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第8話 義務と責任

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 幼い頃から英才教育を受けていたため、それなりに優秀ではあったが、何か目を見張るような才能に恵まれていたわけではないロバート王子。

 成長するに従って、神竜のお気に入りで自分より才気溢れる存在に成長していく婚約者のアンドレアに劣等感を覚え、事ある毎に口うるさく正論を唱える側近達をうっとうしがって遠ざけるようになる。

 そんな事が度重なると、王妃派からの圧力にも耐えて残っていてくれた側近達とも段々と疎遠になっていき、彼自身も激情しやすく疑い深い青年に成長していってしまう。 

 勿論、この王子の変化は望ましいものではなかったが、彼の置かれた立場を考えると同情の余地もあった。

 アンドレアは婚約者として少しでも力になれればと、お妃教育の他にも将来を見据え、経済学や外交、魔法学などの勉学に必死に打ち込んでいく。

 そのことがより一層、王子の劣等感を刺激し、苛立たせる事になるとは知らずに……。






 そんな王子のささくれだった心の隙間に、例の男爵令嬢がするりと入り込んできたのである。

 ――ユーミリア・ドリー男爵令嬢。

 彼女は平民出身の母親を持ち、幼少期を貴族社会の外で過ごしている。

 実家が金の力で爵位を買ったと噂される新興の男爵家だからか、あるいは母親が元娼婦のため引き取られてからも貴族令嬢としての教育を施されずにいたのか、上流階級の常識に酷く疎いらしい。

 十五歳で成人を迎えてからは、あちこちのパーティーやサロンに出入りしているらしく、様々な噂がアンドレアの元にも入ってきていた。

 それも思わず眉をひそめてしまうような、あまり良くない噂ばかりが……。

「あのベビーピンクの綿菓子令嬢……見た目だけは可憐で儚げな風情ですが、中身は相当のもの。何処まで計算なさっているのかは存じ上げませんが、こちらに全く非がなくとも、いつの間にやら複数の殿方をお味方につけ、こちらを悪者に仕立てあげてしまわれるんだとか……」

 彼女の友人も、その被害を被ってしまった内の一人らしい。

 貴族令嬢らしからぬ目に余る非常識さを見兼ねて親切心から指摘すると、被害妄想癖でもあるのか、まるで苛められたかのように大袈裟に項垂れ、人目もはばからずハラハラと涙を流し出したという……。

 悲壮感たっぷりのその姿は、世間知らずの未熟な青年貴族達には大変な効力があるようで、面白いくらい簡単に彼らの保護欲を引き出すんだとか。

 案の定、ドリー男爵令嬢の周囲に侍っていた彼らは、すぐさまその友人を取り囲み、彼女の言い分も聞かずに一方的に責め立てたらしい……。

「恐ろしいこと……」

「本当に。アンドレア様もどうかお気を付けあそばせ。あの方にはきっと、魅了の悪魔でもついているのですわ」

「まあ、トレイシー様。ご忠告感謝いたします」



 噂の男爵令嬢が複数の青年貴族と必要以上に親密にしているという醜聞は、噂好きの貴族達によってサロンやお茶会を通じ、あっという間に広まっていく。
 今や、王都に住まう貴族の間では知らない者はいないという程にまでなっていた……。




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