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・屋敷編

Wed-08

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 夕刻が近づく。あわただしく廊下をかけ始める使用人たちが、来客の準備を始めだした。
 この時間帯が、この屋敷にとっての「華」だ。
 それは終わりのない夢のように、何度も、何度も、毎日、決まった時間に始まり、繰り返されていく。
 まるで悪夢だ。
 終わらない夢ほど性質タチの悪いものはない。
 まるで、断ち切る方法を忘れてしまったかのように、今日も、屋敷は自らを飾り立てる。数多の「花」たちが花弁を散らすことによって。

「……相変わらず、悪趣味なことで」
 青年のぼやきに、減らず口だ、と男の唇だけが動いた。
 屋敷の宴が開始されるとともに始まる生贄のショーに引き出されてみれば、この気持ちもこの男にわかるかもしれない。
 藤滝は姿を一瞬だけ宴会場に出して、客たちにさっと挨拶すると、すぐに奥へと引っ込んでいく。藤滝の合図とともに始まる"前菜"の進行は、使用人たちだけでも大抵何事もなく遂行される。
 後ろ手に縛られた前座の花たちが客の前に引き出されると、会場の梁から垂れた縄に手首を縛られている縄を掛けられた。吊るされるにしてはやけに余裕のある長さだ。両足の後ろが床につく、座りこむこともできる。ただ横になったり、その場から逃げようとすれば、かみついた縄が手首を締め付ける。
 ――何をするつもりだ。
 使用人たちがわらわらと桶を用意しはじめた。中に入っていたものを見て、逃げようともがく青年は使用人ふたりがかりでおさえつけられた。
「くそ! 離せ!」
 中にはいっていた注射器のようなものの使い方は、その形状を見ただけで、すぐにわかる。
 背後に一人使用人が青年の尻たぶに手をかけた。ぐっと力をこめて開かされたそこへ、つめたい先端部分が触れた。
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