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丁度良い焼き加減だったらどんな味?
7話
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「まあ……そうだな。 オマエの言って欲しいことを聞くかな。 止めて欲しいんなら止めるし、別れたいんなら仕様がない。 だから言え。 これでも不満か」
「……分かったよ。 じゃ、止めて欲しい。 絶対そんなことは言わないけど」
それで離れずに済むのなら、私はそうする。
タクマさんを失うのがなにより耐えられないから。
私の背中に指先が当たり、なだめるみたいに撫でてくれる。
「……オマエでもヤキモチ焼くんだな。 かなり面倒くせぇけど、まあ、そんなに嫌じゃねえ……かな」
ヤキモチ。
なんとなく、自分でもそうかなと思ったけど。
今までそんな感情を持ったことがなかった。
すごく嫌なものだと思う。
それでもタクマさんの口調はいつも通りにまた戻って、並んで肩を抱いて私に優しく触れてくる。
「私はやだ。 チクチクするし」
「オレがあそことかで紗栄子と会うのは嫌か?」
それが嫌とは少しだけ違う。
あのお店はタクマさんの友だちも含めて大切な場所なのだろうから。
「ううん。 私、あの人好きだよ。 きっと、私の問題なの」
私も好きになれそうな素敵な人だったから私はヤキモチを焼いたんだ。
「そうか」
「八つ当たりみたいにして、ごめんなさい」
「そんなに嫌じゃねえって。 レア綾乃見れたし」
軽く笑いながらほっぺたにキスをされて、顔が熱くなった。
目線を下に下げたままの私からタクマさんが視線を外し、しばらく私たちは無言でいた。
カーテンを開けたダイニングの明かりだけがほの暗く辺りを照らしていた。
「大人んなって、オレは今は相手のことなら大概は分かる……オレが言わないのは、見つからないからだ。 肝心な時に、ピッタリ来る言葉がいつも無い。 好きだとか愛してるとか、愛おしいとか可愛いとか……似てるようでどれも違う。 そんなのになんの意味がある?」
……暗さとは、良い意味でも悪い意味でも人を饒舌にさせるものなのかもしれない。
「だけど、私のこと好きだって、言ってくれたよ」
「嫌いでは決してないし、言えと言われて出し惜しみするもんでもねえ……例えば」
片方の手でまたグラスを口に運んだ彼。
私の肩から首の辺りに移動した手で自分の方に引き寄せて、口付ける。
そこから冷たい液体が流しこまれてきて戸惑って目を見開いた。
「ンん?……ん!」
意外とその量が多く、こくんこくんと飲み込んで、むせそうになると彼が口を離した。
「コレどう?」
「熱い……し、痛い。 苦くて不味いし、もう要らない」
氷だけを入れたウイスキー。
喉が焼けるみたいだし、そもそも変な味しかしない。
「だよな。 けど、飲んじまえば飲み込むしかない。 人によっては何度も手を出しちまう。 使い方によって毒にも薬にもなる。 オレにとっての『嫉妬』はこんな強い酒みたいな感じ……と、これは分かる」
そう言いながらカラカラとグラスを二、三回傾けて、飲まずにお盆の上に置いた。
「親父に対して、ずっとかける言葉が見つからなかった。 死んで、そん時付き合ってた紗栄子と別れる時も。 好きにすりゃいいって、多分今もそれしか言えない」
なんとなくは感じてたけど、父が話していたその時のタクマさんの彼女は紗栄子さんだったのだと思う。
すごく好きだったんだろう。
「それはタクマさんが、他の人のことばかり考えてるからだよ。 それで、見えなくなっちゃうんだよ」
子供時代をあまり知らずに大人になってしまったタクマさん。
他人のことを思いやり過ぎて、居なくなっちゃってもこんな風に気に病んでるなんて、タクマさんは本当に『構いたがり』だと思う。
「私が言う。 『好き』と同じに、それが嫌じゃないなら、言ってくれれば私は幸せだよ」
もっと自分を大事にすればいいのに。
居なくなったり別れた人のことなんかすっかり忘れて、自由になればいいのに。
だって海辺で交わした時のキスみたいに、『構いたがり』のタクマさんは、本当は『欲しがり』なのも私は知ってる。
「私、もっとタクマさんのものになりたい」
好きにすればいいなんて言わせたくない。
「誰のモノとか、そういうのは……」
そう言いかけるタクマさんの口を指先でそっと塞ぐ。
うっかり家庭教師先で『オレんだから』って口を滑らせた彼。
私、忘れてないんだから。
どこか躊躇いがちに私を見る彼を、私は想いを込めて見詰めた。
「言っ……て?」
「分かった」
唇に当てた私の指を外して頭の後ろに差し入れられた手は力強く。
「綾乃。 オレのモンになれ」
キスをする前にそう呟いて、腰に回された腕がきつくきつく私を包んだ。
「……分かったよ。 じゃ、止めて欲しい。 絶対そんなことは言わないけど」
それで離れずに済むのなら、私はそうする。
タクマさんを失うのがなにより耐えられないから。
私の背中に指先が当たり、なだめるみたいに撫でてくれる。
「……オマエでもヤキモチ焼くんだな。 かなり面倒くせぇけど、まあ、そんなに嫌じゃねえ……かな」
ヤキモチ。
なんとなく、自分でもそうかなと思ったけど。
今までそんな感情を持ったことがなかった。
すごく嫌なものだと思う。
それでもタクマさんの口調はいつも通りにまた戻って、並んで肩を抱いて私に優しく触れてくる。
「私はやだ。 チクチクするし」
「オレがあそことかで紗栄子と会うのは嫌か?」
それが嫌とは少しだけ違う。
あのお店はタクマさんの友だちも含めて大切な場所なのだろうから。
「ううん。 私、あの人好きだよ。 きっと、私の問題なの」
私も好きになれそうな素敵な人だったから私はヤキモチを焼いたんだ。
「そうか」
「八つ当たりみたいにして、ごめんなさい」
「そんなに嫌じゃねえって。 レア綾乃見れたし」
軽く笑いながらほっぺたにキスをされて、顔が熱くなった。
目線を下に下げたままの私からタクマさんが視線を外し、しばらく私たちは無言でいた。
カーテンを開けたダイニングの明かりだけがほの暗く辺りを照らしていた。
「大人んなって、オレは今は相手のことなら大概は分かる……オレが言わないのは、見つからないからだ。 肝心な時に、ピッタリ来る言葉がいつも無い。 好きだとか愛してるとか、愛おしいとか可愛いとか……似てるようでどれも違う。 そんなのになんの意味がある?」
……暗さとは、良い意味でも悪い意味でも人を饒舌にさせるものなのかもしれない。
「だけど、私のこと好きだって、言ってくれたよ」
「嫌いでは決してないし、言えと言われて出し惜しみするもんでもねえ……例えば」
片方の手でまたグラスを口に運んだ彼。
私の肩から首の辺りに移動した手で自分の方に引き寄せて、口付ける。
そこから冷たい液体が流しこまれてきて戸惑って目を見開いた。
「ンん?……ん!」
意外とその量が多く、こくんこくんと飲み込んで、むせそうになると彼が口を離した。
「コレどう?」
「熱い……し、痛い。 苦くて不味いし、もう要らない」
氷だけを入れたウイスキー。
喉が焼けるみたいだし、そもそも変な味しかしない。
「だよな。 けど、飲んじまえば飲み込むしかない。 人によっては何度も手を出しちまう。 使い方によって毒にも薬にもなる。 オレにとっての『嫉妬』はこんな強い酒みたいな感じ……と、これは分かる」
そう言いながらカラカラとグラスを二、三回傾けて、飲まずにお盆の上に置いた。
「親父に対して、ずっとかける言葉が見つからなかった。 死んで、そん時付き合ってた紗栄子と別れる時も。 好きにすりゃいいって、多分今もそれしか言えない」
なんとなくは感じてたけど、父が話していたその時のタクマさんの彼女は紗栄子さんだったのだと思う。
すごく好きだったんだろう。
「それはタクマさんが、他の人のことばかり考えてるからだよ。 それで、見えなくなっちゃうんだよ」
子供時代をあまり知らずに大人になってしまったタクマさん。
他人のことを思いやり過ぎて、居なくなっちゃってもこんな風に気に病んでるなんて、タクマさんは本当に『構いたがり』だと思う。
「私が言う。 『好き』と同じに、それが嫌じゃないなら、言ってくれれば私は幸せだよ」
もっと自分を大事にすればいいのに。
居なくなったり別れた人のことなんかすっかり忘れて、自由になればいいのに。
だって海辺で交わした時のキスみたいに、『構いたがり』のタクマさんは、本当は『欲しがり』なのも私は知ってる。
「私、もっとタクマさんのものになりたい」
好きにすればいいなんて言わせたくない。
「誰のモノとか、そういうのは……」
そう言いかけるタクマさんの口を指先でそっと塞ぐ。
うっかり家庭教師先で『オレんだから』って口を滑らせた彼。
私、忘れてないんだから。
どこか躊躇いがちに私を見る彼を、私は想いを込めて見詰めた。
「言っ……て?」
「分かった」
唇に当てた私の指を外して頭の後ろに差し入れられた手は力強く。
「綾乃。 オレのモンになれ」
キスをする前にそう呟いて、腰に回された腕がきつくきつく私を包んだ。
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