3 / 32
第3話 隣国マルディン
しおりを挟む
サルヴァ王太子が訪ねて来た翌日。
エミリアは隣国へ行く準備を整えていた。
医師として必要な道具や薬、ポーションなど、状況に応じて様々な薬を処方できるように用意した。
そして、屋敷の庭に王太子様の馬車が迎えに来た。
「エミリア様、お待たせしました。荷物は先に積ませてもらいます」
従者によって、エミリアの荷物が馬車に積み込まれていった。
「では、参りましょう」
「はい、父上行って参ります」
「エミリア様をお預かり致します」
「気をつけてな。不束な娘だが、よろしく頼む」
そう言って、父は頭を下げた。
「お父様、大げさですよ。またすぐに帰ってきますから」
「ああ、行ってらっしゃい」
父に見送られて、エミリアは馬車へと乗り込んだ。
御者が馬に鞭を入れると、馬車はゆっくりと進み始める。
やがて、地面を踏む蹄鉄の音が規則正しく聞こえてくる。
ここから、約1週間は馬車の旅である。
「まだ、先は長いですから、気を楽にしていてください」
「ありがとうございます」
流石は、王家の馬車である。
クッションがふかふかでとても乗り心地がいい。
これなら、長距離移動でも腰が痛くならずに済みそうだ。
「先日説明しましたが、僕と弟が今は父の代理を務めています。エミリア様にには、僕の権限で父上の容態を見てもらおうと思っています」
宮廷医師は、その国の国王しか任命することを許されていない。
なので、いくら代理でも宮廷医師に任命することはできないのだ。
「わかりました」
「宮廷の医師たちは何か言ってくるかも知れませんが、気にしないでください。あいつらは信用できない」
セカンドオピニオンといったところか。
手持ちの薬で治すことができればいいのだが、それが無理なら新たに調剤する必要があるだろう。
「何か言われても僕は必ずエミリア様の味方です。あいつらを黙らせる方法は考えてありますからご安心を」
「ありがとうございます」
そして、一週間の旅が終了しようとしていた。
「エミリア様、王都に到着しますよ」
サルヴァが声をかけてくれる。
「すぐにでも、マルディン王の容態を診たいですね」
「お疲れの所申し訳ない」
「気にしないでください。苦しんでいる人がいたら全力で助けるのが医師の仕事です」
道中に聞いたマルディン王の容態から察するに、もはや一刻の猶予もない。
すぐに瀉血を辞めさせなければ危険だ。
馬車は王都を抜けていき、王宮の前で停車する。
「お疲れさまでした」
「ありがとうございます」
エミリアは馬車を降りる。
そこには、サルヴァと同じ金髪を肩の位置まで伸ばした中性的な顔立ちをした男性が従者を連れて立っていた。
「遠い所からお越し頂きありがとうございます。グレン・マルディンと申します」
そう言って軽く頭を下げた。
「私の弟です」
「兄上が無理なお願いをしたようなのに、快く引き受けてくださり感謝いたします」
どうりでマルディンと似ている訳である。
「長旅でお疲れの所申し訳ございませんが、父上の容態を診て頂けますか?」
グレンは改めて頭を下げた。
「もちろんです」
私はサルヴァとグレンと共に王宮の中に入って行く。
「こちらです」
王宮の中をしばらく歩き、豪華に装飾された扉を開く。
そこには、ベッドに横たわったマルディン王が居た。
そのすぐ横には王宮医が二人ついている。
「二人は今すぐ退出してください。今後の治療は彼女に一任します。宮廷医の立ち入りは今後一斎禁止とします」
サルヴァが言い放った。
「しかし、陛下には我々には必要なのです! そんなどこの馬の骨かも分からん女なんかに!」
医師は反抗的であった。
「彼女は私とグレンの権限において特別臨時宮廷医師として来て頂きました」
「なんだと……」
特別臨時宮廷医師は、正式な宮廷医師では無いので、国王の代理なら任命することができる。
しかし、宮廷医師と同等の権限を得ることができるのだ。
「父上は素人目でも酷くなっいるではないか。ここは彼女に治療を任せる。命令です」
「承知しました……」
宮廷医たちは苦虫を噛み潰すような表情を浮かべながら、退出した。
「エミリア様、お願いします」
「はい、分かりました」
エミリアは陛下のもとへと近づいた。
「想像以上に酷いですね……」
腕には何回も行われたであろう瀉血の跡があった。
ろくに食事も取れていないのだろう。
頬は痩せこけ、呼吸も薄くなっている。
「このままでは衰弱死してしまいますね」
私は鞄を開ける。
まずは、瀉血で傷ついた腕の治療である。
綺麗に消毒した後、薬を塗って包帯を巻く。
「お香は消してください」
「分かりました」
お香を消して窓を開けて換気する。
「食事は消化に良い粥に変え、水分をいつもより多く取って下さい」
私は陛下の従者へと伝える。
「私は、薬を調合したいのですが」
「部屋を用意してあります。ご案内します」
サルヴァが王宮内にあらかじめ部屋を用意してくれていた。
「ここにある物は好きに使って頂いて構いません。何か足りないものがあったら言ってください。準備します」
「助かります」
私に用意された部屋には調薬に必要な物が全て揃っていた。
エミリアは隣国へ行く準備を整えていた。
医師として必要な道具や薬、ポーションなど、状況に応じて様々な薬を処方できるように用意した。
そして、屋敷の庭に王太子様の馬車が迎えに来た。
「エミリア様、お待たせしました。荷物は先に積ませてもらいます」
従者によって、エミリアの荷物が馬車に積み込まれていった。
「では、参りましょう」
「はい、父上行って参ります」
「エミリア様をお預かり致します」
「気をつけてな。不束な娘だが、よろしく頼む」
そう言って、父は頭を下げた。
「お父様、大げさですよ。またすぐに帰ってきますから」
「ああ、行ってらっしゃい」
父に見送られて、エミリアは馬車へと乗り込んだ。
御者が馬に鞭を入れると、馬車はゆっくりと進み始める。
やがて、地面を踏む蹄鉄の音が規則正しく聞こえてくる。
ここから、約1週間は馬車の旅である。
「まだ、先は長いですから、気を楽にしていてください」
「ありがとうございます」
流石は、王家の馬車である。
クッションがふかふかでとても乗り心地がいい。
これなら、長距離移動でも腰が痛くならずに済みそうだ。
「先日説明しましたが、僕と弟が今は父の代理を務めています。エミリア様にには、僕の権限で父上の容態を見てもらおうと思っています」
宮廷医師は、その国の国王しか任命することを許されていない。
なので、いくら代理でも宮廷医師に任命することはできないのだ。
「わかりました」
「宮廷の医師たちは何か言ってくるかも知れませんが、気にしないでください。あいつらは信用できない」
セカンドオピニオンといったところか。
手持ちの薬で治すことができればいいのだが、それが無理なら新たに調剤する必要があるだろう。
「何か言われても僕は必ずエミリア様の味方です。あいつらを黙らせる方法は考えてありますからご安心を」
「ありがとうございます」
そして、一週間の旅が終了しようとしていた。
「エミリア様、王都に到着しますよ」
サルヴァが声をかけてくれる。
「すぐにでも、マルディン王の容態を診たいですね」
「お疲れの所申し訳ない」
「気にしないでください。苦しんでいる人がいたら全力で助けるのが医師の仕事です」
道中に聞いたマルディン王の容態から察するに、もはや一刻の猶予もない。
すぐに瀉血を辞めさせなければ危険だ。
馬車は王都を抜けていき、王宮の前で停車する。
「お疲れさまでした」
「ありがとうございます」
エミリアは馬車を降りる。
そこには、サルヴァと同じ金髪を肩の位置まで伸ばした中性的な顔立ちをした男性が従者を連れて立っていた。
「遠い所からお越し頂きありがとうございます。グレン・マルディンと申します」
そう言って軽く頭を下げた。
「私の弟です」
「兄上が無理なお願いをしたようなのに、快く引き受けてくださり感謝いたします」
どうりでマルディンと似ている訳である。
「長旅でお疲れの所申し訳ございませんが、父上の容態を診て頂けますか?」
グレンは改めて頭を下げた。
「もちろんです」
私はサルヴァとグレンと共に王宮の中に入って行く。
「こちらです」
王宮の中をしばらく歩き、豪華に装飾された扉を開く。
そこには、ベッドに横たわったマルディン王が居た。
そのすぐ横には王宮医が二人ついている。
「二人は今すぐ退出してください。今後の治療は彼女に一任します。宮廷医の立ち入りは今後一斎禁止とします」
サルヴァが言い放った。
「しかし、陛下には我々には必要なのです! そんなどこの馬の骨かも分からん女なんかに!」
医師は反抗的であった。
「彼女は私とグレンの権限において特別臨時宮廷医師として来て頂きました」
「なんだと……」
特別臨時宮廷医師は、正式な宮廷医師では無いので、国王の代理なら任命することができる。
しかし、宮廷医師と同等の権限を得ることができるのだ。
「父上は素人目でも酷くなっいるではないか。ここは彼女に治療を任せる。命令です」
「承知しました……」
宮廷医たちは苦虫を噛み潰すような表情を浮かべながら、退出した。
「エミリア様、お願いします」
「はい、分かりました」
エミリアは陛下のもとへと近づいた。
「想像以上に酷いですね……」
腕には何回も行われたであろう瀉血の跡があった。
ろくに食事も取れていないのだろう。
頬は痩せこけ、呼吸も薄くなっている。
「このままでは衰弱死してしまいますね」
私は鞄を開ける。
まずは、瀉血で傷ついた腕の治療である。
綺麗に消毒した後、薬を塗って包帯を巻く。
「お香は消してください」
「分かりました」
お香を消して窓を開けて換気する。
「食事は消化に良い粥に変え、水分をいつもより多く取って下さい」
私は陛下の従者へと伝える。
「私は、薬を調合したいのですが」
「部屋を用意してあります。ご案内します」
サルヴァが王宮内にあらかじめ部屋を用意してくれていた。
「ここにある物は好きに使って頂いて構いません。何か足りないものがあったら言ってください。準備します」
「助かります」
私に用意された部屋には調薬に必要な物が全て揃っていた。
50
あなたにおすすめの小説
【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?
はくら(仮名)
恋愛
ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。
※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
転生したら地味ダサ令嬢でしたが王子様に助けられて何故か執着されました
古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
皆様の応援のおかげでHOT女性向けランキング第7位獲得しました。
前世病弱だったニーナは転生したら周りから地味でダサいとバカにされる令嬢(もっとも平民)になっていた。「王女様とか公爵令嬢に転生したかった」と祖母に愚痴ったら叱られた。そんなニーナが祖母が死んで冒険者崩れに襲われた時に助けてくれたのが、ウィルと呼ばれる貴公子だった。
恋に落ちたニーナだが、平民の自分が二度と会うことはないだろうと思ったのも、束の間。魔法が使えることがバレて、晴れて貴族がいっぱいいる王立学園に入ることに!
しかし、そこにはウィルはいなかったけれど、何故か生徒会長ら高位貴族に絡まれて学園生活を送ることに……
見た目は地味ダサ、でも、行動力はピカ一の地味ダサ令嬢の巻き起こす波乱万丈学園恋愛物語の始まりです!?
小説家になろうでも公開しています。
第9回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作品
『生きた骨董品』と婚約破棄されたので、世界最高の魔導ドレスでざまぁします。私を捨てた元婚約者が後悔しても、隣には天才公爵様がいますので!
aozora
恋愛
『時代遅れの飾り人形』――。
そう罵られ、公衆の面前でエリート婚約者に婚約を破棄された子爵令嬢セラフィナ。家からも見放され、全てを失った彼女には、しかし誰にも知られていない秘密の顔があった。
それは、世界の常識すら書き換える、禁断の魔導技術《エーテル織演算》を操る天才技術者としての顔。
淑女の仮面を捨て、一人の職人として再起を誓った彼女の前に現れたのは、革新派を率いる『冷徹公爵』セバスチャン。彼は、誰もが気づかなかった彼女の才能にいち早く価値を見出し、その最大の理解者となる。
古いしがらみが支配する王都で、二人は小さなアトリエから、やがて王国の流行と常識を覆す壮大な革命を巻き起こしていく。
知性と技術だけを武器に、彼女を奈落に突き落とした者たちへ、最も華麗で痛快な復讐を果たすことはできるのか。
これは、絶望の淵から這い上がった天才令嬢が、運命のパートナーと共に自らの手で輝かしい未来を掴む、愛と革命の物語。
聖女召喚に巻き込まれた挙句、ハズレの方と蔑まれていた私が隣国の過保護な王子に溺愛されている件
バナナマヨネーズ
恋愛
聖女召喚に巻き込まれた志乃は、召喚に巻き込まれたハズレの方と言われ、酷い扱いを受けることになる。
そんな中、隣国の第三王子であるジークリンデが志乃を保護することに。
志乃を保護したジークリンデは、地面が泥濘んでいると言っては、志乃を抱き上げ、用意した食事が熱ければ火傷をしないようにと息を吹きかけて冷ましてくれるほど過保護だった。
そんな過保護すぎるジークリンデの行動に志乃は戸惑うばかり。
「私は子供じゃないからそんなことしなくてもいいから!」
「いや、シノはこんなに小さいじゃないか。だから、俺は君を命を懸けて守るから」
「お…重い……」
「ん?ああ、ごめんな。その荷物は俺が持とう」
「これくらい大丈夫だし、重いってそういうことじゃ……。はぁ……」
過保護にされたくない志乃と過保護にしたいジークリンデ。
二人は共に過ごすうちに知ることになる。その人がお互いの運命の人なのだと。
全31話
異世界転移聖女の侍女にされ殺された公爵令嬢ですが、時を逆行したのでお告げと称して聖女の功績を先取り実行してみた結果
富士とまと
恋愛
公爵令嬢が、異世界から召喚された聖女に婚約者である皇太子を横取りし婚約破棄される。
そのうえ、聖女の世話役として、侍女のように働かされることになる。理不尽な要求にも色々耐えていたのに、ある日「もう飽きたつまんない」と聖女が言いだし、冤罪をかけられ牢屋に入れられ毒殺される。
死んだと思ったら、時をさかのぼっていた。皇太子との関係を改めてやり直す中、聖女と過ごした日々に見聞きした知識を生かすことができることに気が付き……。殿下の呪いを解いたり、水害を防いだりとしながら過ごすあいだに、運命の時を迎え……え?ええ?
【完結】異世界からおかえりなさいって言われました。私は長い夢を見ていただけですけれど…でもそう言われるから得た知識で楽しく生きますわ。
まりぃべる
恋愛
私は、アイネル=ツェルテッティンと申します。お父様は、伯爵領の領主でございます。
十歳の、王宮でのガーデンパーティーで、私はどうやら〝お神の戯れ〟に遭ったそうで…。十日ほど意識が戻らなかったみたいです。
私が目覚めると…あれ?私って本当に十歳?何だか長い夢の中でこの世界とは違うものをいろいろと見た気がして…。
伯爵家は、昨年の長雨で経営がギリギリみたいですので、夢の中で見た事を生かそうと思います。
☆全25話です。最後まで出来上がってますので随時更新していきます。読んでもらえると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる