50 / 64
4 困惑と動悸の日々
4‑7 貧血を起こしそうです
しおりを挟む
💝
エリオス殿下と、交際の練習を?
「それこそ、婚約者が居なくなった途端に、王族に色目を使うはしたない女と思われませんか?」
「そうかな? 君は公爵家の跡取りの一人娘、僕は当代国王の嫡出第二王子。君が公爵家を、アァルトネン一族の惣領家を捨てられるとは思えないし、僕も、第三王子以外や庶子ならともかく、気軽に婿養子に臣籍降下するとは思われないだろう? 常識の範囲内で交際の真似事をするだけなら、問題はないと思われるけれど、どうかな?」
どうかな?と言われましても⋯⋯
結局、試用期間のまま上手くいくかもしれないけどセオドア従兄さまを傷つけるかもしれない可能性と、エリオス殿下の提案に乗って男女交際の初心者の真似事をして、男性と付き合うとはどういった感じなのかを知り、他の男性を見る訓練になるか、を天秤にかけた結果──
「一般的な、政略結婚相手の婚約者同士がどう過ごすものなのか、男性がどういう行動をとった時にわたくしはどう対応するべきなのか、お教えいただけますか?」
第二王子殿下の提案を蹴る勇気がなかったのもあるけれど、初めから結婚する筈のない相手が、その関係性を踏まえた上で、常識の範囲内で交際の手解きをしてくださるというのなら、望まれていると判っているセオドア従兄さまを傷つける可能性よりも気が楽だと思ったのもある。
「英断だね、これからよろしく、エステル」
殿下は、眩しさに胸がチクリと痛むキラキラとした笑顔で、私の手をとり軽く握った。
やっぱり、殿下が急に手を取っても、ゾワッとしたり嫌悪感が涌いたりはしなかった。
꙳꙳꙳
学生プロム会場のテラスでエリオス殿下に提案され、擬似交際を承諾したことは、ラケルには言えなかった。
王族の個人的なプライベートに関わる事でもあるし、練習であって本当の交際じゃないし、恋愛訓練ってなんなのかと訊かれれば説明しにくいし、気恥ずかしいのもある。
なにより、ラケルの耳飾りはセオドア従兄さまの風霊が擬態したもの。見聞きした情報を、精霊ゆえに善悪の別なく感情に左右されて選別されることなく、記憶される。
前回のように、ラケルがガードしてもセオドア従兄さまに再生されるかもしれないという心配も少しあった。
交際の手解きを受けるとあってか。
朝、寮の食堂で女子職員に人気という、発酵させた酪のフルーツサラダと、カリカリベーコンと削りチーズを添えたオートミールをいただいて、学校に向かおうと玄関に出たら、エリオス殿下が待っていた。
「おはよう、エステル。支給品のローブとは思えないくらい、小物の合わせ方が上手くて、よく似合ってるね」
そう。魔法省の職員用耐魔ローブは、着心地も良いしシンプルで気に入っている。手持ちのタリスマンやアミュレッドと合わせて、コート代わりのガウンを重ね着するだけで、魔法士らしい装いが完成する。下はいつものように、ワイドフレアキュロットを穿いている。パッと見は足首まであるロングフレアスカートだろう。
「行こうか」
殿下に手を取られ、踏み台を登って馬車に乗り込む。
王宮の左翼棟に繋がる魔法省から王立魔法士学校までは、さほど遠くない。
けれど、学生の多くは、研究資料や魔道具などを積んで馬車で通うので、それに倣う。
馬車の中は、少し緊張した。
今までの、第二王子殿下と臣下の一令嬢としてだけではなく、昨晩からは、男女交際を知るべくその真似事を始めたのだ。
「そんなに固くならなくても、本当に交際する訳じゃないんだから、今まで通りに⋯⋯と言っても、今までも固くなってたか。肩の力を抜いて。それじゃ肩が凝るし、その内貧血を起こすよ」
今。今、貧血を起こしそうです。
馬車の中。崖の下から救い出していただいた時以外、ずっと私の対面に座られていたのに、今は肩がくっつくくらい寄り添って隣に座っているのだから。
エリオス殿下は、アメシストの美しい眼を細めて、微笑んで私を見ていた。
エリオス殿下と、交際の練習を?
「それこそ、婚約者が居なくなった途端に、王族に色目を使うはしたない女と思われませんか?」
「そうかな? 君は公爵家の跡取りの一人娘、僕は当代国王の嫡出第二王子。君が公爵家を、アァルトネン一族の惣領家を捨てられるとは思えないし、僕も、第三王子以外や庶子ならともかく、気軽に婿養子に臣籍降下するとは思われないだろう? 常識の範囲内で交際の真似事をするだけなら、問題はないと思われるけれど、どうかな?」
どうかな?と言われましても⋯⋯
結局、試用期間のまま上手くいくかもしれないけどセオドア従兄さまを傷つけるかもしれない可能性と、エリオス殿下の提案に乗って男女交際の初心者の真似事をして、男性と付き合うとはどういった感じなのかを知り、他の男性を見る訓練になるか、を天秤にかけた結果──
「一般的な、政略結婚相手の婚約者同士がどう過ごすものなのか、男性がどういう行動をとった時にわたくしはどう対応するべきなのか、お教えいただけますか?」
第二王子殿下の提案を蹴る勇気がなかったのもあるけれど、初めから結婚する筈のない相手が、その関係性を踏まえた上で、常識の範囲内で交際の手解きをしてくださるというのなら、望まれていると判っているセオドア従兄さまを傷つける可能性よりも気が楽だと思ったのもある。
「英断だね、これからよろしく、エステル」
殿下は、眩しさに胸がチクリと痛むキラキラとした笑顔で、私の手をとり軽く握った。
やっぱり、殿下が急に手を取っても、ゾワッとしたり嫌悪感が涌いたりはしなかった。
꙳꙳꙳
学生プロム会場のテラスでエリオス殿下に提案され、擬似交際を承諾したことは、ラケルには言えなかった。
王族の個人的なプライベートに関わる事でもあるし、練習であって本当の交際じゃないし、恋愛訓練ってなんなのかと訊かれれば説明しにくいし、気恥ずかしいのもある。
なにより、ラケルの耳飾りはセオドア従兄さまの風霊が擬態したもの。見聞きした情報を、精霊ゆえに善悪の別なく感情に左右されて選別されることなく、記憶される。
前回のように、ラケルがガードしてもセオドア従兄さまに再生されるかもしれないという心配も少しあった。
交際の手解きを受けるとあってか。
朝、寮の食堂で女子職員に人気という、発酵させた酪のフルーツサラダと、カリカリベーコンと削りチーズを添えたオートミールをいただいて、学校に向かおうと玄関に出たら、エリオス殿下が待っていた。
「おはよう、エステル。支給品のローブとは思えないくらい、小物の合わせ方が上手くて、よく似合ってるね」
そう。魔法省の職員用耐魔ローブは、着心地も良いしシンプルで気に入っている。手持ちのタリスマンやアミュレッドと合わせて、コート代わりのガウンを重ね着するだけで、魔法士らしい装いが完成する。下はいつものように、ワイドフレアキュロットを穿いている。パッと見は足首まであるロングフレアスカートだろう。
「行こうか」
殿下に手を取られ、踏み台を登って馬車に乗り込む。
王宮の左翼棟に繋がる魔法省から王立魔法士学校までは、さほど遠くない。
けれど、学生の多くは、研究資料や魔道具などを積んで馬車で通うので、それに倣う。
馬車の中は、少し緊張した。
今までの、第二王子殿下と臣下の一令嬢としてだけではなく、昨晩からは、男女交際を知るべくその真似事を始めたのだ。
「そんなに固くならなくても、本当に交際する訳じゃないんだから、今まで通りに⋯⋯と言っても、今までも固くなってたか。肩の力を抜いて。それじゃ肩が凝るし、その内貧血を起こすよ」
今。今、貧血を起こしそうです。
馬車の中。崖の下から救い出していただいた時以外、ずっと私の対面に座られていたのに、今は肩がくっつくくらい寄り添って隣に座っているのだから。
エリオス殿下は、アメシストの美しい眼を細めて、微笑んで私を見ていた。
0
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
拾われ子のスイ
蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】
記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。
幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。
老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。
――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。
スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。
出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。
清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。
これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。
※週2回(木・日)更新。
※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。
※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載)
※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
【完結】これをもちまして、終了とさせていただきます
楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。
伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。
そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。
「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」
神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。
「お話はもうよろしいかしら?」
王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。
※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m
【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~
いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。
地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。
「――もう、草とだけ暮らせればいい」
絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。
やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる――
「あなたの薬に、国を救ってほしい」
導かれるように再び王都へと向かうレイナ。
医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。
薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える――
これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる