おまじない

ツチフル

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 ※

 おまじないをやめたナオ君。
 でも、ドジでおっちょこちょいはやめられないので、相変わらず転んでケガをします。
 そして、やっぱりそのたびに泣いてしまい、ケンタ君たちに笑われていました。
「ナオ君は大人になっても泣き虫のままかもね」
 あんまり泣くものだから、先生もあきれてそんなことを言います。
 大人になっても、転んでワンワン泣く。
 そんな自分を思い浮かべて、ナオ君は恥ずかしくなりました。
「やっぱり、泣き虫はなおなさきゃ」
 でも、どうやって?
 ナオ君はふと、ミユキお姉さんの言っていたことを思い出しました。
「転んでケガをするよりも痛い思いをすれば、平気になるよ」
 転ぶよりも痛いこと。
 でも、そんなに痛いことを、わざと自分でする勇気はありません。
「やっぱり、ボクは泣き虫のままかなあ」
 ナオ君は暗い気持ちで、トボトボと帰り道を歩いていきます。
 そして、ようやく家について玄関の前まきたとき。
「わっ」
 ナオ君は思わず声をあげてしまいました。
 ナオ君がドアを開けるよりも早く、お母さんが飛び出してきたのです。
「お母さん?」
「あ、ナオ!」
「ただいま」
「おかえり。ちょっと出かけてくるからね」
 やけにあわてているお母さんに、ナオ君は首をかしげて聞きます。
「どうかしたの?」
「おとなりのミユキちゃんが、学校で大ケガしたらしいの」
「えっ?」
「さっきミユキちゃんのお母さんから電話をもらって、今、病院にいるって。だからお母さん、ちょっと行ってくるから」
「お姉ちゃんは大丈夫なの?」
「おでこを深く切っていてね、もしかしたら縫うかもって」
「おでこを縫う?」
「あとに残らないといいけど」
 おでこを縫うだなんて、どんなに痛いことでしょう。
 きっと、転んだケガなんかよりもずっとずっと痛いはずです。
 想像しただけで、ナオ君はまっ青になりました。 
「じゃあ、ナオは留守番しててね」
「あ、まって」
 出て行こうとするお母さんを、ナオ君はあわててよびとめます。
「ボクも行く!」
「ナオも?」
 お母さんは少し迷ったようでしたが、ナオ君がさっさと車のほうへ走りだしてしまったので、仕方なくつれていくことにしました。


 病院につくと、お母さんは窓口で何かを聞き、早足で歩きだしました。ナオ君もあわてて追いかけます。
 広い病院を奥へ奥へと歩くと、やがて【形成外科】と書かれた診察室の前にやってきました。
 診察室は三つ。
「お姉ちゃん、中で診てもらってるの?」
「たぶんね」
 しばらく待っていると、真ん中の診察室からミユキお姉さんと、お姉さんのお母さん、ハルコおばさんが出てきました。
「ミユキちゃん、大丈夫?」
「あら、わざわざ来てくれたの」
「どんな感じ?」
 ナオ君のお母さんは、声を小さくしてハルコおばさんに話しかけます。
「五針も縫ったわ。思ったよりも傷が深くて」
「あとに残りそう?」
「もしかしたらね」
 ナオ君とミユキお姉さんは、二人から少しはなれところに座っていました。
 ミユキお姉さんはおでこに包帯をまいていて、ときおり手でさわっています。
「痛い?」
 お姉さんは小さく首をふりました。
「麻酔をしてるから大丈夫。してなかったら、きっとすごく痛いだろうけど」
「どうしてケガしたの?」
「体育でバレーボールをしてね。ボールに飛びついたら、ネットを立てる柱にぶつかちゃったの。ドジでしょ」
 その光景を思い浮かべて、ナオ君は顔をしかめます。
「痛かった?」
「痛かったなあ」
「転ぶより?」
「転ぶなんかより、ずっと。血もすごくでたし」
「お姉ちゃん、泣いちゃった?」
 ナオ君が聞くと、お姉さんはまた首をふりました。
「泣かなかった。あんまり痛すぎると、泣くどころじゃないのね」
「そうなの?」
「それより、今のほうが泣きそうだよ」
 お姉さんは大きなため息をついて、おでこの包帯をなでます。その大きな目からは、涙がこぼれてきました。
「傷あと、ずっと残るかもしれないんだって」
 ナオ君は泣きだしたお姉さんにおどろいて、顔をのぞきこみます。
「残るのがイヤなの?」
「あたり前でしょ。おでこの傷なんてすごく目立つのに、一生消えないんだから」
 お姉さんはそう言うと、顔をおおってだまりこんでしまいました。
 ナオ君は、そんなお姉さんを見つめながらじっと考えます。
 お姉ちゃんのケガは、転ぶよりずっと痛いケガなんだって。
 じゃあ、お姉ちゃんと同じケガをすれば、ボクは転んでも泣かなくなるかな。
 ボクの泣き虫もなおるかな。
 そうだ。
 自分でケガをする勇気はないけど――
 ケガをうつすおまじないで、ナオ君は思い出したことがあります。
 タマゴみたいなおじさんが言っていたこと。
 
「おまじないは、もうひとつあるんだよ」
「もうひとつ?」
「そう。今のおまじないは、ケガを誰かにうつすおまじない。もうひとつのおまじないは、誰かのケガを自分にうつすおまじないなんだ」
 
 誰かのケガを、自分にうつすおまじない。
 あのときは 「絶対につかいっこないよ!」 と言っていたナオ君です。
 
「誰かのケガに指輪をあてて《おまじない》を言えば、ぼうやのところへケガがやってくるんだ」

 そのおまじないも、ちゃんと覚えています。
 ナオ君は人さし指にはめたままの透明な指輪見て、それから涙を流すミユキお姉さんを見ました。
 泣いているお姉さんを見るのは初めてです。
 これまではケガをして泣くのはナオ君で、お姉さんはナオ君をなぐさめてくれる人でした。
「ナオ君は、泣いた顔よりも笑った顔のほうがカッコイイよ」
 そんなことを言って。やさしく笑って。
 今、泣いているお姉さんを見て、ナオ君も同じことを思います。
 お姉ちゃんは、泣いた顔よりも笑ってる顔のほうがカワイイな。
 ナオ君は魔法の指輪をはめた人差し指を立てると、泣いているお姉さんへそっとのばしました。
 転ぶよりもずっと痛いって、どれくらい痛いんだろう。
 なんて、そんなことは考えません。
 考えたら、やめてしまいそうだからです。
 人さし指がお姉さんのおでこにふれました。
 お姉さんはでも、何も言わずにうつむいています。
 ナオ君はこわい気持ちをぐっとこらえ、いつものお姉さんみたいにやさしく笑いかけて言いました。
「お姉ちゃんは、泣いた顔よりも笑った顔のほうがカワイイな」
 それから、おまじないをとなえたのです。


   イタイのイタイのとんでこい
   ボクのところへとんでこい

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