いていると思うけれど……」
「ええ、聞きました。おめでとうございます、シー兄様、ディア」
改めてディアとシー兄様が付き合っているのだと考えると、なんだか不思議な気持ちになる。もしかしたら、私とヴィニー殿下の婚約も、家族もみんな、不思議な気持ちになったのかな?
「……改めて言われると、照れるわね……」
ぽっと頬を赤く染めるディアは、それはもう可愛らしかった。シー兄様もそう感じたのか、破顔している。
――シー兄様の隣に立つディア。ふたりの表情はとても穏やかで、見ている私もぽかぽかと温かい気持ちになった。
「あの、シー兄様」
「なんだい、リザ?」
「ディアのどこに惹かれたのか、教えていただいても?」
にこっと微笑んでみせると、シー兄様は目を見開いて一気に顔を真っ赤にさせた。シー兄様のそんな顔を見るのは初めてで、ちらりとディアに視線を向けると彼女もじぃっとシー兄様の顔を見つめていた。
「わたくしも知りたいですわ、シリル様」
「えっと、その、あ、ほら、お茶会の準備があるんだろ?」
「それはそうですけれど……」
「気になりますわ……」
私とディアに見つめられて、シー兄様は視線をあちこちに彷徨わせてから、「そのうちね」と言って逃げるように去ってしまった。
私とディアは顔を見合わせて、肩をすくめる。シー兄様の恋の話を、聞いてみたかったなぁ、なんて考えながらディアと一緒にお茶会の準備を進めた。
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