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ハチミツ味のSavage CAFE
1話
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いかにも海沿いで経営しているカフェらしく、そのお店の入口のすぐ傍には、広いオープンデッキがしつらえてあった。
こういってはなんだけど、この町のお店にしてはかなり洒落ていると思う。
潮風に吹かれて、波音を聴きながらランチなんかすると楽しそう。
店主さんらしき男性とタクマさんが親しげに挨拶を交わし、雨のために店内に通された私たちだったが、なんだろう。 どこか見覚えがある。
長身で細面のイケメンマスターといい、ダークブラウンで統一されたログ風の内装といい。
「女連れって珍し。 もしかして昨日海にいた子? 親戚の姪っ子とか?」
あ、この声は、あのときタクマさんと車に乗ってた男の人だ。とりあえず、それは分かった。
「いや彼女」
タクマさんが卵とコーヒーでいいや、とオーダーする合間にしれっと言う。
「!!!?」
「え、わかっ! いくつなの彼女」
『彼女』
《goo国語辞典より》
彼女…愛人、恋人である女性。「―ができた」⇔彼/彼氏。
もちろん私はこれも調べ済みだ。
でも、だけど、まさかこのタクマさんが、こうもアッサリ言ってくれるとは思ってなかった。
なんというか、出合いがしらにカウンター受けたみたいな。
ダメ。 めまいと動悸が止まらない。
ついでに私の足に力が入らない。
「アレ……どしたのこの子。 カウンターに崩れ落ちて一点見詰めたままプルプルしてるけど」
「こいつ時々、世界線超えるクセあるだけだから気にすんな」
そっか、勿体ないねえ。 かわいいのに。
などという声が彼方から聴こえてきた。
「綾乃。 とりあえず戻ってきて座れ。 ホラメニュー」
「は、……はい」
顔の熱さがなかなか引かない。
おそらくゆでだこみたいになっていると思われる私に、店主さんがぷぷっと笑みを洩らした。
「オレ拓真の元同級生ね。 竹下タカシって間抜けな響きだからタケでいいよ。 ここのオーナーやってんの、よろしく。 えっと」
「森本 綾乃です。 あの、私以前、ここに来たことがあるような気がするんですが?」
先ほどから感じている既視感に、首を斜めに傾けながら尋ねると、代わりにタクマさんが返事を請け負った。
「ああ。 オマエ記憶力だけはいいよな。 五、六年っぐらい前か。 こんな風にメシ食いに連れてきた」
「五……? いや、うわ。 ちょっと待って、あの時のチビっ子!?」
ああ、やっぱり。うろ覚えだけどもそんな気がしたんだよね。
タケさんも忘れてたようで、自分の腰位の高さに手をかざし、当時の私の様子を示してきた。
ちびっ子と言われるのも無理はなく、あれは私が中学校に入ったばかりの頃だったから。
正しくは、七年前だよ。 タクマさん。
拓真くーん。 ちょっとコレは犯罪じゃないの? そんな風に茶化してくるタケさんを無視して、タクマさんはコーヒーカップに口をつけている。
タケさんがカウンターの向こうから楽し気に私の方に向き直ってきた。
「で、なに? 今日はこんな朝早くから。 綾乃ちゃん、どう? この不愛想と付き合ってみて」
「えっあ。 今朝はあったかくて硬くて長かったなあと思いました」
「ブッ」
コーヒーを吹き出しそうになっているタクマさんに、半分引き気味にタケさんが視線を移す。
「うわあ……こんな子相手に朝っぱらから?」
朝っぱらからって言われても。
付き合ってるなら、腕組んでもいいと思うんだけど。
小さい子なんかもよく親の腕にぶらさがって遊んでるし。
「?私のせいで少し濡れてしまったのは申し訳ないですけど。 でも私も初めて触ったので、なんというか、幸せで」
うっとりしながら思い出し呟く私に、タクマさんがナプキンで口元を拭いながら殺し屋のような目で見てくる。
「綾乃黙れ。 永久にだ」
「拓真って、まさに正統なここの店名にそぐう男だったんだねえ」
腕を組み、しみじみと語るタケさん。
店名。
メニューに書いてある、Savage CAFE の、Savageって、たしかカッコいいって意味だったと思う。
「まさにそうですよね!!」
元気よく私が答え、それに対し大笑いするタケさんと、片手で顔を覆い首を振っているタクマさんだった。
ちなみに、Savageという単語は元々は「凶暴な」「獰猛な」という意味らしいというのを、私は結構あとになってから調べて気付いた。
こういってはなんだけど、この町のお店にしてはかなり洒落ていると思う。
潮風に吹かれて、波音を聴きながらランチなんかすると楽しそう。
店主さんらしき男性とタクマさんが親しげに挨拶を交わし、雨のために店内に通された私たちだったが、なんだろう。 どこか見覚えがある。
長身で細面のイケメンマスターといい、ダークブラウンで統一されたログ風の内装といい。
「女連れって珍し。 もしかして昨日海にいた子? 親戚の姪っ子とか?」
あ、この声は、あのときタクマさんと車に乗ってた男の人だ。とりあえず、それは分かった。
「いや彼女」
タクマさんが卵とコーヒーでいいや、とオーダーする合間にしれっと言う。
「!!!?」
「え、わかっ! いくつなの彼女」
『彼女』
《goo国語辞典より》
彼女…愛人、恋人である女性。「―ができた」⇔彼/彼氏。
もちろん私はこれも調べ済みだ。
でも、だけど、まさかこのタクマさんが、こうもアッサリ言ってくれるとは思ってなかった。
なんというか、出合いがしらにカウンター受けたみたいな。
ダメ。 めまいと動悸が止まらない。
ついでに私の足に力が入らない。
「アレ……どしたのこの子。 カウンターに崩れ落ちて一点見詰めたままプルプルしてるけど」
「こいつ時々、世界線超えるクセあるだけだから気にすんな」
そっか、勿体ないねえ。 かわいいのに。
などという声が彼方から聴こえてきた。
「綾乃。 とりあえず戻ってきて座れ。 ホラメニュー」
「は、……はい」
顔の熱さがなかなか引かない。
おそらくゆでだこみたいになっていると思われる私に、店主さんがぷぷっと笑みを洩らした。
「オレ拓真の元同級生ね。 竹下タカシって間抜けな響きだからタケでいいよ。 ここのオーナーやってんの、よろしく。 えっと」
「森本 綾乃です。 あの、私以前、ここに来たことがあるような気がするんですが?」
先ほどから感じている既視感に、首を斜めに傾けながら尋ねると、代わりにタクマさんが返事を請け負った。
「ああ。 オマエ記憶力だけはいいよな。 五、六年っぐらい前か。 こんな風にメシ食いに連れてきた」
「五……? いや、うわ。 ちょっと待って、あの時のチビっ子!?」
ああ、やっぱり。うろ覚えだけどもそんな気がしたんだよね。
タケさんも忘れてたようで、自分の腰位の高さに手をかざし、当時の私の様子を示してきた。
ちびっ子と言われるのも無理はなく、あれは私が中学校に入ったばかりの頃だったから。
正しくは、七年前だよ。 タクマさん。
拓真くーん。 ちょっとコレは犯罪じゃないの? そんな風に茶化してくるタケさんを無視して、タクマさんはコーヒーカップに口をつけている。
タケさんがカウンターの向こうから楽し気に私の方に向き直ってきた。
「で、なに? 今日はこんな朝早くから。 綾乃ちゃん、どう? この不愛想と付き合ってみて」
「えっあ。 今朝はあったかくて硬くて長かったなあと思いました」
「ブッ」
コーヒーを吹き出しそうになっているタクマさんに、半分引き気味にタケさんが視線を移す。
「うわあ……こんな子相手に朝っぱらから?」
朝っぱらからって言われても。
付き合ってるなら、腕組んでもいいと思うんだけど。
小さい子なんかもよく親の腕にぶらさがって遊んでるし。
「?私のせいで少し濡れてしまったのは申し訳ないですけど。 でも私も初めて触ったので、なんというか、幸せで」
うっとりしながら思い出し呟く私に、タクマさんがナプキンで口元を拭いながら殺し屋のような目で見てくる。
「綾乃黙れ。 永久にだ」
「拓真って、まさに正統なここの店名にそぐう男だったんだねえ」
腕を組み、しみじみと語るタケさん。
店名。
メニューに書いてある、Savage CAFE の、Savageって、たしかカッコいいって意味だったと思う。
「まさにそうですよね!!」
元気よく私が答え、それに対し大笑いするタケさんと、片手で顔を覆い首を振っているタクマさんだった。
ちなみに、Savageという単語は元々は「凶暴な」「獰猛な」という意味らしいというのを、私は結構あとになってから調べて気付いた。
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