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バターの微笑み
03 ー 魔剣
しおりを挟むいつの間にか、レイナルドの周りには比較的軽症だった団員達が数人集まっていた。
「レイナルド様、アレクセイ殿。我らは水魔法が使えます。そちらの方の攻撃を引き継ぎます」
その中の一人が途中で誠を見てから進言すると、レイナルドとアレクセイは頷き合った。
良い判断だと誠は感心する。他の魔法なら、中に囚われている三人が傷付く恐れが高くなる。水も使いようによっては危険だが、この場合は最善の手だろう。
「そうだな。油断するなよ」
レイナルドの許可が出ると、団員達は一斉に水魔法を展開し、ヘドロを流し始めた。
最初は弱い水流から様子を見て、その効果が無いと分かると水圧を上げていく。誠はその間、アレクセイの傷の具合を確認していた。
「…塞がったようだな」
「ああ。助かったよ」
とは言え、流れた分の血を作り出せるわけではない。誠がしたのは、裂けた肉を繋ぎ、皮膚を治したにすぎない。それが限界だ。
アレクセイの肩をスルリと撫で、団員達の様子を見守ることにした。
かなりの水流がヘドロの山を少しずつ押しているが、相手は礼拝堂よりも一回り小さな塊だ。団員達には、少しずつ疲れが見え始めてきていた。
誠は近くの大きな破片にトン、と飛び乗ると、鉄扇を構えた。水の塊をいくつも作り出すと、それを鉄扇で扇いでヘドロに次々と撃ち込む。ブヨブヨとヘドロは揺れたが、あまり効果は見えなかった。
「クソが」
悪態をつきながら鉄扇を広げ、思い切り振り上げ、攻撃手段を切り替える。
小さな風の爪が、一斉にヘドロをこそげ落としていった。びちゃびちゃと、辺りに嫌な音を立てながらヘドロの雫が降り注ぐ。それが落ちた場所からは、煙と共に嫌な臭いが上がった。
「…また活性化してんのか?まさか、な」
誠に続き、アレクセイ達も魔法で加勢していく。中心には当てずに、氷や火の塊で少しずつヘドロを削っていくことにしたのだろう。手数が多いと体力や魔力の消費が多くなるが、あの三人の安全を考えると仕方が無い。
攻撃に加わる人数は増え、ヘドロを流す部隊と削る部隊に分かれていた。
彼らの尽力により、一回りは小さくなっただろうか。終わりの見えない作業に、どうしても焦りと苛立ちが積もってしまう。
「落ち着け、落ち着け…」
自分の暴走で、アレクセイに迷惑をかけたくない。その一心で、誠は水と風を操っていた。
更にヘドロが小さくなる。
「誰か、ポーションを!」
団員の一人が崩れ落ちた。彼らもそろそろ限界なのかもしれない。
どうする。
焦りからか誠の爪が伸びかけた時、ヘドロにわずかな異変が起こった。小刻みにブルブルと震え出したのだ。攻撃の衝撃だと思ったが、その揺れは次第に大きくなっていく。それに気付きはじめた団員から、攻撃が止んでいく。
「何だ?」
「何が起こっているんだ…」
団員達の口から、そんな言葉が上る。
「総員、退避ー!」
突然アレクセイが叫ぶと、ヘドロは再び瘴気を上らせながら大きく体をうねらせ、姿を変えた。
「うわあぁぁ!」
「落ち着け!」
「何だあれは…!」
瘴気に飲み込まれそうになった団員の腕を、アレクセイが引いて助ける。
「後退!後退しろ!」
あちこちで怒号が上がる。レビ達はスルト騎士団の後退を手伝いながら、ヘドロの変貌を見ていた。
「マコトも後退しろ!」
「分かった!」
レビに返事をし、誠は地面に降り立って合流した。
「…アレクセイは?」
レビ達四人は居るが、肝心のアレクセイが居ない。誠が辺りを見回すと、アレクセイは一人、ヘドロの塊…いや、三つの頭を持つ、瘴気に塗れた黒く大きな犬と対峙していた。
「アレクセイ…!」
「やめろ、マコト!」
駆け出しそうになった誠の腕を、レビが強く引いて止める。
「何でだよ!どうして…!」
「こういう時の殿は班長なんだよ!」
「だって…!」
「落ち着いてください、マコトさん」
肩にルイージの手が置かれる。オスカーは姿を鷹に変え、誠を見た。
「マコト君、これが俺達の戦い方なんだよ。この中で一番強いのは、団長だ。そのうち手の空いたスルト騎士団の団員達も集まってくる。そこから総攻撃を加える」
「オスカーは?」
「俺は空から、班長の援護と回収係。あんたも疲れてんだろ。ドナルド、マコト君にポーション渡してやれよ」
「分かりました」
オスカーはそう言うと、翼をはためかせてアレクセイの援護に入った。
やるせない気持ちでオスカーを見ていると、目の前に細長い瓶が差し出された。
「マコトさん、大丈夫ですよ。班長、強いですから。ね?」
「…分かった」
ここは彼らを信用しろと言うことか。誠はドナルドから瓶を受け取り、思い切りあおった。
少しとろみがある液体が、喉を通る。
せっかく渡してくれたポーションだったが、誠にとっては気休めにしかならなかった。
瓶をドナルドに返し、アレクセイを見つめる。いつでも飛び出せるように、鉄扇を構えた。
「しかし…どうしてケルベロスに…」
ルイージの呟きに、視線を前に向けたままの誠が聞く。
「ケルベロスって、地獄の番犬のか?」
「ええ。そして高ランクの魔獣です。班長は余裕で倒せる相手なんですが、あの瘴気から生まれたとなると…」
「そうですね。早く増員が来ないかな」
氷魔法で牽制しながら剣技を繰り出すアレクセイの姿を見ながら、ドナルドは背後を気にしている。大分人数が集まった気配がするが、攻撃体制が整わないのだろうか。
焦る誠の目には、苦戦しているアレクセイとオスカーの姿が映っていた。
いつの間にか、防戦一方になっている。オスカーの風魔法で何とか瘴気を防いでいるが、ケルベロスの攻撃は巨体にもかかわらず機敏な動きだ。休むことなく三つの頭と鋭い爪で二人を襲っている。
アレクセイが牙剣で防ぐと、ケルベロスは力をかけて押している。
逃げろと誠が思った瞬間、他の二つの頭がアレクセイを襲っていた。
「アレクセイ!」
誠は思わず叫んでしまう。オスカーが風魔法を叩きつけ、怯んだところでアレクセイは後方に飛び下がって回避する。しかしケルベロスは跳躍し、なおもアレクセイを狙い続けている。
アレクセイは氷の塊を発生させると、三つの頭へ同時にぶつけた。相手が怯んだ隙に横に回り込むと、脇腹に剣を刺し込んだ。
「グオオォォ…!」
痛みでケルベロスは咆哮し、首を振り回した。傷からは血の代わりに、瘴気が勢いよく吹き出している。少し当てられたのか、アレクセイは体制を崩していた。
「レビ、限界だ!」
叫んだのは、ルイージだった。横目でチラリと見ると、三人は歯を食いしばっていた。
「…行こう!」
レビが剣を構え、走り出す。誠達はその後に続いた。
アレクセイはオスカーの背に乗り、空中に避難している。痛みで暴れているケルベロスの周りを縫うように四人は展開し、一斉に傷口へ魔法を打ち込んだ。
傷口は広がり、更に瘴気が吹き出す。誠は風を起こし、後方へと浄化させながら流した。
少し下がると、声を張り上げる。
「皆、下がって!」
誠の声に三人がケルベロスから離れると、誠は特大の風を起こし、瘴気の浄化に努めた。何度も鉄扇を扇ぎ、ケルベロスの力を削いでいく。その巨体は徐々に小さくなってきたが、それでもまだ見上げる程大きい。
誠が再度、浄化の風を送ると、ケルベロスが纏っていた瘴気が消えていった。
鮮明になった三つの頭が現れた途端、レイナルドの叫び声が響いた。
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