おまじない

ツチフル

文字の大きさ
4 / 7

しおりを挟む


「学校が終わったら、お姉ちゃんにあやまりに行こう」
 そう思っていたナオ君ですが、いざお姉さんの家の前にくると、こわくなってしまいました。
 インタホンを押そうと手を伸ばしては引っ込め、手を伸ばしては引っ込めと、もう何度もくり返しています。
 今日はやめにして、明日あやまろうかな。
 そんなことを思ったやさき、ナオ君の肩にポンと手がおかれました。
 おどろいて振り返ると、そこには制服を着たミユキお姉さんが立っていました。
「何してるの、ナオ君」
 お姉さんはいつものようにニッコリと笑っています。
 その笑顔を見て、ナオ君は少し安心しました。
 きっと、ケガをうつしたことを怒っているだろうなと思っていたのです。
 そうだ。ケガ!
 そのことを思い出して、ナオ君はお姉さんを見ました。
 ナオ君がケガをしたのは右のヒジ。
 でも、お姉さんのヒジは制服にかくれて見えません。
「お姉ちゃん、ケガは?」
 ナオ君があわてて聞くと、ミユキお姉さんは「うん」とうなずきました。
「ちゃんと、とんできたよ」
 そういって制服をめくると、お姉さんの右ヒジにはすりむいたような傷がありました。
 まちがいなく、ナオ君のケガです。
「このケガは転んですりむいたの?」
「うん。ドッチボールをしてて」
「痛かった?」
「うん。最初はがまんしようとしたんだ。でも、泣きそうになって。ケンタ君にも『ナオが泣くぞ』って言われて」
「そっか」
「お姉ちゃん、痛かった?」
「うーん」
 ミユキお姉さんはちょっと首をかしげて、うなずきました。
「そうだね。ちょっとだけね」
「ちょっとだけ?」
 ナオ君は驚いた顔でお姉さんを見ます。
「痛くて泣いたりしなかったの?」
「うん。泣かなかったよ」
「どうして泣かなかったの?」
 首をひねるナオ君に、お姉さんは笑ってこたえました。
「転んでケガをするよりも、もっと痛い思いをしてるからかな」
「もっと痛いこと?」
「そうそう。その痛さに比べれば、転んでケガをする痛さなんて何でもないの」
「…じゃあ、ボクも転ぶよりも痛い思いをすれば平気になるの?」
「そうだね。…あ、でも」
 うなずいてから、お姉さんは少しからうような目でナオ君を見ました。
「ナオ君、そういうケガをしたら私にうつしちゃうから、だめかも」
「え、うつさないよ!」
「えー。うつすよ」
「うつさないってば!」
 むきになるナオ君に、お姉さんは言います。
「だって、転んだケガの痛さくらいでうつしちゃうんだもん。もっと痛いケガをしたら、なおさらうつしたくなるでしょ」
 たしかに、お姉さんの言うとおりです。
 転ぶよりもずっと痛い思いをしたら、きっとすぐにおまじないをとなえてしまうでしょう。
 でもナオ君は、お姉さんにバカにされたことがくやしくて、怒ったように言いました。
「うつさないったら、うつさない!」
「ほんとに? 転んだケガくらいでうつしちゃうのに?」
「じゃあいいよ! 転んでケガしたって、もううつさないから!」
 思わずそんなことを言ってしまいました。
 転んでケガをしたら、ナオ君はまた泣いてしまうでしょうし、ケンタ君たちにも笑われるにちがいありません。
 それはとてもイヤなことでしたが、お姉さんに弱虫だと思われるのはもっとイヤだったのです。
「ぜったい、うつさないから!」
「約束する?}
「約束する!」
 ナオ君はそう言うと、くるりとお姉さんに背をむけてけけだしました、
 そして、一度立ち止まってお姉さんを見ると、
「ぜったいにうつさないから!」
 さけぶように言って、またかけていきました。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

悪女の死んだ国

神々廻
児童書・童話
ある日、民から恨まれていた悪女が死んだ。しかし、悪女がいなくなってからすぐに国は植民地になってしまった。実は悪女は民を1番に考えていた。 悪女は何を思い生きたのか。悪女は後世に何を残したのか......... 2話完結 1/14に2話の内容を増やしました

ローズお姉さまのドレス

有沢真尋
児童書・童話
*「第3回きずな児童書大賞」エントリー中です* 最近のルイーゼは少しおかしい。 いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。 話し方もお姉さまそっくり。 わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。 表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

かつて聖女は悪女と呼ばれていた

朔雲みう (さくもみう)
児童書・童話
「別に計算していたわけではないのよ」 この聖女、悪女よりもタチが悪い!? 悪魔の力で聖女に成り代わった悪女は、思い知ることになる。聖女がいかに優秀であったのかを――!! 聖女が華麗にざまぁします♪ ※ エブリスタさんの妄コン『変身』にて、大賞をいただきました……!!✨ ※ 悪女視点と聖女視点があります。 ※ 表紙絵は親友の朝美智晴さまに描いていただきました♪

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!

mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの? ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。 力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる! ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。 誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。 流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。 現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇 此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

処理中です...