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第一章「和」国大乱

第二十節「再会」

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「おはよう。俺は昨晩、悪夢を見たよ」
「奇遇だね、はじめちゃん。私もだよ」

 翌朝、身支度を終えた俺たちは、宿の前で合流をした。結は朝の寒さに身を縮めていたので、俺はその身体を後ろから抱えていたが。

 昨日は、宿の女将さんのホスピタリティによるふかふかの布団のおかげで、ちゃんと休めた――と、言いたいところなのだが。三輪さんに振り回されるという悪夢を見てしまったおかげで、全く休んだ気にならないのだった。

 結に至っては、その悪夢で目を覚ましたのだというから救いがない。そのおかげで、普段は眠り姫のように睡眠を貪る彼女が誰に起こされずとも起きたのが、めっけものというべきか。

 朝食を食べた後、すぐに俺たちはあの地獄車に乗り込み、これまた爆速の力漕で目的地に向かう。胃から中身が出てきそうになるが、歯を食いしばってこらえ、舗装さえされていない悪路をずかずかと進んでいく。
 
 と、そんな調子で、新幹線顔負けのスピードで、しかし新幹線の乗り心地とは比べようもない(もちろん悪い意味で)車に乗っていると。

(ねえ、富士山が見えるよ、はじめちゃん!)
(……あ、本当だ)

 結に促されて視線を上げると、空にそびえて天晴な様相を呈する富嶽ふがく――日本の宝の、富士山が見える。

 いや、決して物見遊山ができるような状況にはないのだが、しかし景色が大きく変わるというだけでも、今の俺たちにとっては欣快きんかいの至りなのだ。地獄の中に、極楽を見いだせたような――

(――うーん。あの富士山がおっぱいなら、一体日本は何カップなんだろうか……)
(やばい、うちの旦那がそろそろ限界だっ!)
 
 しっかりしろっ! と、結はテレパシーで言いつつ、俺の頬をはたく……はっ、あぶないあぶない。富士山を前にして、訳の分からないことを考えてしまっていた。

(はあ、ほんとならもっと、ゆっくり観光したいけど……、こんな超特急じゃ、おちおちトークもできないよ)
(口を開いた瞬間に、風圧で口内の水分が消し飛ぶからな)

 さっきから俺たちがテレパシーで会話している理由が、そこにある。朦朧としている俺だって、こんな豪速の空気抵抗の中、口を開けるなどという真似はしない。

(そう言えば学生時代、富士山の近くのテーマパークに二人で行ったよね。あそこの絶叫、楽しかったよね~。二人してめっちゃ盛り上がってさ)
(どうやらお前の記憶は、めっきり改竄されているようだな)

 正確に言うと、一人でテンションをぶち上げている結が、グロッキーな俺を振り回したのだ――あの時も、口が乾いて仕方なかった。さしものジェットコースターも、今日ほどの乗り心地の悪さではなかったが。

(まあ、お化け屋敷で怖がってる結を見るのは、かなり胸が空いたけど)
(彼女が怖がってるのを見て胸が空くとかいう彼氏、ありえる?)
(だって、いつもは活発なのに、すっごい縮こまってただろ? 何か面白くて)

 当時は付き合って日が浅かったので、意外な一面を垣間見られた気がして、何だか嬉しかったのだ。

 しかし、この世界に来てからというもの、俺たちは様々なホラーの場面に遭遇している。数々の修羅場を乗り越えてきた結の、お化けに怯えて縮こまる姿はもう見られないのかもしれない。

 そう思うと、少し悲しくもある。もう一遍くらい、お化けに怯懦している結を見てみたいものだ。

(まあ、山姥ほどの妖怪に逢うなんてこと、そうそうあるとは思えないけどね)
(そりゃそうだ)

 と、そんな具合で。風圧に命を削られつつも、いつものように駄弁り、一時間弱ほど経過したころだろうか。道のり的には順調に進み、勾配が30%はあるかという登り坂に差し掛かったところで。
 
 人の集まりが、俺たちの視界を横切った。

 一瞬、『ああ、人がいるなあ』という程度の認識で流してしまいそうになったが――よくよく考えてみると、こんな山奥で、こんなに町から離れた地点に、人が固まっているというのも奇矯な話だ。

 移動中というならまだしも、彼らはその場に留まっている様子だったし。何か、不穏な気配を感じざるを得ない……考えすぎて、疑り深くなっているだけか? 

 いやしかし、結も(なんか気になるよね)と言っているし、用心を重ねて重ねすぎることはないだろう。そう思って俺は、口の乾燥を抑えるように腕で覆って、運転中の三輪さんに話しかけた。

「三輪さん、ちょっと車を戻してくれるか?」
「うん、分かった」

 言うと、三輪さんはそれに従い、車を方向転換させる。いつもは間延びするような語尾の音引きがない。彼女もまた、異常を感じ取ったのだろうか。

 急旋回&急発進&爆速降坂ばくそくこうはんにより、俺の三半規管は用を失ってしまったが、それでも気を入れて踏ん張り、人の塊の前で下車をする。

「ちょっとあなたたち、こんなところで何してるの?」

 テンションを業務モードに切り替え、いの一番に結が集団に話しかける。よく見ると、そこには身なりがかなりみすぼらしく、しかし武装をした様子の男たちが、雑木が開けた所に十人ほどで固まっており……、いや。

 男だけじゃない。男どものその中心に、これまた汚い身なりの、小さい女の子の姿も見える。まるで彼らが、その娘を取り囲むかのような――捕らえているかのような体勢だ。

 突如現れた俺たちを、彼らは敵意剝き出しの眼光で睨みつける。

「げっ、こいつらもしかして、都の検非違使か? なんでこんなところに……」
「ちっ、こんな汚ねえガキ一人、追いかけてくるんじゃなかったぜ。でも、しょうがねぇよな。おなごは高く売れるんだからよぉ」

 そんなことを言いつつ、男たちは各々武器を構え、森の中にフォーメーションを築く。どうやら、俺たちと言葉を交わす気はないらしいが……。

「……高く売れるって、どういうことだ?」
「き、気を付けてください……! こいつら、おそらく山賊です……!! それも、人身売買にまで手を出している……と、とんでもない悪党です……!!」
 
 完全に車酔いに支配されている様子の太逸だいつ君が、それでも検非違使としての気位きぐらいを発揮し、声を張り上げて忠告をする。

 なるほど、山賊。白痴の俺でも、その概念くらいは知っている。生で見たのは、これが初めてだったが。

 しかし、山々を通る人を襲い、強奪するだけに飽き足らず、年端も行かぬ童女を誘拐しようとは、とんでもない奴らである――海水浴の時のように懊悩するまでもない、単純な悪だ。

 検非違使として、どころか人間としても、許して置けない。

「雛ちゃん!」
「分かってるっ!!」

 結が三輪さんの名前を呼ぶと、主旨を瞬時に理解した彼女は、地に手をかざし、即座に天性を――大地を操る『隆沈りゅうちん』を、女の子の足元を対象に発動させる。

 刹那。童女の下の大地が勢いよく、大蛇のように長く連なって盛り上がり、その勢いで娘は、宙へと舞い上がってしまった。

 それを確認した三輪さんは、今度は自分の足元目掛け『隆沈』を発動させ、同じく宙を飛ぶ――そして、空中ではっしとその娘を抱きかかえた彼女は、再び俺たちの後ろへと着地した。

 よし、女の子は無事に保護することが出来た。後は、目の前のこいつらをしょっぴくだけだ。

「……お、おい! てめえら、なんてことしやがる!!」
「検非違使だかなんだか知らねえが、調子こいてんじゃねえぞ!!」
「そうだぜ! 発現者だって威張ってるかもしれんが、うちの大将だって百戦錬磨の発現者なんだぜぇ!?」

 あっという間に女の子を取られ、呆けていた山賊たちは、しかし置かれる状況を理解すると、怒り狂った様子で思い思いに威嚇を飛ばしてくる。

 だが、まるきり虚勢というわけでもないようだ。彼らの主張通り、どうやら向こう側にも発現者がいる。おそらく一番奥にいる、左目に眼帯を付けている奴だろうが……、

 正直、魔力の量も流れも大したことがない。目測、肆等級と言ったところか?

 何にせよ、俺たちの敵ではない。

「結、殺すなよ」
「不本意だけど、了解」

 短く言葉を交わした俺たちは武器を構え、地面を蹴って賊との距離を詰める。

 二刀流の結が俺に先んじ、前方の三人を『雷刃らいじん』と『風刃ふうじん』の峰で打った。峰とは言え途轍もない威力なのだろう、そいつらは短く吐息をもらし、その場にひれ伏してしまう。
 
 続けて俺は、左右の端にいた二人を『牛銃ごず』で撃ちぬく。急所は外したが、その麻痺の効果が一瞬で体に回ったのか、硬直したまま地面に臥す。

 上々の滑り出し。これで残るは、七人か。
 
 山賊は俺たちの猛攻にたじろぐが、すぐに体勢を立て直し反撃にうつる。後方の弓を持った二人が、前にいる結めがけ、一対の矢を飛ばしてきたのだ。

「よし、狙いはばっちりじゃ!!」
「眉間ぶち抜かれて死ねぇ!!」

 もう少しで結に届く矢を見て、賊どもは頬を歪めるが――

「――ステイト・チェンジ!」
 
 結がにやりと口のを吊り上げ、元気よく唱えると、

 空中のすべての矢が突如発火し、燃え盛り――瞬く間に、灰燼と化して消えてしまった。
 
「な、なあにいっ!?」
「くっ、魔術か……!?」

 自分たちの優勢が覆され驚いたのか、口々に叫ぶ山賊たち。

 そう。今結が発動させたのは魔術だ。が、それは特殊な、独特な魔術だった。

 それは、俺一人でも、結一人でも発動させることのできない魔術。それは、『比翼連理』が発動しているときしか、使えない魔術。
 
 俺たちは、天性を共有しているのと同じく、より高度な魔術を、いくつか共有しているのだ。

 この、『ステイト・チェンジ』という魔術は――俺は『状態変化じょうたいへんげ』と呼んでいるが――対象物、又は範囲を定め、その温度を操るという魔術だ。

 水を氷にしたり、水蒸気にしたりということもできる。今、矢がすべて消えたのは、それらの温度を急激に上げて燃やしたからである。

 結はひるんだ輩どもの隙をつき、『雷刃』の峰で更に三人を屠る。残るは四人だが、そのうちの発現者ではない三人が、三方から結にとびかかった。

 このままでは、まずいかもしれないな……と思った俺は、助け舟を出してやることにした。

動静自在どうせいじざい

 俺が、聞こえるか聞こえないかの声でそう唱えると、

 結に向かっていく三人が、ふっ、と、空中に浮かび上がる。
 
「うわ……っ!?」「う、浮いて……!」

 例えどんな豪傑だろうと、空に浮かんではなすすべもないだろう。山賊たちは、口をあけて手足をじたばたとしている。俺はそれを認めると、また『牛銃』で弾丸を三発撃ち込む。

 程なくして、こいつらの体が固まったのを確認した俺は魔術を解き、地面に叩き落とした。

 今の『動静自在どうせいじざい』は――結は『フリー・ムーブメント』とか呼んでいるが――名のとおり、対象を自由に動かし、止めることができるというものだ。

 空中でホバリングさせたり、壁にいきおいよく叩きつけたりと割と器用なことが出来る。

「今の手助けいらなかったよ、はじめちゃん」
「違ぇよ。今俺が手出さなかったら、お前こいつら殺してたろ」
「いや、全く、そんなつもりなかったけど……」
「知ってる。このセリフが言ってみたかっただけだ!」
「全くこのひとは……」
「お、おいっ! てめえら、な、何悠長に話してやがんだ!?」

 俺がひそかにテンションを上げていると、仲間を失った恐怖からか、残ったひとり――彼らが言うところの大将とやらが、半狂乱になって声を荒げた。動揺からか、少し声が上ずってさえいる。

「へ、へへ。お前らがどんな奴か知らねえが、俺もれっきとした発現者なんだよ――喰らえ!『催眠眼さいみんがん』!!」

 言って大将は、ここぞとばかりに顔面に張り付く眼帯を投げ捨てる。紫色に怪しく光るその目で、しきりに結の目を見つめているようだ。

「かかったな! 俺の『催眠眼』は、目を合わせた者を俺の奴隷としてしまう魔術さ!! これでお前は、完全な俺の傀儡くぐつだ……手始めに、お前のお仲間たちを殺せ!!!」

 どうやら相手は勝ちを確信したらしく、俺たちを指さしながら不快な言葉をまくし立てている。どうやら、自分の魔術に絶大な自信があるらしい。

 しかし、当の本人である結はと言うと、

「……ふん、素人が」

 と、男の戯言を意に介さず、両の刃をその体躯めがけて振り下ろした。

「があっ!?」

 不意を突かれて、鋭い悲鳴を上げながら倒れ込む大将。勿論これも峰打ちだが、どうやら鎖骨にクリーンヒットしたらしい。うわ、あれ完全に砕けてるな。見るも痛々しい。

「な、何故……、俺の『催眠眼』が……」
「知らないようだから教えてあげるけど、そういう魔術って、自分と同格以下のやつにしか普通効かないから。肆等級かそこらのあんたが、弐等級の私たちに適うわけないでしょ」
「ひっ、に、弐等級…!?」
「あと、術名にひねりが無さすぎ! センスの欠片も無い!」

 その言葉を聞いて完全に怖気づいたのか――魔術の術名についてはどうでもいいが――大人しくなる大将これで、残りはゼロ人。つまり、成敗完了か。

「い、いえ! まだです……!! 『拝聴はいちょう』によると、あと二人……! お、お二人の近くに居ます……!!」

 俺たちが一息ついたその時、太逸君が焦ったように忠告をする――まだ、二人いる? それも、俺たちの近く?

「はっ、もう遅いわ!」「死ねっ!!」

 太逸君の忠告と同時に、俺たちの背後に一人ずつ、二人の人影が現れる。両方とも短刀を持っており、これを突き刺そうとしているらしい――隠密の能力でも持っているのだろうか? 

 目測参等級程度。どうやら大将というのは、こいつら二人のことだったようだ。

 ――しかし、その攻撃が俺たちに届くことは、無い。

「「ぐあっ!!?」」

 刃が俺たちの体に届く寸前、その男どもは、真逆の方向にはじき返された。攻撃をした側の山賊のお頭(かしら)たちが、何故か吹っ飛ばされたのである。

「「『向背操縦ベクトル・オペレーション』……!!」」
 
 俺たちの言葉が、綺麗にハモる。決まったな、と、拳と拳をこつんとぶつけた。

 そう、これも、二人で共有している魔術。俺は『向背操縦こうはいそうじゅう』と呼び、結は『ベクトル・オペレーション』と呼んでいるが、これもその名のとおり、動きのベクトルを自由に変えるというものだ。

これを応用し、外表に魔力の層を張り巡らせ、攻撃を跳ね返す。これについては、癪なことではあるが、あの大妖怪の『逆寄せ』からインスピレーションを得たものである。

 俺たちはその二人も無力化し、全員まとめてお縄に掛ける。太逸君によると、もう敵はいないらしい。取り敢えず、一安心である。

「やっぱり強いね~、二人とも~」
「ら、楽勝でしたね、流石です……」
「うん、それは良いんだけどさ……、はじめちゃん!!」
「なんだよ」
「もういい加減、呼び方統一しようよ! 魔法のっ!!」
「いや、こっちのセリフなんですけれどもね」

 そう。これらの共有魔術たち、威力や速度は比類が無いほど強力なものなのだが、一つだけ欠点がある。それは、名付けに関してだ。

 普通、自分の魔法には好きに名前が付けられる。しかし、俺たちは二人でひとつの魔法を共有しているので、名付けの際、両者の意見が衝突してしまったのだ。

 どうしても漢字にしたい俺と、どうしても横文字にしたい結とで、両者とも全く譲らなかった結果、互いに好きなように呼ぶ、という奇妙な関係が出来上がったのである。

「俺としては、絶対に譲る気はない」
「くっ、この頑固者が……!」
「結には言われたくない」
「だいたい、前も言ったけど、はじめちゃんのは分かりにくいの! 私の方が、絶対分かりやすいんだけどっ!!」
「分かりやすいとかそういう問題じゃないし。百歩譲って、『ベクトル・オペレーション』と『ステイト・チェンジ』はまだいいけどさ、何だよ『フリー・ムーブメント』って。社会運動か!」
 
 こいつのネーミングセンスは、直球なのに独特の言い回しでダサいのだ。さっきの魔眼を使っていた奴のことを、言える立場ではないと思う。
 
「全く、この四文字のかっこよさが分からないとは、結もまだまだだな」
「それがそらで出てきたらかっこよかったんだけどねー? 辞書とにらめっこしてたのは、どこのどなたさんでしたっけー?」
「そ、それはしょうがないだろ……」

 何を隠そう、カッコいい名付けをするため、俺は字引を活用し、かなり悩んだという経緯がある。そのことを、結にはいつまでもいじられ続けているのだが。

「ま、まあまあ……い、今はそんなことを言っている場合じゃないですよ……」
「そうそう~、この女の子に、話を聞かないとね~」

 そうだ。そう言えば、童女が誘拐されていたのだった。言い合いをしている場合ではなかった。

 俺は、三輪さんに抱きかかえられている女の子のもとに駆け寄る。だいたい、7,8歳くらいであろうか? 可愛らしい顔立ちだが、こちらを怯えた目で見て、何かをぶつぶつと呟いている――
 
「こ、こいつら、儂を追ってきたのか? まじで? 今や儂は、出涸らし同然のザコだというのに……、というかこいつら、弐等級とか言ったか? 滅茶苦茶成長しとるじゃん……! それに、儂の逆寄せ盗んどるし……、ああ、やべえ。殺される。どうすれば! ひい様!!」
 
 ……ん? なんだ、この娘。一人称が儂って……、というか、全体的に古風なしゃべり方だな。しかも、先述の通り、ボロボロの着物を着てるし。

 この感じは、どこかで見たことがある。そう、まるで、あの時の――俺たちがこの世界にやってきた時に出会った、あの大妖怪のような――

「――山姥?」

 あり得ないとは思いつつも、しかしその名前が、俺の口から自然と漏れる。そう、この童女の雰囲気は、まるきりあの時出会った、山姥のそれなのだ。

 勿論、年齢や姿もまるで違うし、目の前のこの娘は、魔力も皆無に等しい程なのだが。

 で、それを聞いたこの童女の反応はと言うと。

「ぎ、ギクゥ――――!? ち、ちち、違いますけど!? こんなうら若き乙女を捕まえて、ババアとか超失礼なんじゃけど!?」
「「…………」」

 いや、怪しすぎるだろ。

 なんだその古風な驚き方は。口でギクって言うな。

「と、とにかく、助けてくれてありがとうな!! わ……、私はもう帰るから!! じゃあね!!」
 
 そう言ってその童女(?)は三輪さんの腕を振りほどき、全力で逃げようとしたのだが、二、三歩進んだところで、小石に躓いて転んでしまった。

「あうっ!」
 
 可愛らしい声を上げてその場に倒れた拍子に、その娘(?)の懐から何かが滑り落ちる。

 近づいて拾い上げると――何とそれは、包丁だった。形は普通の徳用包丁のようだが、刀身が錆びきっており、持ち手の木もボロボロに朽ちている。

 間違いない。これはあの時、山姥を仕留めるときに結が投げた、山姥自身の包丁である。どうやらあそこから逃げるとき、拾っていったらしい……やはり、思い入れのあるものなのか?

「つーか、やっぱ山姥じゃん、お前」

 俺がそいつの目を見て問い詰めると。

「……ばれちゃった、てへっ♡」

 童女改め山姥は、そう答えたのだった。

 クリっとした目をバチンとウィンクさせ、舌をペロッと出して。

 ……思えばこいつは、捨て台詞も古風だったが、正体がばれたときも、こんなに古風なリアクションをするとは……

(出逢っちゃったね。山姥レベルの大妖怪)
(レベルていうか、本人なんだけど……)

 と、こんな具合で、何だか数奇な縁が働いて。

 俺たちは、因縁の宿敵に再会したのであった。
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