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第三章 時を埋める季節

3-2 初仕事

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 そして、ドレスを纏った高級ドールをうまうまとゲットしたマーシャ姫は、宿の夕食後に早々にそれを抱きしめて、このビトーの街一番の宿にしてハズレ勇者御用達の宿でもある花の都ホテル貴賓室の、ふかふか高級ベッドの上で夢の国へ旅立った。

 そして、何故かもふもふな狼人形を枕にアリシャ姫も力尽きて、お姉様に同衾していた。うーん、君達二人は五十頭にも上る狼魔物に殺されかけた経験があるんじゃなかったのかい?

 まあ確かに、むくむくというかモフモフというか、マンガチックな顔をした、まるでクレーンゲームの景品のような可愛らしい奴ではあったのだが。

 泉にも一個買ってやろうかなあ、あいつ案外とその手の可愛いものが好きみたいなんだよね。スマホにもストラップをじゃらじゃらと付けていたし。

 今度クレーンゲームを開発させてみるか、主に俺と泉のデート用に。フォミオに作らせるのなら木製歯車による機械式ギミックとかになるのだろうか。

「悪いな、カズホ。うちの子のために大枚使わせてしまって」

「いやいや、お前の主たる君主様ときたら実に気前がいいんだぜ。この辺境のハズレ勇者からの悪辣な『光金貨三十枚』という厳しい取り立てにも喜んで応対してくださるんだからなあ。

 日本じゃこんな事は絶対にない待遇なんだ。なんたって日本円換算で約三百億円にも上る臨時収入なんだぞ。税金を払えなどという事も特に言われていないしな。

 日本でサラリーマンなんかしていたら、こんな事は絶対にありえない。まあ、お蔭で王国軍はたとえ勇者選人を失っても何回でも復活させて魔王軍相手に勝負ができ、入手した素材により兵士の防御力も相当上げられた。

 魔王軍に、勝てなくても負ける確率が随分と減った訳で、そういう内容なら人間の存亡がかかった軍事予算の中からなら、光金貨三十枚なんて物はたいした事ない小金なのさ」

「やれやれ、まあいいけれど、ほどほどにな」

「はは、当分は王国からはむしらないさ。ちゃんと割の良さそうな仕事も持ったんだし。あの時は、将軍とか宰相がすげえ顔をしていたからな。俺だってちゃんと弁えてはいるのさ。

 あれは、国王判断で王様が個人で決済可能な金額の範疇だろう。そうでなかったら取引の数を減らされたさ。王だって用もないのに無駄に大金を使ったら怒られちまうよ。

 俺は元々営業マンで、金の交渉でやれるところの線引き、落としどころは弁えているつもりだよ。たとえ世界は変われども、日々血反吐を吐いて培ってきた仕事のスキルは別に無くなりゃあしないのさ」

 それを聞いて、やれやれという感じでカイザは爆睡中の娘の頭をそっと撫でていた。

 翌日、お昼御飯を食べて帰る前に冒険者ギルドに顔を出した。相変わらずオフィスっぽい雰囲気丸出しだったが、今日は何故か精鋭メンバーがロビーでたむろっていた。

 やめろよな、お前らなんかがそこにいたら、せっかくの依頼者が皆逃げちまうだろうが。

 だが、見学したがってついてきていた、うちのお姫様方と来た日には、それはもう目を輝かせて奴らに突撃していった。

「やあっ、マーシャパンチだ」
「それ、アリシャキックよー」

「はっはっはっは」
 爆笑してチビ達を抱き上げて笑顔の応酬を交わす、鍛え上げた熟練冒険者、そして騎士令嬢お二方。いや別にいいんだけどさ、なんなの君達。

「よお、カズホ。なんだ、泉の姐御との間にもうこんな元気な子供達ができたのか」

「アホ、髪の色とか全然違うだろ。その子達はそこの騎士様の御令嬢だよ、もう元気な事この上ないけどな」

 そして奴らは、冒険者と楽しく戯れて大はしゃぎのチビ達を下ろすと、こっちへ皆で寄ってきた。

「早いな、カズホ。もう呼ばれたのか」
「ん? そりゃ何の話だい」

「なんだ、聞いてねえのかよ。依頼だ、ダンジョン攻略に行くぞ。今回は滅多に行かないようなダンジョンの深層になる。へたな奴を連れていくと死人が出るといかんので少数精鋭で行く事になった。お前も頭数の勘定に入っているぞ。お前の冒険者としての初仕事だ」

 なるほどなあ、ここは精鋭の中の精鋭たる『勇者様の能力』の出番という事か。ダンジョンかあ、俺は自分の目がキラキラと輝いていくのを止められなかった。

「つまり、それは俺が収納で兵站を担い、獲物袋も兼ねるという事だな」

「その通りだ! と言いたいところだが、お前さんもちゃんと戦力に入っているよ。王都ではまた派手に暴れていたそうじゃないか」

「ああ、俺の女や友達に手を出した馬鹿なムシケラがいたんでな」

 文字通りの虫枠でザムザに続いて二匹目だな。ミールのやつの場合、更に外観の虫度は、株ならば連日のストップ高のグラフといってもいほどに上がっているのだが。

「その件でギルマスがお前と話したいと言っていたが」
「へえ、そいつは今から子連れで行ってしまってもいいのかな」

 もう目をキラキラさせて、ギルマスのところまで一緒についていきたいモードで、必死に俺を見上げている騎士令嬢姉妹がいたので、一応訊いてみた。

「ああ、いいだろう。邪魔なら放り出されるまでの話だ」
「ついてこいよ」

 そんなの、普通は駄目っていうものだけどね。チビ達は躍り上がらんばかりの喜びようだった。さすがは騎士の娘という事なのか?

 俺は、あの厳つい『歓迎会主力メンバー』と一緒に、二階へと登っていった。
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