184 / 308
第一章 辺境の町
第184話 気をつけます
しおりを挟む「そうだね。ちょっと言いにくいし秘密にしておいて欲しいんだけど、実はこの町に来るまでの記憶がなくって……なので冒険者になったのは、特に目的があった訳じゃなくて成り行きでそうなったというか」
「……なるほど、そうだったのか。何か事件に巻き込まれたのかもしれないな。他には誰もいなかったのか?」
「う、うん。気がついた時は一人で森の中にいたよ」
「そうか。何が起きたか分からないんだよな、だとすると安全のためにも一つの町に留まらない方がいいかもしれない」
「ですよね、私もそう思います。ローザはエルフですし、やたらと綺羅きらしい美貌をしてますから何か厄介毎に巻き込まれていても不思議じゃないです」
――これ、シルエラさんの時と同じパターンだ。訂正出来ないからどんどん誤解されてってるよ……。
二人に心配をかけるのは心苦しいけど本当に嘘は言ってないんだよ……言えないことがあるだけで。
ただあの真っ白な部屋にいた時には他にも人が居たっぽいんだけどね、例の声だけの神だか邪神だかの話を信じるなら。あの人達は今頃、どうしてるんだろ?
「この町まで誰にも見つからずに無事に辿り着けたのは幸運だったな」
「本当そうですよね……。でもこれでローザがしっかりしているようでちょっと抜けたとこがある理由が分かりましたよ、記憶が曖昧だからだったんですね」
「え? 私ってリノから見てそんなだったの?」
「俺から見てもそうだな。初めて会ったとき外套を外してただろ、すぐにエルフだって判った」
いやいやそれはなりふり構わずゴブリンの群れから逃げてたせいで偶然フードが取れちゃったってだけでね、不可抗力というか!?
「目立ちたくないって言ってる割には、エルフとはいえ新人なのにソロで迷いの魔樹をバンバン討伐してましたよね。採取しにくい虫根コブ草は、指名依頼を受けてましたし、多分貴重な『鑑定』スキル持ちだって事も気づかれてるんじゃないですかね? あ、スライムの素材をあんなに早く上手に取って持っていったのもまずかったかもしれません」
「……そんなに色々やってて短期間で昇級しちまったら、そらギルド職員に目をつけられるって」
何かめっちゃダメ出しされてるしっ。若干違うのも混じっているけどでもこれ私のせいじゃないってば。ほぼ全部成り行きでそうなっちゃっただけだと言いたい!
「……いつも受付のエドさんにはお世話になってるし、その人に頼まれたら何とか出来そうな事はしようと思うでしょ?」
「あのな、それがあいつらの手なの。見所のある冒険者を上手いこと言って信頼させて転がして鍛えるんだよ。厄介な指名依頼をこなせるようにな。職務に忠実ないい奴らだけど、完全に信用し過ぎるのはよくない」
「へぇ、私もそれは知りませんでした。新人だから丁寧にサポートしてくれているとばかり。けど、見事に二人して誘導されちゃってたんですねぇ」
「……ソウミタイダネ」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
925
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる