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第三章 時を埋める季節

3-69 介添え人ザムザ

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「カイザ、私達をそこにいる私達の可愛い孫二人と勇者様、それと、えーとそこの……」

 だが、ザムザ1は彼の前に進み出て堂々と名乗った。

「我の名はザムザ1である。

 元魔王軍大幹部の魔将軍にして魔王軍諜報担当魔人であったが、勇者の手によって斃れ、今はそこにおられる勇者カズホ様に仕える眷属の身である。

 アイクル家のご主人よ、我は人ではない身の上故、一切の御気遣いは無用である。

 しかし主よ、我がここにいると何かマズイような気がするのは我の気のせいか」

「はっはっは。

  なあに構うな、我が友人である辺境の騎士カイザ殿は些か実家の家族とのコミュニケーションが不足気味のようだ。

  ここは一つ、お前がお手伝いしてさしあげろ」

 後ろで「プフっ」という音がして、貫禄ある執事さんが執事として決してやってはいけない失態を犯したような気がするのは、もしかしたら風の精霊の悪戯だろうか。

 結構今までに風精霊の加護もついているんだよな。
 誰も気まぐれな風の大精霊フウの居所は知らないらしいのだが。

 加護だけくれて、まったく役に立たない連中だ。
 無駄飯食いとは、まさに奴らの事だ。
 食うのは主にチョコなんだけど。

「そうね、ではザムザ1さん?
 よろしければお茶をどうぞ」

「奥方、これはご丁寧に痛み入る」

 動じねえなあ奥方、この元魔人たるザムザの姿を前にして、なんという度胸だ。

 まあ、首から下が人間なので、俺の眷属の中では比較的馴染みやすいという事はあるのだが。

 これがこの融通の利かない頑固者の騎士を育てた、おっかさんなのか。

 弟であるご当主はその様子に苦笑いを浮かべつつも、妙に楽しそうだ。

 強引にソファーの両親とは反対側に座って兄を真ん中に押しやり、ザムザ1と二人で兄をサンドイッチする形で座る。

「もう逃がしませんからね」という形を取ったわけだ。

 俺はテーブル脇の一人掛けソファーの方に、わざとお行儀悪く足を組んで座り、「俺はただの傍観者ですから、息子さんの方はよしなに」と言った無言のメッセージを、目線と共に父君に送ってみた。

 それを受けた彼も楽しそうにして孫二人を優しく手招いた。

 二人はすかさず駆け寄って、マーシャが手早く祖母の膝に事態をよくわかっていないアリシャを装填し、自らも祖父の膝に速やかにパイルダーオンして話し合いの体勢は完成した。

 その家族のために働かせた孫の機知に思わず微笑む祖父と祖母。

「ああ、うん、その。
 お二人とも、お元気でしたか」

 会話がかてえな、おい。
 いつもの通りにやっていりゃあいいのに。

 この男にはあの佳人ちゃんと斎藤さんの爪の垢でも飲ませておかないとな。
 ビトーの冒険者ギルドに招いてテキーラでも一気飲みさせるか。

「ああ、見ての通りさ。
 お前こそ元気そうで何よりだ。

 いくら遠くへ行っても便りくらいは寄こしなさい。
 モールス氏が連絡を寄越してくれなかったのなら孫が生まれた事すら知らなかったよ」

 なんだと!
 あのモールス氏が!?

 それはまさしく、彼の株が証券取引所の管理ポストから無事に救い出され、上場廃止を免れた瞬間だった。

 それを為した白馬の騎士(証券用語だと本当は少し違う)を演じてくれたのは、なんとカイザの父君だった。

「そ、そうか。彼が……」
 そして何も言えなくなってしまうカイザ。

 だが、彼の左側には俺が派遣した介添え人がいたのだ。
 ザムザ1は人のように遠慮したりする事は一切ない。

「カイザ殿、久しぶりに対面する家族なのだ。
 さあ、もっといつものように会話を」

「そうよ、もう何年もあっていないのだから、お話を聞かせてちょうだい」

「そうだ、ザムザ1殿の言う通りだ」

 いつの間にか家族会議の進行係のようになっているザムザ1。
 へたに俺が何か言うよりも、こっちの方がいいからな。

 その面白い、いつもは見られない父の様子に楽し気なおチビ達。

「辺境の村は楽しいんだよ。
 素敵な森があって、それはあたし達のものなの」

「ほお、そうか。
 それはこの王都の屋敷にはないものだな」

「それでね、それでね、森の真ん中にはね、カズホが作ってくれたすんごい広場があるの。

 そこには精霊さんもいっぱいいるのよ。
 ほら、今みたいに」

「何っ」
 振り向きながら、そう叫んで立ち上がってしまったのは俺だった!

「うおおっ、貴様らいつのまに~」

 振り返ったそこには好奇心旺盛というか、見世物を見にやってきたというか、感じからして俺が初めて出会うような精霊達までいた。

 見た事のない種族もいるな。
 翅がウスバカゲロウっぽい奴とか、バッタっぽい奴もいる。

 頭に触手を生やしている奴もいるし。
 多分三万匹くらいいそうな雰囲気だ。

「こ、こいつらは?」
「あたしのお友達なのー、
 カズホー、みんなにチョコ上げてー」

 俺は仕方がなく例によってチョコの山を侯爵家のリビングへと築き上げた。

 そして、こちらの方にもお菓子皿に盛ったチョコを取り出して勧めた。

「こいつは異世界の菓子なんですが、精霊はこれに目が無くてね」

 ご当主である弟君も横を向いたまま、チョコが舞い飛び銀紙が散らばっていく様子をガン見していた。

「これはまた面妖な」
「そこに精霊様がいらっしゃるのですか?」

「いらっしゃるも何も、全部この子達に加護を与えている精霊達ですよ。

 お母さんが精霊に好かれる体質だったようで、お母さんのお腹の中にいる頃からの付き合いらしいです。

 精霊の加護なら俺にもいっぱいついてますがね」

 思わず絶句するマーシャ達の祖父母。
 あれ、何かそうなるような話だったのかな。
 だがカイザが解説してくれた。

「カズホ、お前はよくわかっていないだろうが、この世界で精霊の加護などを持っている人間は珍しい。

 お前ら勇者のように精霊の方から寄っていくばかりではないのだから」

「え、王都の勇者って、あまりそう加護を持っていないらしいんだけどな」

 俺の知る限りでは、俺が強引にもらってやった泉くらいのものなのだが。

 後は同じはぐれ勇者の宗篤姉妹くらいのものだ。

 まあ男が大半で、巻き込まれたせいで結構やさぐれている奴も少なくないからな。

 あそこには精霊さんも少し近寄りづらい雰囲気なのかもしれない。
 ああ、国護師匠はまた別格なのだが。
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