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2章:同じことはしないけど
明日の準備 2話
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私もにっこりと微笑む。
マダムは「よろしい」とばかりにうなずいて、近づいてきた。
じっと見つめられ、その瞳に私に対する慈愛を感じて、少しだけ目を見開く。
彼女はどこか安堵したように息を吐き、そっと私の肩に手を置いた。
「思ったよりも元気そうですね」
「心配してくださったのですか?」
「ええ。わたくしの耳にも、噂話が届いていますから」
マダムの耳にまで……!? もしかして、私が知らないだけで、あの婚約破棄宣言は王都の人々に届いているの……!?
それにしても、どんな噂話なのか、気になるような気にならないような。
どうせろくでもない噂話なんだろうから、気にしないほうがいいかもしれないわね。
「ご心配、ありがとうございます。どうぞお座りください。そして、私の頼み事を聞いてくださいませんか?」
「わたくしに頼み事、ですか?」
「はい。――ぜひ、次期王妃候補を、その目で見ていただきたいのです」
ソファに座るマダムを見届けてから、私もソファに座った。
ローレンがお茶を淹れて、それを優雅な仕草で飲みつつ、口角を上げてマダムを誘う。
「それはいつでしょうか?」
「急で申し訳ありませんが、明日の放課後です」
「あら、本当に急ですこと。……いいでしょう。フローラという少女を、この目で見たかったのは事実。どこに行けばよろしいのでしょうか?」
明日のことをマダムに伝えると、彼女は以外にもあっさりと了承してくれて、ちょっとだけ拍子抜け。
もっとこう、いろいろ言われるのかと身構えていたのだけど……
「アレクシス殿下もいらっしゃるのですよね?」
「ええ、おそらくは」
フローラと一緒に来るでしょう、きっと。
どのくらいフローラの『ご友人』が参加するかは、わからないけれど。
マダムは扇子を広げて口元を隠し、目元を細めた。
その瞳の奥に、ギラギラと炎が見えるのは気のせいではない、わよね……?
「ところで、リディアさまはこれからどうなさるのです?」
「……実は、竜の国、ユミルトゥスの方に求婚されていまして……」
フィリベルトさまのことを口にすると、どうしてこんなに頬が熱くなるのかしら。
「まぁ。竜の国といえば、『竜の涙』が有名なところですわね」
竜の涙――それは、万能薬と呼ばれているもの。
守り神である竜が、疫病で苦しんでいる国民たちを憐れんで流した涙。
それが薬になり、国民は救われというおとぎ話。なぜ私が知っているかというと、王妃教育でマダムに教わったから。
「ユミルトゥスの公爵家の方に、求婚されましたの」
「あら、それは素晴らしいですわ。あちらの国の方は愛情深く、結婚すると絶対に離婚しないらしいですわよ」
……それ、愛情深いというか、執着心が強いのでは……?
ともあれ、明日のことをきちんとマダムに伝えられて良かったわ。
それから、少しのあいだ世間話を楽しみ、マダムは帰っていった。
彼女を見送って自室に戻り、ベッドに飛び込む。
――ああ、緊張した! マダムと話していると、勉強になることは多いのだけど、抜き打ちテストを受けている気持ちになるの。
緊張の糸が切れて、私はごろんと仰向けになる。天井に手を伸ばして、ぐっと拳を握った。
すべては、明日――……明日、フローラたちと決着をつけるわ。
マダムは「よろしい」とばかりにうなずいて、近づいてきた。
じっと見つめられ、その瞳に私に対する慈愛を感じて、少しだけ目を見開く。
彼女はどこか安堵したように息を吐き、そっと私の肩に手を置いた。
「思ったよりも元気そうですね」
「心配してくださったのですか?」
「ええ。わたくしの耳にも、噂話が届いていますから」
マダムの耳にまで……!? もしかして、私が知らないだけで、あの婚約破棄宣言は王都の人々に届いているの……!?
それにしても、どんな噂話なのか、気になるような気にならないような。
どうせろくでもない噂話なんだろうから、気にしないほうがいいかもしれないわね。
「ご心配、ありがとうございます。どうぞお座りください。そして、私の頼み事を聞いてくださいませんか?」
「わたくしに頼み事、ですか?」
「はい。――ぜひ、次期王妃候補を、その目で見ていただきたいのです」
ソファに座るマダムを見届けてから、私もソファに座った。
ローレンがお茶を淹れて、それを優雅な仕草で飲みつつ、口角を上げてマダムを誘う。
「それはいつでしょうか?」
「急で申し訳ありませんが、明日の放課後です」
「あら、本当に急ですこと。……いいでしょう。フローラという少女を、この目で見たかったのは事実。どこに行けばよろしいのでしょうか?」
明日のことをマダムに伝えると、彼女は以外にもあっさりと了承してくれて、ちょっとだけ拍子抜け。
もっとこう、いろいろ言われるのかと身構えていたのだけど……
「アレクシス殿下もいらっしゃるのですよね?」
「ええ、おそらくは」
フローラと一緒に来るでしょう、きっと。
どのくらいフローラの『ご友人』が参加するかは、わからないけれど。
マダムは扇子を広げて口元を隠し、目元を細めた。
その瞳の奥に、ギラギラと炎が見えるのは気のせいではない、わよね……?
「ところで、リディアさまはこれからどうなさるのです?」
「……実は、竜の国、ユミルトゥスの方に求婚されていまして……」
フィリベルトさまのことを口にすると、どうしてこんなに頬が熱くなるのかしら。
「まぁ。竜の国といえば、『竜の涙』が有名なところですわね」
竜の涙――それは、万能薬と呼ばれているもの。
守り神である竜が、疫病で苦しんでいる国民たちを憐れんで流した涙。
それが薬になり、国民は救われというおとぎ話。なぜ私が知っているかというと、王妃教育でマダムに教わったから。
「ユミルトゥスの公爵家の方に、求婚されましたの」
「あら、それは素晴らしいですわ。あちらの国の方は愛情深く、結婚すると絶対に離婚しないらしいですわよ」
……それ、愛情深いというか、執着心が強いのでは……?
ともあれ、明日のことをきちんとマダムに伝えられて良かったわ。
それから、少しのあいだ世間話を楽しみ、マダムは帰っていった。
彼女を見送って自室に戻り、ベッドに飛び込む。
――ああ、緊張した! マダムと話していると、勉強になることは多いのだけど、抜き打ちテストを受けている気持ちになるの。
緊張の糸が切れて、私はごろんと仰向けになる。天井に手を伸ばして、ぐっと拳を握った。
すべては、明日――……明日、フローラたちと決着をつけるわ。
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