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おまじないをやめたナオ君。
でも、ドジでおっちょこちょいはやめられないので、相変わらず転んでケガをします。
そして、やっぱりそのたびに泣いてしまい、ケンタ君たちに笑われていました。
「ナオ君は大人になっても泣き虫のままかもね」
あんまり泣くものだから、先生もあきれてそんなことを言います。
大人になっても、転んでワンワン泣く。
そんな自分を思い浮かべて、ナオ君は恥ずかしくなりました。
「やっぱり、泣き虫はなおなさきゃ」
でも、どうやって?
ナオ君はふと、ミユキお姉さんの言っていたことを思い出しました。
「転んでケガをするよりも痛い思いをすれば、平気になるよ」
転ぶよりも痛いこと。
でも、そんなに痛いことを、わざと自分でする勇気はありません。
「やっぱり、ボクは泣き虫のままかなあ」
ナオ君は暗い気持ちで、トボトボと帰り道を歩いていきます。
そして、ようやく家について玄関の前まきたとき。
「わっ」
ナオ君は思わず声をあげてしまいました。
ナオ君がドアを開けるよりも早く、お母さんが飛び出してきたのです。
「お母さん?」
「あ、ナオ!」
「ただいま」
「おかえり。ちょっと出かけてくるからね」
やけにあわてているお母さんに、ナオ君は首をかしげて聞きます。
「どうかしたの?」
「おとなりのミユキちゃんが、学校で大ケガしたらしいの」
「えっ?」
「さっきミユキちゃんのお母さんから電話をもらって、今、病院にいるって。だからお母さん、ちょっと行ってくるから」
「お姉ちゃんは大丈夫なの?」
「おでこを深く切っていてね、もしかしたら縫うかもって」
「おでこを縫う?」
「あとに残らないといいけど」
おでこを縫うだなんて、どんなに痛いことでしょう。
きっと、転んだケガなんかよりもずっとずっと痛いはずです。
想像しただけで、ナオ君はまっ青になりました。
「じゃあ、ナオは留守番しててね」
「あ、まって」
出て行こうとするお母さんを、ナオ君はあわててよびとめます。
「ボクも行く!」
「ナオも?」
お母さんは少し迷ったようでしたが、ナオ君がさっさと車のほうへ走りだしてしまったので、仕方なくつれていくことにしました。
病院につくと、お母さんは窓口で何かを聞き、早足で歩きだしました。ナオ君もあわてて追いかけます。
広い病院を奥へ奥へと歩くと、やがて【形成外科】と書かれた診察室の前にやってきました。
診察室は三つ。
「お姉ちゃん、中で診てもらってるの?」
「たぶんね」
しばらく待っていると、真ん中の診察室からミユキお姉さんと、お姉さんのお母さん、ハルコおばさんが出てきました。
「ミユキちゃん、大丈夫?」
「あら、わざわざ来てくれたの」
「どんな感じ?」
ナオ君のお母さんは、声を小さくしてハルコおばさんに話しかけます。
「五針も縫ったわ。思ったよりも傷が深くて」
「あとに残りそう?」
「もしかしたらね」
ナオ君とミユキお姉さんは、二人から少しはなれところに座っていました。
ミユキお姉さんはおでこに包帯をまいていて、ときおり手でさわっています。
「痛い?」
お姉さんは小さく首をふりました。
「麻酔をしてるから大丈夫。してなかったら、きっとすごく痛いだろうけど」
「どうしてケガしたの?」
「体育でバレーボールをしてね。ボールに飛びついたら、ネットを立てる柱にぶつかちゃったの。ドジでしょ」
その光景を思い浮かべて、ナオ君は顔をしかめます。
「痛かった?」
「痛かったなあ」
「転ぶより?」
「転ぶなんかより、ずっと。血もすごくでたし」
「お姉ちゃん、泣いちゃった?」
ナオ君が聞くと、お姉さんはまた首をふりました。
「泣かなかった。あんまり痛すぎると、泣くどころじゃないのね」
「そうなの?」
「それより、今のほうが泣きそうだよ」
お姉さんは大きなため息をついて、おでこの包帯をなでます。その大きな目からは、涙がこぼれてきました。
「傷あと、ずっと残るかもしれないんだって」
ナオ君は泣きだしたお姉さんにおどろいて、顔をのぞきこみます。
「残るのがイヤなの?」
「あたり前でしょ。おでこの傷なんてすごく目立つのに、一生消えないんだから」
お姉さんはそう言うと、顔をおおってだまりこんでしまいました。
ナオ君は、そんなお姉さんを見つめながらじっと考えます。
お姉ちゃんのケガは、転ぶよりずっと痛いケガなんだって。
じゃあ、お姉ちゃんと同じケガをすれば、ボクは転んでも泣かなくなるかな。
ボクの泣き虫もなおるかな。
そうだ。
自分でケガをする勇気はないけど――
ケガをうつすおまじないで、ナオ君は思い出したことがあります。
タマゴみたいなおじさんが言っていたこと。
「おまじないは、もうひとつあるんだよ」
「もうひとつ?」
「そう。今のおまじないは、ケガを誰かにうつすおまじない。もうひとつのおまじないは、誰かのケガを自分にうつすおまじないなんだ」
誰かのケガを、自分にうつすおまじない。
あのときは 「絶対につかいっこないよ!」 と言っていたナオ君です。
「誰かのケガに指輪をあてて《おまじない》を言えば、ぼうやのところへケガがやってくるんだ」
そのおまじないも、ちゃんと覚えています。
ナオ君は人さし指にはめたままの透明な指輪見て、それから涙を流すミユキお姉さんを見ました。
泣いているお姉さんを見るのは初めてです。
これまではケガをして泣くのはナオ君で、お姉さんはナオ君をなぐさめてくれる人でした。
「ナオ君は、泣いた顔よりも笑った顔のほうがカッコイイよ」
そんなことを言って。やさしく笑って。
今、泣いているお姉さんを見て、ナオ君も同じことを思います。
お姉ちゃんは、泣いた顔よりも笑ってる顔のほうがカワイイな。
ナオ君は魔法の指輪をはめた人差し指を立てると、泣いているお姉さんへそっとのばしました。
転ぶよりもずっと痛いって、どれくらい痛いんだろう。
なんて、そんなことは考えません。
考えたら、やめてしまいそうだからです。
人さし指がお姉さんのおでこにふれました。
お姉さんはでも、何も言わずにうつむいています。
ナオ君はこわい気持ちをぐっとこらえ、いつものお姉さんみたいにやさしく笑いかけて言いました。
「お姉ちゃんは、泣いた顔よりも笑った顔のほうがカワイイな」
それから、おまじないをとなえたのです。
イタイのイタイのとんでこい
ボクのところへとんでこい
おまじないをやめたナオ君。
でも、ドジでおっちょこちょいはやめられないので、相変わらず転んでケガをします。
そして、やっぱりそのたびに泣いてしまい、ケンタ君たちに笑われていました。
「ナオ君は大人になっても泣き虫のままかもね」
あんまり泣くものだから、先生もあきれてそんなことを言います。
大人になっても、転んでワンワン泣く。
そんな自分を思い浮かべて、ナオ君は恥ずかしくなりました。
「やっぱり、泣き虫はなおなさきゃ」
でも、どうやって?
ナオ君はふと、ミユキお姉さんの言っていたことを思い出しました。
「転んでケガをするよりも痛い思いをすれば、平気になるよ」
転ぶよりも痛いこと。
でも、そんなに痛いことを、わざと自分でする勇気はありません。
「やっぱり、ボクは泣き虫のままかなあ」
ナオ君は暗い気持ちで、トボトボと帰り道を歩いていきます。
そして、ようやく家について玄関の前まきたとき。
「わっ」
ナオ君は思わず声をあげてしまいました。
ナオ君がドアを開けるよりも早く、お母さんが飛び出してきたのです。
「お母さん?」
「あ、ナオ!」
「ただいま」
「おかえり。ちょっと出かけてくるからね」
やけにあわてているお母さんに、ナオ君は首をかしげて聞きます。
「どうかしたの?」
「おとなりのミユキちゃんが、学校で大ケガしたらしいの」
「えっ?」
「さっきミユキちゃんのお母さんから電話をもらって、今、病院にいるって。だからお母さん、ちょっと行ってくるから」
「お姉ちゃんは大丈夫なの?」
「おでこを深く切っていてね、もしかしたら縫うかもって」
「おでこを縫う?」
「あとに残らないといいけど」
おでこを縫うだなんて、どんなに痛いことでしょう。
きっと、転んだケガなんかよりもずっとずっと痛いはずです。
想像しただけで、ナオ君はまっ青になりました。
「じゃあ、ナオは留守番しててね」
「あ、まって」
出て行こうとするお母さんを、ナオ君はあわててよびとめます。
「ボクも行く!」
「ナオも?」
お母さんは少し迷ったようでしたが、ナオ君がさっさと車のほうへ走りだしてしまったので、仕方なくつれていくことにしました。
病院につくと、お母さんは窓口で何かを聞き、早足で歩きだしました。ナオ君もあわてて追いかけます。
広い病院を奥へ奥へと歩くと、やがて【形成外科】と書かれた診察室の前にやってきました。
診察室は三つ。
「お姉ちゃん、中で診てもらってるの?」
「たぶんね」
しばらく待っていると、真ん中の診察室からミユキお姉さんと、お姉さんのお母さん、ハルコおばさんが出てきました。
「ミユキちゃん、大丈夫?」
「あら、わざわざ来てくれたの」
「どんな感じ?」
ナオ君のお母さんは、声を小さくしてハルコおばさんに話しかけます。
「五針も縫ったわ。思ったよりも傷が深くて」
「あとに残りそう?」
「もしかしたらね」
ナオ君とミユキお姉さんは、二人から少しはなれところに座っていました。
ミユキお姉さんはおでこに包帯をまいていて、ときおり手でさわっています。
「痛い?」
お姉さんは小さく首をふりました。
「麻酔をしてるから大丈夫。してなかったら、きっとすごく痛いだろうけど」
「どうしてケガしたの?」
「体育でバレーボールをしてね。ボールに飛びついたら、ネットを立てる柱にぶつかちゃったの。ドジでしょ」
その光景を思い浮かべて、ナオ君は顔をしかめます。
「痛かった?」
「痛かったなあ」
「転ぶより?」
「転ぶなんかより、ずっと。血もすごくでたし」
「お姉ちゃん、泣いちゃった?」
ナオ君が聞くと、お姉さんはまた首をふりました。
「泣かなかった。あんまり痛すぎると、泣くどころじゃないのね」
「そうなの?」
「それより、今のほうが泣きそうだよ」
お姉さんは大きなため息をついて、おでこの包帯をなでます。その大きな目からは、涙がこぼれてきました。
「傷あと、ずっと残るかもしれないんだって」
ナオ君は泣きだしたお姉さんにおどろいて、顔をのぞきこみます。
「残るのがイヤなの?」
「あたり前でしょ。おでこの傷なんてすごく目立つのに、一生消えないんだから」
お姉さんはそう言うと、顔をおおってだまりこんでしまいました。
ナオ君は、そんなお姉さんを見つめながらじっと考えます。
お姉ちゃんのケガは、転ぶよりずっと痛いケガなんだって。
じゃあ、お姉ちゃんと同じケガをすれば、ボクは転んでも泣かなくなるかな。
ボクの泣き虫もなおるかな。
そうだ。
自分でケガをする勇気はないけど――
ケガをうつすおまじないで、ナオ君は思い出したことがあります。
タマゴみたいなおじさんが言っていたこと。
「おまじないは、もうひとつあるんだよ」
「もうひとつ?」
「そう。今のおまじないは、ケガを誰かにうつすおまじない。もうひとつのおまじないは、誰かのケガを自分にうつすおまじないなんだ」
誰かのケガを、自分にうつすおまじない。
あのときは 「絶対につかいっこないよ!」 と言っていたナオ君です。
「誰かのケガに指輪をあてて《おまじない》を言えば、ぼうやのところへケガがやってくるんだ」
そのおまじないも、ちゃんと覚えています。
ナオ君は人さし指にはめたままの透明な指輪見て、それから涙を流すミユキお姉さんを見ました。
泣いているお姉さんを見るのは初めてです。
これまではケガをして泣くのはナオ君で、お姉さんはナオ君をなぐさめてくれる人でした。
「ナオ君は、泣いた顔よりも笑った顔のほうがカッコイイよ」
そんなことを言って。やさしく笑って。
今、泣いているお姉さんを見て、ナオ君も同じことを思います。
お姉ちゃんは、泣いた顔よりも笑ってる顔のほうがカワイイな。
ナオ君は魔法の指輪をはめた人差し指を立てると、泣いているお姉さんへそっとのばしました。
転ぶよりもずっと痛いって、どれくらい痛いんだろう。
なんて、そんなことは考えません。
考えたら、やめてしまいそうだからです。
人さし指がお姉さんのおでこにふれました。
お姉さんはでも、何も言わずにうつむいています。
ナオ君はこわい気持ちをぐっとこらえ、いつものお姉さんみたいにやさしく笑いかけて言いました。
「お姉ちゃんは、泣いた顔よりも笑った顔のほうがカワイイな」
それから、おまじないをとなえたのです。
イタイのイタイのとんでこい
ボクのところへとんでこい
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