【完結】婚約破棄された悪役令嬢は、一途な愛を注ぎこまれています。

秋月一花

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3章:竜の国 ユミルトゥス

私の気持ち 2話

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 彼の温もりに包まれて、私もぎゅっと抱きついた。トクントクンと胸が高鳴る。

 フィリベルトさまのそばにいたい。

 彼に私を見ていてほしい。

 ――これから先、ずっと。

 その気持ちを込めて、そっと背中に回した手。

 夜空の下で、私たちは初めて――唇を重ねた。

 まるで、引き寄せられるかのようだった。

 ほんの少しだけ身体が離れ、彼の手が私の顎に添えられて、静かに目を閉じると唇に温かく柔らかいものが触れた。

 少しかさついている、彼の唇。

 ちゅ、ちゅっとリップ音を立てながら、唇を何度も重ねていく。

 唇から伝わる、彼の気持ち。

 その感覚に、ふわふわとした気持ちになってしまう。

 だって彼は伝えてくれている。

 ――私のことが、好きだって。

 ゆっくりと唇を離して、私たちはただ見つめ合った。

 互いに視線を離さず、また引き寄せられるように唇が重なる。

 きゅっと彼の服を掴むと、唇が離れてまた抱きしめられた。

「……これは、夢ではありませんよね?」
「もちろんですわ、フィリベルトさま。私も貴方あなたを望んだのです」

 貴族として、結婚することは公爵家の令嬢としての義務だ。

 でも結婚するのなら――私が心から望んだ人がいい。

 幸いにも、フィリベルトさまは、私のことを本気で望んでくれている。

 こつんと額が重なり、彼は「……ありがとう」と小さくつぶやいた。

 その言葉を伝えたいのは、私のほうなのに……

 婚約破棄を宣言されて、前世の記憶を思い出してから、早数ヶ月。

 来期からの留学ということで、私はそのあいだ、後悔のないように過ごしていた。

 彼は、そんな私の傍にいてくれた。

 ときどき、デートに誘ってくれたので、いろいろなところに足を運んだわ。

 そうして彼と過ごしているうちに、惹かれていることに気づいた。

 私は婚約を破棄されたから……本当に、彼と結ばれてもいいのだろうかと悩んでいたの。

 ――でもね、エステルさまのお話や、夢に出てきたリディアと会話したことで、心が決まったのよ。

 彼を信じたい。愛されたい。愛したい――と。

 この世界で、生きていく。

 生きていくからこそ――全力で、恋愛をしたいと思ったの。

 前世の私には恋人はいなかったから、恋愛がどんなものなのか、体験することはなかった。

 勉強や仕事に追われる人生だったし、恋愛よりもそっちのほうが楽しかったのも否めない。

 それに、恋愛成分は乙女ゲームで摂取できたから、現実の男性に興味が湧かなかった。

 今思えば、なかなかの理想主義だったのかもしれない。

 だからこそ、この世界ではしっかりと恋愛をしたい。

 愛し愛され、幸せな家庭を築いていく。

 そんな『普通の恋愛』を望んだ私に、彼はしっかりと向き合ってくれた。

 そのことが、とても嬉しかったのよ。

「どうか私に、貴方を愛させてください」
「――もちろんです。リディア嬢。オレの愛に、溺れてください」

 ――なんて、甘美な言葉なのかしら。
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