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第110話 駆け引き
しおりを挟む「それと、囚人に面会する際には私も同席する。これも規則なので了承して欲しい」
勿論、二人の会話がはっきりと聞こえないところまで下がって待機するつもりであることも話す。
「ええ、それで構いません」
「色々とうるさくて済まないが、相手は王族の方も絡む事件の重要参考人だ。本来、外部からの面接の許可は一切下りない、と私たちは聞いていたのでな。貴殿に許可が下りて驚いているところだ」
そこで一旦言葉を切って、眼光鋭く神官を見る。
「誰に頼まれた?」
「ははっ、疑われてしまいましたか。ですが、誰かに頼まれた訳ではありませんよ。単なる学術的興味です」
「それ以外の目的はない、と?」
「ええ、左様です。私は神殿で闇魔法の研究をしておりましてね。精神操作、または精神汚染系の魔法は本来、闇魔法の領域……それなのに光属性の彼女が似たような魔術で異性を操っていたとか。非常に興味深い。是非、直接お話を伺いたいと思いまして。面談が許されたのは幸運でした」
「成る程。しかし、かの囚人が黒の塔に収容されているという情報は規制されていたはず。何処で手に入れられた?」
更に追及するも……。
「ああ、神殿には貴賤を問わず、色々な方が来られますからね。自然と情報が集まって来るものなのですよ」
ニコニコしながら答えをかわされてしまう。
「……ちなみに申請書には、今まで囚人との面識はないとあるが、これに間違いはないか?」
「ええ。こうしてお目にかかるのは初めてですね」
マリエッタは、神官の後ろに控える副長にちらっと目をやったが首を振られた。
今のところ、嘘は言ってないらしい。
実はこの面接室には、嘘を発見できる魔道具が設置されている。
青く光れば真実を、赤くなれば虚偽を言ったと判断出来る……一応は。
なぜ断言出来ないのかというと、本人がそれが真実と心から信じて語れば嘘と判断されないし、口先での言い逃れも出来てしまうからだ。
全てを偽りなく見透すことが出来るという、竜族のような性能を魔道具に持たせるのはひどく難しいらしい。
「彼女の魔術の特性についてもお詳しいようだ。研究職ということだが、ヒューイット殿は世俗の情報にも随分と精通なさっておられる」
「単純に、研究者としての興味ですよ。私の研究内容をご存じの方々が色々と教えてくださるんです。皆様、協力的でありがたいことです」
「あくまで研究の為で、それ以外の目的は無いと言うんだな?」
「ええ、そうです」
「そうか……疑って悪かった」
マリエッタが、面会人に尋問めいた真似をしたことを謝罪する。
「何しろ囚人は、様々な身分を持つ相当数の異性を虜にしてきた手腕の持ち主だ。貴殿も男性故にその毒牙にかかっていないという証拠も無いのでな。我々としては慎重ならざるを得ないのだ。許して欲しい」
「分隊長のお立場は理解しております。謝罪は必要ありませんよ」
「そう言っていただけると助かる」
「信用して下さい。私は闇魔法の使い手です。彼女に誑かされて恋情を抱くことも、ましてや脱獄の手引きをすることなど、あり得ませんから」
ヒューイットはマリエッタと目を合わせると、きっぱりと彼女の懸念を否定したのだった。
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