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第四章 大精霊を求めて
4-5 要チェック
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それから俺は愛しの泉に電話してみた。
「よお、もう例の仕事は終わったかい」
「ああ、うん。
昨日の晩に帰ってきたところよ」
すぐ電話には出てくれたものの、怠惰そうに欠伸しつつ答える泉。
どうせ自分だけはさっさと飛んで王都まで帰ってきたくせに。
任務で疲れているというよりは単に寝過ぎた感じなんじゃないだろうか。
さすがは泉だ、いつもながら要領がいいな。
そのあたりは飛行勇者ならではの特典なんだしね。
「そうか、ちょっと村まで見に来ないか。
お祭り用に御神輿を作ったんで感想を聞かせてほしいんだ」
「え、秋のお祭りはもう終わったのに、なんでまた御神輿なんか」
「いや、今度カイザの奴が再婚する事になったんでな、村で祭りを開いて、ついでに彼が領主様になったお祝いも兼ねて祝福する事になったので試作してみたんだが、細かいところのデザインはまったく自信がないんだ」
「あはは、いいわね。
そうか、あの人が再婚するんだ。
おチビさん達にもママが出来てよかったじゃないの。
それよりも、あたし神輿にはちょっとうるさいのよ。
ガンガンにチェックしてあげるわ」
「へえ、そいつは初耳だな。お手柔らかに頼むぜ」
国護のおっさんなんかが詳しいかもとか思っていたのだが、意外なところから強い関心が寄せられた。
そして、あっという間にやってきた泉。
早いなあ、来ると言ってから三分とかかってねえぞ。
あのスキル増幅鉱石の威力が凄いな。
「八百キロを、ざっと三分か。
時速一万六千キロとして、約マッハ十三ってところかしら。
まだまだ君には及ばないわね~」
「十分はええよ。
俺の日本の家からバス停に行くよりも早いくらいなんじゃないのか」
「えっへっへー、そのうち、もうちょい精進するよー。
それで、例の御神輿はどこ?」
「こちらでごぜえますよ~」
フォミオが呼んでいるので振り向いたら、どうやら村の若衆に神輿を担がせるらしくて、皆が法被を着て集まっている。
何故だか知らないが妙に気合を入れて、皆で組手のような真似をしているのだが、それはちょっと違うんじゃないのだろうか。
そして、楽しそうに台の上に置かれている神輿に近づいて屈み、目を輝かせている泉。
「へえ、なかなかいいじゃない。
結構雰囲気は出ていると思うけど、まだあちこちの部品が足りないんじゃないかな。
ちょっと図面を描いてみようか」
「そんなものが描けるの⁉」
「ああ。
描くって言ってもラフに説明するくらいのものよ、後は口頭ね」
そう言って彼女はフォミオにつきっきりで神輿の品質向上に努めている。
俺は一応完成した御神輿や部品は万倍化してあるので、それを渡して、そいつをフォミオがさらに改良したパーツを組み込んでいく。
その間に村の若衆は「わっしょい、わっしょい」と試作品の神輿を担ぐ練習に励んでいた。
何しろ、新しい領主様としてカイザを迎えるのだ。
はっきり言ってしまって八年も村の衆と一緒に暮らしているので、彼の顔を知らない住人など、この村には一人もいない。
村の一般生活習慣や、各種の風俗的な習わしや住人の気質などにも詳細に精通し、彼の子供達などは生まれた時からここの住人で最近まで村を出た事すらなかったほどなのだ。
あまりにも今更感でいっぱいであったのだが、まあそこはそれ、村の仲間としてもお祝いするには吝かではないのだから。
むしろ今更、堅苦しくなれと言うのが領主領民の双方共に無理な話なのだ。
そこから、さらに丸二日をかけて改良型神輿がマークⅤまで作られ、おおまかで簡素だった俺の神輿がもう別物のようになっていた。
自動車なら完全に違う車種だよな、これ。
しかも、泉ときたら各部の細かい名称まで知っていたし。
「なんで、そんなに御神輿に詳しいの」
「ああ、前に会社で御神輿を寄付する話になったんだけど、会社が忙しい時期だったので何故かあたしが担当に指名されて、お客様が来ない時間に調べ物をしてさ。
うちの町内でも、お父さんがそっちの方の新調を担当していたから。
まさかその無駄な知識が、こんな異世界でも役に立つとはね」
「いや、いいんだけどな。
しかし、俺が作らせた、なんちゃって神輿がよくここまでグレードアップしたもんだなあ」
なんかこう、日本で買ったら三百万円くらいしそうなほど立派な、本職が作ったのかと思うような御神輿が出来上がった。
ネットで標準価格を見ると、これがまた大型の奴だと一千万円くらいするんだよな。
とりあえず、村で使うような奴だからこれでいいか。
ほぼ日本の町内会クラスの人口しかいないような小村なのだし。
「ねえ、どうせだから山車なんかも作ってみない?」
「そうだな。この道が舗装されていない村でまともに山車は引けないだろうから、いっそ村のメインストリートも石畳で舗装するか」
どうせなら色石で舗装しても面白い。
スーパーの床みたいに、子供達が色石飛び遊びをして楽しむだろう。
一応は村の幹線道路なので、日本だと「よいこはここであそばない」の立て札が立てられてしまうだろうが、ここでは滅多に交通がないからな。
あっても人間の歩行速度並みの荷馬車くらいだし、そんな物に轢かれるような間抜けな子供は辺境の村には一人だっていやしないのだから。
この村で最高速度を誇るのはフォミオが引く韋駄天シリーズしかないのだ。
マルータ号は空を飛ぶので、元々街道や村内道路とはさして縁がない。
飛行する乗物に慣れない村人が嫌がるので、あまり高度を上げないだけなのだ。
お子様は別だけどね、あいつら向けには高い方が喜ばれるからな。
そういや、現在王都のコーチビルダーにて新飛空馬車を開発中だ。
そもそもマルータ号は間に合わせで強引に作った物なのだが、その原始的な作りの割には案外と使えてしまっていたので、そのままになっていただけの物である。
という訳で、本来の大量輸送機関としての専用車両として作成している『バスタイプ』の飛空バスだ。
いやね、村の子供会の行事に使えたらと思って。
遠足なんかにも使ったらいいかと思ってさ。
アルフェイム城を改めた麦野城の名をまた改めた『ルーテシア・キャッスル』への定期路線バスも走らせたいのだ。
街道を整備して、途中に宿場町を作る事も考えているのだ。
ほら、アルフ村が最果てだから人が来ないのであって、もっと奥に辺鄙な村とか作ったら人も来やすいだろう。
テーマパーク、ルーテシア・キャッスルのテーマは当然、昔の異世界からの侵攻戦になるのではないかと思うが、そして今時のネタとして勇者対魔王の戦いを含めるのもいいな。
あくまでアトラクションとしてなのだが。他の関係者の意見も聞きたいものだ。
「よお、もう例の仕事は終わったかい」
「ああ、うん。
昨日の晩に帰ってきたところよ」
すぐ電話には出てくれたものの、怠惰そうに欠伸しつつ答える泉。
どうせ自分だけはさっさと飛んで王都まで帰ってきたくせに。
任務で疲れているというよりは単に寝過ぎた感じなんじゃないだろうか。
さすがは泉だ、いつもながら要領がいいな。
そのあたりは飛行勇者ならではの特典なんだしね。
「そうか、ちょっと村まで見に来ないか。
お祭り用に御神輿を作ったんで感想を聞かせてほしいんだ」
「え、秋のお祭りはもう終わったのに、なんでまた御神輿なんか」
「いや、今度カイザの奴が再婚する事になったんでな、村で祭りを開いて、ついでに彼が領主様になったお祝いも兼ねて祝福する事になったので試作してみたんだが、細かいところのデザインはまったく自信がないんだ」
「あはは、いいわね。
そうか、あの人が再婚するんだ。
おチビさん達にもママが出来てよかったじゃないの。
それよりも、あたし神輿にはちょっとうるさいのよ。
ガンガンにチェックしてあげるわ」
「へえ、そいつは初耳だな。お手柔らかに頼むぜ」
国護のおっさんなんかが詳しいかもとか思っていたのだが、意外なところから強い関心が寄せられた。
そして、あっという間にやってきた泉。
早いなあ、来ると言ってから三分とかかってねえぞ。
あのスキル増幅鉱石の威力が凄いな。
「八百キロを、ざっと三分か。
時速一万六千キロとして、約マッハ十三ってところかしら。
まだまだ君には及ばないわね~」
「十分はええよ。
俺の日本の家からバス停に行くよりも早いくらいなんじゃないのか」
「えっへっへー、そのうち、もうちょい精進するよー。
それで、例の御神輿はどこ?」
「こちらでごぜえますよ~」
フォミオが呼んでいるので振り向いたら、どうやら村の若衆に神輿を担がせるらしくて、皆が法被を着て集まっている。
何故だか知らないが妙に気合を入れて、皆で組手のような真似をしているのだが、それはちょっと違うんじゃないのだろうか。
そして、楽しそうに台の上に置かれている神輿に近づいて屈み、目を輝かせている泉。
「へえ、なかなかいいじゃない。
結構雰囲気は出ていると思うけど、まだあちこちの部品が足りないんじゃないかな。
ちょっと図面を描いてみようか」
「そんなものが描けるの⁉」
「ああ。
描くって言ってもラフに説明するくらいのものよ、後は口頭ね」
そう言って彼女はフォミオにつきっきりで神輿の品質向上に努めている。
俺は一応完成した御神輿や部品は万倍化してあるので、それを渡して、そいつをフォミオがさらに改良したパーツを組み込んでいく。
その間に村の若衆は「わっしょい、わっしょい」と試作品の神輿を担ぐ練習に励んでいた。
何しろ、新しい領主様としてカイザを迎えるのだ。
はっきり言ってしまって八年も村の衆と一緒に暮らしているので、彼の顔を知らない住人など、この村には一人もいない。
村の一般生活習慣や、各種の風俗的な習わしや住人の気質などにも詳細に精通し、彼の子供達などは生まれた時からここの住人で最近まで村を出た事すらなかったほどなのだ。
あまりにも今更感でいっぱいであったのだが、まあそこはそれ、村の仲間としてもお祝いするには吝かではないのだから。
むしろ今更、堅苦しくなれと言うのが領主領民の双方共に無理な話なのだ。
そこから、さらに丸二日をかけて改良型神輿がマークⅤまで作られ、おおまかで簡素だった俺の神輿がもう別物のようになっていた。
自動車なら完全に違う車種だよな、これ。
しかも、泉ときたら各部の細かい名称まで知っていたし。
「なんで、そんなに御神輿に詳しいの」
「ああ、前に会社で御神輿を寄付する話になったんだけど、会社が忙しい時期だったので何故かあたしが担当に指名されて、お客様が来ない時間に調べ物をしてさ。
うちの町内でも、お父さんがそっちの方の新調を担当していたから。
まさかその無駄な知識が、こんな異世界でも役に立つとはね」
「いや、いいんだけどな。
しかし、俺が作らせた、なんちゃって神輿がよくここまでグレードアップしたもんだなあ」
なんかこう、日本で買ったら三百万円くらいしそうなほど立派な、本職が作ったのかと思うような御神輿が出来上がった。
ネットで標準価格を見ると、これがまた大型の奴だと一千万円くらいするんだよな。
とりあえず、村で使うような奴だからこれでいいか。
ほぼ日本の町内会クラスの人口しかいないような小村なのだし。
「ねえ、どうせだから山車なんかも作ってみない?」
「そうだな。この道が舗装されていない村でまともに山車は引けないだろうから、いっそ村のメインストリートも石畳で舗装するか」
どうせなら色石で舗装しても面白い。
スーパーの床みたいに、子供達が色石飛び遊びをして楽しむだろう。
一応は村の幹線道路なので、日本だと「よいこはここであそばない」の立て札が立てられてしまうだろうが、ここでは滅多に交通がないからな。
あっても人間の歩行速度並みの荷馬車くらいだし、そんな物に轢かれるような間抜けな子供は辺境の村には一人だっていやしないのだから。
この村で最高速度を誇るのはフォミオが引く韋駄天シリーズしかないのだ。
マルータ号は空を飛ぶので、元々街道や村内道路とはさして縁がない。
飛行する乗物に慣れない村人が嫌がるので、あまり高度を上げないだけなのだ。
お子様は別だけどね、あいつら向けには高い方が喜ばれるからな。
そういや、現在王都のコーチビルダーにて新飛空馬車を開発中だ。
そもそもマルータ号は間に合わせで強引に作った物なのだが、その原始的な作りの割には案外と使えてしまっていたので、そのままになっていただけの物である。
という訳で、本来の大量輸送機関としての専用車両として作成している『バスタイプ』の飛空バスだ。
いやね、村の子供会の行事に使えたらと思って。
遠足なんかにも使ったらいいかと思ってさ。
アルフェイム城を改めた麦野城の名をまた改めた『ルーテシア・キャッスル』への定期路線バスも走らせたいのだ。
街道を整備して、途中に宿場町を作る事も考えているのだ。
ほら、アルフ村が最果てだから人が来ないのであって、もっと奥に辺鄙な村とか作ったら人も来やすいだろう。
テーマパーク、ルーテシア・キャッスルのテーマは当然、昔の異世界からの侵攻戦になるのではないかと思うが、そして今時のネタとして勇者対魔王の戦いを含めるのもいいな。
あくまでアトラクションとしてなのだが。他の関係者の意見も聞きたいものだ。
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