【完結】婚約破棄された悪役令嬢は、一途な愛を注ぎこまれています。

秋月一花

文字の大きさ
50 / 97
3章:竜の国 ユミルトゥス

乙女な部屋 1話

しおりを挟む
「うふふ、そうねぇ。そういうのは結婚してからね。さぁ、リディアちゃん、ついてきて。案内するわ」
「お、お願いします」

 すくっと立ち上がり、公爵夫人と一緒に応接室を出る。

 公爵とフィリベルトさまに頭を下げてから、ね。

 フィリベルトさまは立ち上がりかけたけど、公爵夫人が後ろを振り返り、彼をじっと見つめて緩やかに首を左右に振った。

 廊下に出て、パタン、と小さな音を立てて扉が閉まる。

「リディアちゃんの趣味がどんなものなのかわからないから、私の趣味にしちゃったけれど……良かったら使ってね」

 うふふ、と楽しそうに笑う公爵夫人は、公爵から愛されている自信があるからか、とても美しく見えた。

 ゆっくりと息を吐き、羨望のまなざしで彼女を見つめてしまう。

「どうしたの?」
「あ、いえ。公爵夫人があまりにも美しくて……」

 するりと言葉がこぼれ落ちた。

 公爵夫人はキョトンとした表情を浮かべて、それから「まぁっ」と弾んだ声で私の肩を軽く叩く。

 そっと肩から腕、腕から手に移動して、きゅっと手を握られた。

「大丈夫よ、リディアちゃん。あなたもすぐに、もっと美しくなれるわ」

 にこりと微笑む姿は、確信を得ている強い瞳が印象的だった。

 どうしてそう思うのかしら? と首をかしげると、彼女は私の手を引いて歩き出す。

「だってリディアちゃんは、フィリベルトに愛されるんだもの」

 あまりにも明るく言われて、「え?」と目をまたたかせた。

「そうそう、私のことはエステルって呼んでね。挨拶の場なのに、名乗っていなかったわよね、私たち。夫はアーノルドという名前よ」

 そういえば、そうだった。

「エステルさまとアーノルドさまですね」

 緊張していて、名前を尋ねなかったことを反省し、彼女たちの前を頭に刻みつける。

「そのうち、『お義母かあさま』や『お義父とうさま』って呼ばれるのかしら、うふふ」

 むしろ、そう呼ばれたいような感じだった。だって、あまりにも明るい声だったから。

「あ、ここよ。一応、フィリベルトの部屋の近くにしたわ。だから、寝るときはちゃんと鍵をかけてね」
「え、ええ……」
「婚約は許可したけれど、油断は禁物よ。男はケダモノになるときがあるもの。あ、それは女もだけどね」

 それはつまり……と考えて、頬に熱が集まるのを感じた。

 私がなにを考えているのか察したであろうエステルさまは、ちらりとこちらを見て扉を開ける。

 視界に入ってきたのは――……これぞ、女の子の部屋!

 という可愛らしいベビーピンクとフリルをたっぷりと使ったインテリアだった。

 どうやら、エステルさまは可愛いものが大好きみたい。

「ど、どうかしら? 気に入らない?」

 不安そうに瞳を揺らしながら問いかける彼女に、慌てて両手を振った。

「とても可愛らしい部屋だと思います。私は好きですよ」

 こういう乙女っぽい部屋、前世で子どもの頃、憧れていたのよね。お姫さまみたいで。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄され家を出た傷心令嬢は辺境伯に拾われ溺愛されるそうです 〜今更謝っても、もう遅いですよ?〜

八代奏多
恋愛
「フィーナ、すまないが貴女との婚約を破棄させてもらう」  侯爵令嬢のフィーナ・アストリアがパーティー中に婚約者のクラウス王太子から告げられたのはそんな言葉だった。  その王太子は隣に寄り添う公爵令嬢に愛おしげな視線を向けていて、フィーナが捨てられたのは明らかだった。  フィーナは失意してパーティー会場から逃げるように抜け出す。  そして、婚約破棄されてしまった自分のせいで家族に迷惑がかからないように侯爵家当主の父に勘当するようにお願いした。  そうして身分を捨てたフィーナは生活費を稼ぐために魔法技術が発達していない隣国に渡ろうとするも、道中で魔物に襲われて意識を失ってしまう。  死にたくないと思いながら目を開けると、若い男に助け出されていて…… ※小説家になろう様・カクヨム様でも公開しております。

公爵令嬢を虐げた自称ヒロインの末路

八代奏多
恋愛
 公爵令嬢のレシアはヒロインを自称する伯爵令嬢のセラフィから毎日のように嫌がらせを受けていた。  王子殿下の婚約者はレシアではなく私が相応しいとセラフィは言うが……  ……そんなこと、絶対にさせませんわよ?

【完結】婚約破棄され毒杯処分された悪役令嬢は影から王子の愛と後悔を見届ける

堀 和三盆
恋愛
「クアリフィカ・アートルム公爵令嬢! 貴様との婚約は破棄する」  王太子との結婚を半年後に控え、卒業パーティーで婚約を破棄されてしまったクアリフィカ。目の前でクアリフィカの婚約者に寄り添い、歪んだ嗤いを浮かべているのは異母妹のルシクラージュだ。  クアリフィカは既に王妃教育を終えているため、このタイミングでの婚約破棄は未来を奪われるも同然。こうなるとクアリフィカにとれる選択肢は多くない。  せめてこれまで努力してきた王妃教育の成果を見てもらいたくて。  キレイな姿を婚約者の記憶にとどめてほしくて。  クアリフィカは荒れ狂う感情をしっかりと覆い隠し、この場で最後の公務に臨む。  卒業パーティー会場に響き渡る悲鳴。  目にした惨状にバタバタと倒れるパーティー参加者達。  淑女の鑑とまで言われたクアリフィカの最期の姿は、良くも悪くも多くの者の記憶に刻まれることになる。  そうして――王太子とルシクラージュの、後悔と懺悔の日々が始まった。

婚約破棄してくださって結構です

二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。 ※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~

tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!! 壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは??? 一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

この婚約は白い結婚に繋がっていたはずですが? 〜深窓の令嬢は赤獅子騎士団長に溺愛される〜

氷雨そら
恋愛
 婚約相手のいない婚約式。  通常であれば、この上なく惨めであろうその場所に、辺境伯令嬢ルナシェは、美しいベールをなびかせて、毅然とした姿で立っていた。  ベールから、こぼれ落ちるような髪は白銀にも見える。プラチナブロンドが、日差しに輝いて神々しい。  さすがは、白薔薇姫との呼び名高い辺境伯令嬢だという周囲の感嘆。  けれど、ルナシェの内心は、実はそれどころではなかった。 (まさかのやり直し……?)  先ほど確かに、ルナシェは断頭台に露と消えたのだ。しかし、この場所は確かに、あの日経験した、たった一人の婚約式だった。  ルナシェは、人生を変えるため、婚約式に現れなかった婚約者に、婚約破棄を告げるため、激戦の地へと足を向けるのだった。 小説家になろう様にも投稿しています。

筆頭婚約者候補は「一抜け」を叫んでさっさと逃げ出した

基本二度寝
恋愛
王太子には婚約者候補が二十名ほどいた。 その中でも筆頭にいたのは、顔よし頭良し、すべての条件を持っていた公爵家の令嬢。 王太子を立てることも忘れない彼女に、ひとつだけ不満があった。

処理中です...