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第三章 時を埋める季節

3-29 交渉成立

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 俺の代理人と精霊達の交渉は、チョコの山が消え失せるのと同時に成立したらしい。

「どうなった?」

「ああ、なんとかやり直しは認めてもらえたようだよ。よかったね、ここでリタイヤだと、もう二度とここのダンジョンには入れないところだったよ」

「おい、ペナルティが厳し過ぎるだろう~。警告も無しに一発垢バンなのかよ。そもそも、王家との約定とか、どうなっているんだよ」

「もう半分忘れているんじゃないの。ほら、王家が地形も変わるほどの長い間放っておくからさ」

「ああ、なるほど。拗ねているどころか約定を交わした事自体がもう忘れられていたのか」

「さっきの精霊を通じた交渉で、やっと約定を結んでいた事を思いだしてもらえたみたいよ」

「そうか! じゃあもしかしたら、ここからはスムーズに行けるのかな」

「多分、それとこれとは別じゃないのかな? まあ頑張って」

 どうやら会話の内の俺のターンの部分と、そこで浮かべた俺の表情だけで大体の事情が理解できたらしいパーティメンバー達は、もうすでに涙目になっているナナを慰めていた。

「姫様、元気出しなって。きっと宝物庫まで辿り着けるからさ」

「あ、うん。だといーなあ……」

 こいつもだいぶ諦めてきてるのかな。

 まあ、いざとなったら他所の国へ嫁に行けばいいだけなのだが、魔王が人間を滅ぼすというのならどこへいっても同じなのだしな。

 後ろ盾が父ではなく、将軍だというのはまたなんだけど。

「それでカズホよ、どうするのだと」
「ああ、多分あれだ」

 俺が指差したのは、さっき俺達が出てきたという今目の前にある場所ではなく、もっと上の方の位置に存在する確かさっきまでは絶対に無かったはずの開口部だった。

 それでも今までの道のりの内容から考えて『ルートバック20%戻し』くらいのペナルティで済んでいそうなので、俺も気を取り直した。

「じゃあ、皆さん。一つ、気合を入れて頑張りますか。あそこから攻略はやり直しなんだってよ」

「そうか、また難儀な行軍の始まりだな」

「まだ昼前だ。ちょっと外で休んでいくか、パウル。なんだか疲れたような顔をしているぞ」

「いや駄目だ。大精霊の奴が気まぐれに入り口を閉じてしまうと困る。すぐに行くぞ」
 それは大いに有り得るな。

 何しろここの大精霊の事だから「あれ、なんでこんな場所に入り口を作ったんだったっけかな。戸締りはしっかりしなくっちゃ」とか言い出しかねない。

 そしてマルーク号はまるで吸い込まれるように、その山の中腹よりは下にある開口部へと侵入していった。

 マルーク号が着陸した場所は、なんというか宇宙船の格納庫とでもいった方がいいようなメカニカルで金属質な意匠を施された空間だった。

 いつのまにかマルーク号が入って来た出入り口は塞がり、直方体の空間の出口は一つだけで、それはとてもマルーク号など使えない小さな物で、まるで「ここを通りたければ歩いていけ」とでも言いたいが如しだ。

「やれやれ、通路の高さがそれなりにあるところをみると、ゲンダスは使っていいらしいな。なあエレ、韋駄天弐号とか使ってもいいと思う?」

「どうだかね。まあやってみてもいいのだけれど、また外に放り出されても知らないし、今度はやり直しのお情けもないかもしれないよ」

「そうかあ、まあ仕方がないから諦めるか。ゲンダス・タクシーが使えるだけありがたいな」

 そういう訳で、マルーク号とゲンダス軍団を入れ替えて、護衛のザムザ達を呼びだして出発した。

 通路は格納庫側から見ると、要塞か基地の中の通路みたいだったのだが、通路へ入るとまた洞窟風に戻った。

 さっきの格納庫は、おそらく俺の頭の中から取り出したSF映画か何かからとったデザインで、やはり地の大精霊ノームたるものは基本的に洞窟風デザインに拘るものらしい。

 そして最初の角を曲がったところで、いきなり強烈なブレスが飛んできた。

 先頭のザムザ1が瞬く間にブレスを食らって真っ赤に炙られている。

 まるでドラゴンのような代物じゃないかと思ったのだが、あのミールのブレスのように勇者をまとめて蒸発させるような代物ではない、ただの炎のようだ。

 こっちまで流れてくるような強烈さでなくて幸いだ。今はゲンダスにはすべて絶対防御を展開できるザムザを随伴させているので、あれを食らったらヤバイ人間はパウルとフランコだ。

「今のは何だ」
「さあな、ちょっと迂闊に進めないぞ」

「強引にザムザのスキルで全員を守って、ブレスの中を突っ切ってもいいんじゃないか」

「いや、またへたな小細工を使うと大精霊の機嫌を損ねてもいかん」

 ハリーが魔法で何か測っていたようだが、終わったら唸っていた。
「どうした、ハリー」

「あれは火焔樹だな。地面の上から一瞬のうちに成長して生え、一発強力なブレスを吐いては枯れていく。

 数もキリがないし、攻撃の瞬間にありえない速度で成長してくるから目視ではどこに埋まっているのかわからないぞ。

 地精霊の力で隠蔽されているものらしい。これがノームの力か、非常に面倒だな」

「種だけ撒いた畑みたいな物なのかよ。じゃあ、どうするかな」

 塩分でも大量に撒いたら枯れてしまうだろうか。でも土壌を荒らすような物を撒くとノームが怒るだろうか。

「よし、じゃあこいつを試してみるか」

 俺はミール1の魔核を取り出した。こいつはでかいから使う時に苦労するぜ。

 だから普段使いする気にはならないのだ。それに奴はでかいから、こんな細い通路では出現できないだろう。

 大精霊の作ったダンジョンなのだから、強引な事をすれば通路ではなくミールの方が潰されてしまってもおかしくない。

 ミールの巨大な魔核だけでも、縦横の幅が三メートルちょっとくらいしかない通路の中で非常に存在感が大きい。

 俺はゲンダスに命じて、その巨大魔核を件の通路に転がしてやった。

「それ、スキル大地の弛緩」

 みるみるうちにそれはミール魔核の足元から始まり、その火焔を放つ大地雷原を耕していった。

 耕すというよりも、攪拌し丸ごと粉砕していくかのような感じに開墾していく。

「何、このスキルは」

「ああ、ミールが土中を進む時に前方に放射して、自分が進みやすいようにこのスキルで進路上の土をズグズグにしていくのさ。これでどうだろうか」

 俺はザムザ1を先頭で渡らせてみたが、大丈夫なようだった。百メートル先から奴が言ってきた。

「主よ、ここはもう安全なようだ」
 俺は風魔法と収納からの土を足して道を均した。

 だが歩き出して、皆も下が崩れて足がめり込んでしまう。さすがにザムザは苦も無く力業で渡っていったようなのだが。

 もしかして飛空スキルが使えるのかも。だが俺達が使うのは多分駄目だろうな。

「みんな、ちょっと下がってくれ。今簡易に舗装する」

 俺は大きめなサイズの石畳を一瞬にして敷き詰めて、臨時の街道を作ってみせた。これくらいなら岩などで叩き均さなくてもいけるだろう。

 足元はさすがに平らには均し切れていないので歩くのにあまり適していないようだが、歩くのは主に俺の眷属かパワフルな二人組だ。

「さあ、渡ろう」
 一応、生き残りの火焔樹がいるといけないので、すべての人間にザムザと共に渡らせた。
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