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4 困惑と動悸の日々
4‑6 エリオス殿下の提案
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👫
──その考えを、思いを、実践してみる気はない?
エリオス殿下の、いつもと変わらない、穏やかな微笑みで普通に放たれた言葉は、なぜか胸の内で僅かな温度を持って何度も再生され、くるくると回って私を落ち着かなくさせた。
「別に、わたしやセオドアと交際しろとは言わないよ。いきなりは無理だろうし。
君のまわりで、この人とは一緒に居て安心出来るなとか、落ち着けるなって人と、いつもより多く会話してみたり、一緒に食事してみたり、どこかへ出掛けてみたり。深く考えすぎないで。
お互いにいいと思えば、自然と意識し合って交際に発展するかもしれないし、誠実で頼れる人を見極める訓練にもなるかもしれないよ」
言っていることはわかる。と、思う。
いきなり婚姻を目的に交際しろって事ではなく、良い男性か見極めるために、お試しで近しくしてみろという事だろう。
「⋯⋯ですが、クレディオス様との婚約解消が正式に承認されるまでは、いわゆる不貞行為になるのでは?」
「大丈夫だろう。クレディオスが婚約者だと認識している者にとっては、ただの知人としての付き合いだと思うだろうし、あの状態では婚約は解消されるだろうと予測した者は、次の相手を探っているととるだろうから。
それに、リレッキ・トゥーリやラウハ夫人、エミリアにとっては、君とは解消されて新たにエミリアの婚約者となった認識なのだろう?」
「でも、陛下や法王庁の方で、承認されるかは⋯⋯ 王命ですし」
そう。母が、成人してから父と出会い交際期間を殆どおかずに結婚したこと、それまでに同年代の有力貴族の子息達は婚約者が決まっていて選択肢が少なかったこと、母が亡くなった当時、私が一人っ子だったことなどから、アァルトネン公爵家を心配された陛下が下した王命が、クレディオス様との婚姻だった。
王命は、そう簡単には覆らないはず。
「それは、大丈夫かな。ちゃんと認められると思うよ」
何の確証があって仰っているのかは解らないけれど、かなりの確証を持った言い方だった。
「私は、交友関係があまり広くないので、また、公爵家の跡取りとしての勉強と魔法の修練、読書に時間を割いてきたので、そもそも友人は殆どいないのです。女性も。男性など、殿下の研究室で知り合った方々のほうがまだ親しいくらいです」
「そうか。セオドアとは、お試しはやりづらいだろうね?」
「はい。試しに交際してみましょうと言ったところで、わたくしとの婚姻を望まれるセオ従兄さまに僅かでも期待を持たせることになります。わたくしの心が決まらない内に、気軽に付き合ってみましょうとは、言えないです」
「生真面目だなぁ。お気持ちは嬉しかったので、そういう対象として見られるか、試験期間をくださいと言えばいいのに。
そういう対象に見られず、親戚の優しいお兄さんから進展出来なかった時が不安?」
「⋯⋯はい。もちろん、セオ従兄さまの思いを受け止めて、貴族らしく夫婦になることは出来ると思うのです。クレディオス様よりかはよほど、寄り添える夫婦になれるでしょう」
ただ、セオドア従兄さまがわたくしを一族の長として敬ってくださるだけでなく、ひとりの女性として想ってくださるのなら、私との気持ちの温度差が、お従兄さまの負担になったりするのではないのか、それが原因で、将来的に、どちらかが、或いはふたりともが、不幸になるのでは無いのか。それが、素直にお従兄さまの求婚に承諾が出来ない理由。
もちろん、私がセオドア従兄さまを愛せたら、問題はない。
でも、父からも義母からも妹からも、家族の愛情を感じられず、常に求めながらも、自らも愛情を伝えられない卑屈さが、誰かと愛を育めるのか、不安なのだ。
「それは、セオドアの覚悟次第のようにも思えるけど。君は優しいから、同じだけ想えなければ気にしてしまうだろうね。そして、たぶん、それは、セオドアにも伝わってしまうだろう」
そう。そうなってしまえば、セオドア従兄さまを傷つけてしまうことになるだろう。
「そうやって悩む、と言うことは、傷つけてしまうかもしれない結果を恐れていると言うことは、セオドアと前向きに考えているということかな?」
「気心が知れていて、裏切らないと信用できる方で、私を望んでくださる、婿養子に入ってもらえる⋯⋯条件では一番だし、わたくしも、セオドア従兄さまのことは、大好き、だと、思いますから」
その「好き」が、血族のお従兄さまだからではあると思うし、それ以上になれるかは、まだわからない。わからないのだ。
クレディオス様が将来夫になる事が決まっていたので、他の男性を見る必要はなかったし、やることがいっぱいで、友人すら作るヒマもなかった。
恋愛というものが、どんな感じなのかは、この年になってもまだ知らない。
「セオドアの想いに応えられなかった時、その「大好き」なお従兄さまを傷つけたくはないと言うことだね。
そんなに気負わなくてもいいとは思うけど(セオドアとしては、恋してもらえなくても、妻として手に入ればそれでいいのだろうしね)
そうだな、なら、僕と練習してみるかい?」
──その考えを、思いを、実践してみる気はない?
エリオス殿下の、いつもと変わらない、穏やかな微笑みで普通に放たれた言葉は、なぜか胸の内で僅かな温度を持って何度も再生され、くるくると回って私を落ち着かなくさせた。
「別に、わたしやセオドアと交際しろとは言わないよ。いきなりは無理だろうし。
君のまわりで、この人とは一緒に居て安心出来るなとか、落ち着けるなって人と、いつもより多く会話してみたり、一緒に食事してみたり、どこかへ出掛けてみたり。深く考えすぎないで。
お互いにいいと思えば、自然と意識し合って交際に発展するかもしれないし、誠実で頼れる人を見極める訓練にもなるかもしれないよ」
言っていることはわかる。と、思う。
いきなり婚姻を目的に交際しろって事ではなく、良い男性か見極めるために、お試しで近しくしてみろという事だろう。
「⋯⋯ですが、クレディオス様との婚約解消が正式に承認されるまでは、いわゆる不貞行為になるのでは?」
「大丈夫だろう。クレディオスが婚約者だと認識している者にとっては、ただの知人としての付き合いだと思うだろうし、あの状態では婚約は解消されるだろうと予測した者は、次の相手を探っているととるだろうから。
それに、リレッキ・トゥーリやラウハ夫人、エミリアにとっては、君とは解消されて新たにエミリアの婚約者となった認識なのだろう?」
「でも、陛下や法王庁の方で、承認されるかは⋯⋯ 王命ですし」
そう。母が、成人してから父と出会い交際期間を殆どおかずに結婚したこと、それまでに同年代の有力貴族の子息達は婚約者が決まっていて選択肢が少なかったこと、母が亡くなった当時、私が一人っ子だったことなどから、アァルトネン公爵家を心配された陛下が下した王命が、クレディオス様との婚姻だった。
王命は、そう簡単には覆らないはず。
「それは、大丈夫かな。ちゃんと認められると思うよ」
何の確証があって仰っているのかは解らないけれど、かなりの確証を持った言い方だった。
「私は、交友関係があまり広くないので、また、公爵家の跡取りとしての勉強と魔法の修練、読書に時間を割いてきたので、そもそも友人は殆どいないのです。女性も。男性など、殿下の研究室で知り合った方々のほうがまだ親しいくらいです」
「そうか。セオドアとは、お試しはやりづらいだろうね?」
「はい。試しに交際してみましょうと言ったところで、わたくしとの婚姻を望まれるセオ従兄さまに僅かでも期待を持たせることになります。わたくしの心が決まらない内に、気軽に付き合ってみましょうとは、言えないです」
「生真面目だなぁ。お気持ちは嬉しかったので、そういう対象として見られるか、試験期間をくださいと言えばいいのに。
そういう対象に見られず、親戚の優しいお兄さんから進展出来なかった時が不安?」
「⋯⋯はい。もちろん、セオ従兄さまの思いを受け止めて、貴族らしく夫婦になることは出来ると思うのです。クレディオス様よりかはよほど、寄り添える夫婦になれるでしょう」
ただ、セオドア従兄さまがわたくしを一族の長として敬ってくださるだけでなく、ひとりの女性として想ってくださるのなら、私との気持ちの温度差が、お従兄さまの負担になったりするのではないのか、それが原因で、将来的に、どちらかが、或いはふたりともが、不幸になるのでは無いのか。それが、素直にお従兄さまの求婚に承諾が出来ない理由。
もちろん、私がセオドア従兄さまを愛せたら、問題はない。
でも、父からも義母からも妹からも、家族の愛情を感じられず、常に求めながらも、自らも愛情を伝えられない卑屈さが、誰かと愛を育めるのか、不安なのだ。
「それは、セオドアの覚悟次第のようにも思えるけど。君は優しいから、同じだけ想えなければ気にしてしまうだろうね。そして、たぶん、それは、セオドアにも伝わってしまうだろう」
そう。そうなってしまえば、セオドア従兄さまを傷つけてしまうことになるだろう。
「そうやって悩む、と言うことは、傷つけてしまうかもしれない結果を恐れていると言うことは、セオドアと前向きに考えているということかな?」
「気心が知れていて、裏切らないと信用できる方で、私を望んでくださる、婿養子に入ってもらえる⋯⋯条件では一番だし、わたくしも、セオドア従兄さまのことは、大好き、だと、思いますから」
その「好き」が、血族のお従兄さまだからではあると思うし、それ以上になれるかは、まだわからない。わからないのだ。
クレディオス様が将来夫になる事が決まっていたので、他の男性を見る必要はなかったし、やることがいっぱいで、友人すら作るヒマもなかった。
恋愛というものが、どんな感じなのかは、この年になってもまだ知らない。
「セオドアの想いに応えられなかった時、その「大好き」なお従兄さまを傷つけたくはないと言うことだね。
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