おまじない

ツチフル

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 学校のお昼休み。
 給食を食べ終えたナオ君たちは、校庭でドッジボールを始めました。
 ケンタ君はナオ君をねらってボールを投げますが、なかなかあたりません。
 ナオ君はボールをとるのは苦手ですが、逃げるのは得意なのです。
 でも、逃げてばかりでは勝てません。
 仲間の子がどんどん当てられていき、とうとうナオ君が最後の一人になってしまいました。
 こうなると、どうしようもありません。
 とんでくるボールを何回かよけたあと、ケンタ君のボールがナオ君の足にきました。
 ジャンプしてよけようとしたナオ君ですが、ボールはつま先に命中。その拍子にバランスをくずしてしまいます。
「あっ」
 声をあげたときは、もう手おくれ。
 両手から地面に落ちたナオ君は、右のヒジを思い切りすりむいてしまいました。
 ジンジンとした痛みがひろがり、すりむいたヒジからは血がにじみ出てきます。
 ナオ君はすぐにおまじないをとなえようとしました。
 そうしないと、またワンワンと泣いてしまうからです。
 でも、そこで思い出したのはミユキお姉さんとの約束。
『ケガをうつすのは私だけにすること』
 おまじないでケガをうつせば、ナオ君は泣かないでいられるけれど、かわりにミユキお姉さんがケガをすることになるのです。
 迷っているうちにもジンジンとした痛みは強くなり、ナオ君の目には涙がたまっていきます。
 今にも声をだして泣いてしまいそう。
 そこへ、ケンタ君がいつものように言いました。
「あ、ナオがまた泣くぞ」
 涙があふれだす寸前。
 ナオ君は、とうとうおまじないをとなえてしまいます。

  イタイのイタイのとんでけ
  ミユキお姉ちゃんへとんでけ

 すると、ナオ君のヒジのすり傷はたちまち消えてなくなり、ジンジンとした痛みも、にじんでいた血もどこかへいってしまいました。
 あふれだしそうだった涙も、すっかりひっこんでいます。
 これなら、もうだいじょうぶ。
 ナオ君は起き上がると、ニッコリ笑って言いました。
「ボク、泣いてなんかないよ」
 ケンタ君はそれを見て、残念そうに顔をしかめます。
「ちぇっ。このごろのナオはちっとも泣かないからつまんないや」
 ナオ君が泣かなくなったのは、ケガを誰かにうつしているからです。
 これまでは、それがズルイことだとは思っていませんでした。
 だって、うつす相手は自分をからかう子―― ケンタ君やアキラ君やタケシ君―― だったから。
 でも、これからはちがいます。ケガはぜんぶミユキお姉さんにうつすことになりました。
 だから、ナオ君の右ひじのすり傷は、お姉さんの右ひじにうつっているはずです。
 とつぜんケガをしたお姉さんは、どうなるでしょうか。
 お昼を食べているときに「いたい!」とさけんでしまうかもしれません。
 まわりの友だちはびっくりすることでしょう。
 それに、ジンジンと痛くて血がにじんできたら、泣いてしまうかもしれません。
 お姉さんの泣き顔を思い浮かべると、胸のあたりがキュっと痛みます。
「ボク、泣いてないよ」と、ほこらしげに笑ったナオ君の顔が、今はまっ青。
 やがてお昼休みがおわり、午後の授業が始まりました。
 でも、先生の話しも黒板に書く文字も、ちっとも頭に入ってきません。
 ナオ君は青白い顔で、キュッと痛む胸に手をあてて、ずっとミユキお姉さんの泣き顔を思い浮かべていたのです。
 
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