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4章
4章122話(422話)
しおりを挟むふわりと甘い花の香りが漂い、空を見上げると月と星が煌めている。思っている以上に明るい夜空を眺めていると、ヴィニー殿下も空を見上げた。
「綺麗だね」
「ええ、とても」
月の光と星々の煌めきでこの辺り一面が幻想的に見える。まるで世界に私たちしかいないように思えて、思わずヴィニー殿下の手を取った。私が急に手を繋いだから、ヴィニー殿下は驚いたようで「リザ?」と首を傾げる。
「綺麗すぎて、なんだか不思議な気持ちになりますね」
「……まぁ、確かに。様変わりしたよね」
あのおどろおどろしい魔力が満ちていた場所が、こんなに綺麗になるなんて……。ゆっくりと深呼吸を繰り返して、ソルとルーナを呼んだ。
「なぁに?」
「どうした?」
「ソルとルーナは昔の……栄えていた頃のカナリーン王国を覚えている?」
そう問いかけると、精霊たちはぴたりと動きを止めて、こくんとうなずいた。
「ここが昔のように栄えたら、嬉しい?」
キョトンとした顔をして、ソルとルーナはこてんと左に傾げる。どういう意味なのか、と目で問われている気がした。
「カナリーン王国だったこの場所、私にくださるんだって。私はね、この場所に家を建てたいと思っているのだけど、ソルとルーナはその家にも住んでくれる?」
「おうち?」
「エリザベスとヴィンセントが住むのか?」
そうよ、と答えると、精霊たちは目をキラキラと輝かせた。その様子に、ヴィニー殿下も驚いたようで「そんなに喜ぶこと?」と精霊たちに声を掛ける。
「好きと好きが一緒なら」
「いっぱい嬉しい!」
キャッキャッとはしゃぐ精霊たちのストレートな言葉に、私とヴィニー殿下は視線を交わして顔を赤らめた。そんな私たちを見て、ソルとルーナはくるくると私たちの足元を駆ける。とても楽しそうに。
「――おっと、そろそろ戻らないといけない時間だ」
ヴィニー殿下が懐中時計を取り出して中を確認すると、そう口にしてから懐中時計をしまう。
「あれ、シェイドは?」
「あそこ」
きょろりと辺りを見渡してシェイドを探すと、ルーナがくいくいとドレスを引っ張ってシェイドの居るところを教えてくれた。
シェイドは花を摘んでせっせと花冠を作っていた。それがあまりにも綺麗で、シェイドに「器用ね」と声を掛けると、ビクッと身体を跳ねさせた。驚かせてしまったみたいで、申し訳なく思い「驚かせてごめんね」と伝えると、シェイドはふるふると横に揺れ、そろそろと花冠を私に差し出した。
「……私に?」
こくこくとうなずくのを見て、花冠を受け取り頭に乗せる。
「似合うかしら?」
シェイドは嬉しそうに「うん!」と言った。こんなに嬉しそうなシェイドを見るのは滅多にないから、なんだか嬉しい。
「これ、みんなにも……」
シェイドはみんなの分の花冠を作っていたようで、ヴィニー殿下、ソルとルーナの三つの花冠を見せてくれた。
「シェイドの分は?」
「え?」
「シェイドもお揃いにしよう?」
シェイドは「お揃い……」と呟くと、そっと周りの花を摘んで花冠を作り出した。
「リザ?」
ヴィニー殿下が声を掛けてきた。私の頭に乗っている花冠に気付いて、シェイドへ視線を向けると、仕方ないなぁとばかりに眉を下げて微笑む。シェイドが花冠を作り終えるまで、待っていてくれた。
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