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第一章 王太子様御乱心
1-31 試練のダンジョン行
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「まったく」
まだブツブツ言っている私に構わずに、どんどん勝手に準備が進められていく。
「おい、小娘」
「なんですか?」
私が少し不機嫌そうに返事を返すと、禿げ(もうギルマスなんて呼んでやらない)が手招きしてくる。
「試験について大雑把に説明してやろう」
「へえ」
意外ですね。てっきり何の説明も無しに試験に放り込むつもりなのかと思ったのに。
「冒険者ギルドには『扉』という物があってだな。そこはダンジョンに通じている」
「待って。もしかしたら、何かあれば冒険者ギルドから魔物が溢れてきちゃうかもしれないって事? 王家の関係者としては容認できないのですが」
ギルドめえ、なんて物を野放しにしているのよ。
「ほう、それはおかしいな。お前の両親であるエクレーア公爵夫妻は、たまにはダンジョンに入らないと体が鈍るとか言って、王都のギルドでダンジョンに潜っているはずだが。
しかも夫婦ラブラブでよ。まったく、あの年でなあ。プップウ」
うわあ、他所の人に親のアレなところを笑われたー。
確かに、あれは実の娘でさえ、あまりにも甘ったる過ぎて、見ていて気分が悪くなるくらいの代物なんだけどさ。ああ、もう立ち直れないわ。私のヒットポイントはもうゼロよ。
「それでな。Sに相応しい、でかい獲物を狩ってこい。試験の内容はそれだけだ。
安心しろ。ダンジョンはやたらと中に入れないように魔法で封印され、必要であれば扉から入れるようになっている。
王国がギルドに委託して管理されているものだ。中から魔物が勝手に溢れるような事は絶対ない」
「へえ、それならいいけど。試験って随分と大雑把ね。勝った獲物が図体がでかいだけのハズレだったらどうするのよ」
「お前は、あの超姫の子供のくせに鑑定も使えんのか?」
「……使えますけど」
「Sランクを狩ってこい、以上だ。収納は持っているよな。さっきの小僧は持っていると言っていたが」
「持っているわ。中の地図とかあるのかな」
「何、ちゃんとSランクの魔物がいるゾーンまで送ってやるから安心しろ。そうだだっ広くはないから、すぐに終わるさ。
強いて言えば、ここのダンジョンはコロシアムのような場所に近いぞ。そう迷うようなところではないし、魔法やスキルで探査すれば帰り道は楽々戻れる」
「本当かしら。まあいいわ。知り合いのところも気になるから、さっさと片付けて帰ってくるわ」
そこでギルマスが楽しそうに軽く口笛を吹いた。
「さすがはあの超姫の娘だけの事はあるな。昔、お前が舞台で暴れていたところを見た事があるが、物心もついていなそうなチビのくせに惚れ惚れするほどの暴れっぷりだった。
あの芝居、一日で閉幕になったからな。いや正確に言えば、開始後三分ほどで何もかもがお終いじゃなかったか。あの超姫があんなに慌てているところなんて滅多に見られんから、実にいい見物だったわい」
「うぐあっ。見られていたの、あれを~」
世の中って油断も隙もならないわね。そういや、うちの母君ときたら、元々高ランクの冒険者で、確かSランクだったはず。
選りにもよって、こんなところで母親と同じ道を歩む羽目になろうとはねえ。このギルマスも絶対にうちの母親と知り合いだわ。
「あれ、そういやシナモンはどこ?」
「あの餓鬼なら大喜びで、もうとっくにダンジョンへ駆けていったぞ?」
「あの子ったら本当にもう!」
もうシナモンも先に行ってしまった事だし、仕方がないのでさっさと行って帰ってこよう。
あの子も待っていてくれればいいものを。もう自分が従者だという事さえ既に頭にないわね。何かの脳汁が垂れ流しになっているのに違いないわ。
ギルマス、もとい禿げに案内してもらった先は確かに扉でした。木製の威厳の有りそうな扉。
年代を刻み込まれた傷だらけで、重厚な扉がなんというか、魔法陣の中で宙に浮いた水銀のような物質、表面が波打って揺らめく鏡のようになっている物の中に浮かび上がっている。
あの光の波が流動する物質になったように見えるものは魔法物質だと思う。あれを媒介にしてマジックアイテムの魔法の扉で繋いでいるのじゃないかなと思うのですが。
おそらく、これを所定の場所からはずしてしまえば機能しなくなるのに違いないですわ。
「じゃあ、いってきます。ないと思うけれど、もし私が戻れなくなったら王宮へ連絡しておいてちょうだい。あ、非常口ってあるのかな」
ギルマスは首を竦めて、部屋にある机の引き出しを開けて大きめの金色をした鍵のような物を持ってきた。
「お前ら本当に慎重だな。そいつは緊急脱出キーだ。リタイヤしたい時は、そいつに魔力を通せ。この扉と同じ効果を発揮して、この出発ゲートに帰ってこれる。
さっきの小僧も同じような事を言って、そいつをせしめていったぞ。よほどの事はない。今まで通常の手順で帰ってこれなかった奴はおらん。死んでしまったりしない限りはな」
「まったくう、あの子大丈夫かしら」
「大丈夫だろう。あれは手練れだ。物足りないくらいなんじゃないのか」
私はその意見の正しさを認めて、ただただ苦笑するしかできませんでした。今頃、あの子は思いっきり楽しんでいそうだわね。
まだブツブツ言っている私に構わずに、どんどん勝手に準備が進められていく。
「おい、小娘」
「なんですか?」
私が少し不機嫌そうに返事を返すと、禿げ(もうギルマスなんて呼んでやらない)が手招きしてくる。
「試験について大雑把に説明してやろう」
「へえ」
意外ですね。てっきり何の説明も無しに試験に放り込むつもりなのかと思ったのに。
「冒険者ギルドには『扉』という物があってだな。そこはダンジョンに通じている」
「待って。もしかしたら、何かあれば冒険者ギルドから魔物が溢れてきちゃうかもしれないって事? 王家の関係者としては容認できないのですが」
ギルドめえ、なんて物を野放しにしているのよ。
「ほう、それはおかしいな。お前の両親であるエクレーア公爵夫妻は、たまにはダンジョンに入らないと体が鈍るとか言って、王都のギルドでダンジョンに潜っているはずだが。
しかも夫婦ラブラブでよ。まったく、あの年でなあ。プップウ」
うわあ、他所の人に親のアレなところを笑われたー。
確かに、あれは実の娘でさえ、あまりにも甘ったる過ぎて、見ていて気分が悪くなるくらいの代物なんだけどさ。ああ、もう立ち直れないわ。私のヒットポイントはもうゼロよ。
「それでな。Sに相応しい、でかい獲物を狩ってこい。試験の内容はそれだけだ。
安心しろ。ダンジョンはやたらと中に入れないように魔法で封印され、必要であれば扉から入れるようになっている。
王国がギルドに委託して管理されているものだ。中から魔物が勝手に溢れるような事は絶対ない」
「へえ、それならいいけど。試験って随分と大雑把ね。勝った獲物が図体がでかいだけのハズレだったらどうするのよ」
「お前は、あの超姫の子供のくせに鑑定も使えんのか?」
「……使えますけど」
「Sランクを狩ってこい、以上だ。収納は持っているよな。さっきの小僧は持っていると言っていたが」
「持っているわ。中の地図とかあるのかな」
「何、ちゃんとSランクの魔物がいるゾーンまで送ってやるから安心しろ。そうだだっ広くはないから、すぐに終わるさ。
強いて言えば、ここのダンジョンはコロシアムのような場所に近いぞ。そう迷うようなところではないし、魔法やスキルで探査すれば帰り道は楽々戻れる」
「本当かしら。まあいいわ。知り合いのところも気になるから、さっさと片付けて帰ってくるわ」
そこでギルマスが楽しそうに軽く口笛を吹いた。
「さすがはあの超姫の娘だけの事はあるな。昔、お前が舞台で暴れていたところを見た事があるが、物心もついていなそうなチビのくせに惚れ惚れするほどの暴れっぷりだった。
あの芝居、一日で閉幕になったからな。いや正確に言えば、開始後三分ほどで何もかもがお終いじゃなかったか。あの超姫があんなに慌てているところなんて滅多に見られんから、実にいい見物だったわい」
「うぐあっ。見られていたの、あれを~」
世の中って油断も隙もならないわね。そういや、うちの母君ときたら、元々高ランクの冒険者で、確かSランクだったはず。
選りにもよって、こんなところで母親と同じ道を歩む羽目になろうとはねえ。このギルマスも絶対にうちの母親と知り合いだわ。
「あれ、そういやシナモンはどこ?」
「あの餓鬼なら大喜びで、もうとっくにダンジョンへ駆けていったぞ?」
「あの子ったら本当にもう!」
もうシナモンも先に行ってしまった事だし、仕方がないのでさっさと行って帰ってこよう。
あの子も待っていてくれればいいものを。もう自分が従者だという事さえ既に頭にないわね。何かの脳汁が垂れ流しになっているのに違いないわ。
ギルマス、もとい禿げに案内してもらった先は確かに扉でした。木製の威厳の有りそうな扉。
年代を刻み込まれた傷だらけで、重厚な扉がなんというか、魔法陣の中で宙に浮いた水銀のような物質、表面が波打って揺らめく鏡のようになっている物の中に浮かび上がっている。
あの光の波が流動する物質になったように見えるものは魔法物質だと思う。あれを媒介にしてマジックアイテムの魔法の扉で繋いでいるのじゃないかなと思うのですが。
おそらく、これを所定の場所からはずしてしまえば機能しなくなるのに違いないですわ。
「じゃあ、いってきます。ないと思うけれど、もし私が戻れなくなったら王宮へ連絡しておいてちょうだい。あ、非常口ってあるのかな」
ギルマスは首を竦めて、部屋にある机の引き出しを開けて大きめの金色をした鍵のような物を持ってきた。
「お前ら本当に慎重だな。そいつは緊急脱出キーだ。リタイヤしたい時は、そいつに魔力を通せ。この扉と同じ効果を発揮して、この出発ゲートに帰ってこれる。
さっきの小僧も同じような事を言って、そいつをせしめていったぞ。よほどの事はない。今まで通常の手順で帰ってこれなかった奴はおらん。死んでしまったりしない限りはな」
「まったくう、あの子大丈夫かしら」
「大丈夫だろう。あれは手練れだ。物足りないくらいなんじゃないのか」
私はその意見の正しさを認めて、ただただ苦笑するしかできませんでした。今頃、あの子は思いっきり楽しんでいそうだわね。
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