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しおりを挟む「うう……」
松宮の微かな呻き声が聞こえて、門倉はどきりと胸をはずませた。もぞもぞと、松宮が、蠢きだす。
まだあたりは薄暗い。ちらりと眼球だけ動かして、時計を見た。午前四時半である。
彼と夜をともにして、気が付いたら同じベッドに横たわって寝ていたようだ。
門倉は起きているのがばれないように、瞼をさげた。松宮は、じっと門倉に視線をそそいでいるが、この薄暗さだ。目ざめていることは彼にばれていなかった。
松宮は、ちゅっと音をたてて、門倉の額にキスを降らせた。そのまま、そっと音も立てずにベッドの下に降りる。夜の行為が尾を引いているのか、彼の動作はどこか鈍かった。そのまま、松宮はゆっくりと部屋の外へと向かって行く。
松宮侑汰。
どうしても、彼という人間が門倉は苦手だ。というのも、この松宮、ものすごく性質が悪い。
思いっきり、マイペースだし、自己中心的なままこれまで生きてきた標本ののような人間なのだ。それにくわえて、彼はものすごく快楽に弱い人間で、つねに門倉の下半身を狙ているような妖しい男である。その時間が止まったかのような美貌もあり、門倉にとって、松宮はまさに天敵だ。
そんな松宮であるが、門倉はどうしてもほおっておけないでした。何かと連絡が入れば、そそくさと彼の住まいである高級マンション最上階へと足を運んでしまうし、いそいそと世話をしてしまっている。
自分としては彼は何とか遠ざけたいと思っているはずなのに――と最後に頭を呵々ながら。
だから。
とにかく門倉はむかついているのである。こんなふうに自分を変えてしまった松宮が憎いものであるし、そんな松宮が己のことを茶化してくるのも、腹が立つ。
少しくらい、あいつが嫌がることをしてやろうと思ったって別に変なことではない。
しかし、問題なのは、松宮が嫌がることが、何だか、わからないというところだ。
いじめてやろうと、ちょっかいを出すたびに、マゾっ気を全開にして喜んでくる松宮には萎えるし、門倉が見たいものではない。
と、いうわけで、門倉のこのひそかな思いは今までに一度も報われたことはないのだ。
門倉は、松宮の背中が部屋を出たのを確認して、門倉は伏せていた瞼を持ち上げた。
「……あいつ」
どこへ行くつもりだ?
門倉が知っているいつもの松宮は、門倉が目を覚ます時間には、ぐってりと彼の身体に抱き着くようにして寝ている。それがこんな朝早くに目をさまして、行動開始しているとは。
門倉は大きくあくびをひとつしてから、自分も松宮と同じようにベッドを降りた。そのまま、そっと、彼の後を追う。
松宮は洗面所へと向かったようだ。門倉は音を立てないように、そちらへと足を踏み出した。
電動シェーバーの音がする。
「こんな朝から、何してんだ?」
門倉が声をかけると、松宮は、びくりと肩を震わせた。
「ぎゃっ!!」
叫び声をあげた松宮に門倉は、手を伸ばした。
「あっぶねえ、こんなもん持った手で暴れるな」
「あっ、か、かかかかか門倉さん!?」
「どーも、門倉史明です」
「おおお、起きていらしたのですかななな?」
「大丈夫か? 日本語、変になっていないか?」
「へへへ平気。うへへへへへ」
明らかに様子がおかしい。
松宮は、さっとシェーバーを台の上に奥と、泡が手につくことも気にせず両手で、自分の顔を隠した。
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