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第一章 辺境の町
第176話 『料理』スキルが大活躍・前編
しおりを挟むでは、さっそく作っていきますかっ。
まずは、気になっていた乳茸のフォレスト・ファンガスから。
採取に失敗して傷つけてしまったものだけど、自分達用ならこれで十分。採れたてで新鮮だし効能も変わらないからね。
これ一つで免疫力強化作用、滋養強壮作用、鎮静作用と複数の効能がある上に美味しいので高額取引される茸。
傷ついて中身が多少減ったくらいで、持ち帰らないっていう選択肢はなかったっ。
直接触ると皮膚がかぶれてしまうので、生活魔法の「抽出」で中身の白い汁を絞りだし小鍋に入れた。
この「抽出」はリノに教えてもらったんだ。私は生活魔法の中身を何も知らないから、今までは日本の電化製品なんかを適当にイメージしながら使ってたんだけど、理解して使用すると、少しの魔力でスムーズに発動させることが出来るようになったんだよね。
彼女は他にも、色んな生活魔法について詳しく解説してくれた。どうやら、人族では今、誰でも少ない魔力で安定して使える魔方陣魔法が主流らしく、生活魔法は廃れつつあるらしいんだ。
ただ、購入費用のない人や、身軽でいたい行商人や冒険者、職業柄メイドさん等には必須だから完全に無くなることはなさそうだということだった。
やっぱり異世界人の正直な生の声が聞けるって大事だね。『異世界知識』だけでは、こんな事情は分からなかったもん。
彼女と一緒にパーティーを組めて本当、よかったよ……。
さて、乳茸から絞ったミルクだけど、後は火にかけ、かき混ぜ続けるだけみたいです。
熱をじっくりと加えることで、かぶれの原因となる毒素を消し去ってくれるんだとか。
ただ、気持ち的に何となく怖いので、念のため先に聖魔法の『浄化』を掛けてきれいにしておくことにする。うん、これでちょっと安心かな。
でも、正しい熱処理の仕方ってどうやるんだろ? 分からなかったので、隣でスモールボアのお肉を捌いてくれているラグナードに聞いてみた。
「そうだなぁ。かき混ぜ続けていると、沸騰後に少しずつ重たくなってくる筈だ。熱を加える事で凝固が始まるから。そうなったら火から下ろせばいい」
「なるほど。沸騰後の目安の時間とかは分かる?」
「……確か、十分程煮込めばよかったと思う。少しでも長く保存したい場合にはある程度水分を飛ばさないといけないのと、やり過ぎても風味と効能が落ちるっていうのも覚えておいた方がいい。その後は、これに入れて冷ます。固まったら出来上がりってとこかな」
そう言って、用意していた大きめの四角い深皿を示した。う~ん、燃料が薪だし火加減が難しそうだけど……。
「分かった。やってみる」
「うん。『料理』スキルを持っている方が火加減を失敗しにくいらしいから。頑張ってみてくれ」
「は~い」
ラグナードに教えて貰った通り、小鍋を火に掛け、焦がさないよう丁寧に火加減を見ながらかき混ぜていく。温度が上昇するにつれて、ミルクの色も段々と黄色味がかってきた。
一瞬、失敗してしまったかとドキドキしちゃったけど、こうして色が変化すると成功らしいよ。
後は止めるタイミングだけなんだけど……うん、私の『料理』スキルがこのくらいでいいっていってる気がするっ。
火から下ろし、程よく固まり掛けたものを深皿に注ぎ入れた。今回のは彼が魔法で急速冷凍してくれたからすぐ完成したよ。見た目はシチューのルーそっくりになっちゃったねぇ。
お店ではこの状態で量り売りされているみたい。飲むときには、必要なだけ割ってお湯で溶かすんだって。このままだと原液が濃縮されているようなものなので濃すぎるからね。
じゃあ味見する分だけ作ろうかな。小鍋に残しておいたミルクに、魔法で作ったお湯を入れてかき混ぜる。よし、出来たっ。
ほんのり甘いミルク味だって聞いてるけど、どうなんだろ。
木製のカップに注いで、まずはそのまま一口、三人で飲んでみた。
この味は……何かバニラ入りの生クリームに似てるかも? 美味しくてすぐに飲み干してしまう。それは二人も同じようで……。
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