R18『東京くらくら享楽心中』

緑野かえる

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番外編 2025/04/08 new !!

銀座を二人でぶらぶらと (2) ※

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 しかしその夜。

「吸わな、い……でっ……あ、噛んッ、じゃ駄目っ……」
「あ?だってお前、こんな白玉みてえなモンが目の前にありゃあ誰だってヤッてみたくなるだろうが」

 む、と涙目の櫻子に見つめられた恭次郎はそれでも遠慮なく、柔らかな膨らみに歯をあてがう。ソフトタッチな甘噛みと同時に櫻子の弱い部分を何度も吸い上げる男は楽しそうだった。

 櫻子の左胸から腹にかけては白一色の入れ墨が入っている。
 二度と引き返すことの出来ない覚悟の現れの墨も今では彼女にとっては御守りのような存在になっていた。生前、父親の誠一が黙って仕立ててくれていた色留袖とまさかの揃いだったその意匠。すれ違うばかりの父娘の感性的な根の部分はきっと似たような物だった。

 ただ、こうして素肌でベッドを共にする恭次郎が舌先でなぞるものだから最近その胸から腹にかけて若干、性感帯として櫻子は覚え込まされそうになっていた。

「は、う……っ」

 片や恭次郎の極彩色の双肩の入れ墨は身悶えする櫻子に毎度、抉られそうで。爪が立つほど快楽を与えている恭次郎は鋭い痛みについ、笑ってしまう。

「お前ホント服をひん剥いちまうと可愛いよな。あれだろ、外行きの勝負服とかその類いのやつ着ると性格変わる……あ、思い出した。お前の新しい勝負パンツ買ってやってねえな」
「な゛、っい、ま、それ言う?」

 指輪と違って男は下着屋に近寄れねえしなあ、とぼやく恭次郎は体を起こす前にもう一度ちゅ、と櫻子の柔らかい膨らみを吸う。なんとももどかしく淡い快感に身を竦める櫻子に笑って「まあ俺は何だって構いやしねえが」と既に脱がした就寝用のコットン素材の優しい色合いの物を横目で見た。

「そうだな……春の色が似合うか」
「ん、んぅ」
「名は体を表すと言ったもんだな」

 さくら色に色づいている櫻子のあちらこちら。上気した頬や濡れた唇や目元、胸の先。あとこっちの、と指先で探り開く大切なところ。
 以前にも増して潤むのが早いような気がしなくもないそこを夜を過ごす度に丁寧に暴く。

 性欲の発散のために作業的にするのではなく、恭次郎はこの前戯の時間が好きだった。
 櫻子と家族写真を撮りたい――それは事実上のプロポーズであり祝いの日にちはまだ検討中だったが今も変わらず気高い彼女はつまり、自分の奥さんになった。自分のことを愛してくれているから、奥さんになってくれた。それを考えながら指先で愛していると口元がにやけそうになるので恭次郎はキスをしてしまう。

「んく、ぅ」

 どうしても息継ぎが下手な櫻子が可愛い。
 首を少し反らせて与える愛情にどうにか応えようとしてくれる姿も愛おしい。

 小さな頃から今に至る道のりは互いにあまりにも残酷で厳しく、語れば全てが物悲しい。
 最終的に突然、とんでもない岐路に立たされた櫻子は父親の跡目として二度と引き返せない裏社会のさらに深く暗い道を選んでその身を投じ……誠一が凶弾に倒れた時は何もかもが急で、流石に恭次郎も彼女の考えを止められるほどの器用さは持ち合わせていなかった。

 彼女は生まれつきのキレ者だ。
 間違いなく、三島誠一の娘。現在の面立ちは恭次郎も遠目で見たことがある綺麗な母親の章子に似ているが眼差しの鋭さは父親ゆずり。

 時間は瞬く間に流れていった。桜東会四代目、東京の極道の頂点にあった三島櫻子が華麗に会長の座から降りてしまった今。本人いわく「なんかちょっと暇かも」などとワーカホリックさを語る唇はときどき「キスして」と珍しいことを言うようになっていた。

「ぷ、は」
「っくく、お前ホント可愛すぎ」

 私なんかより若い子と、と櫻子本人は以前言っていたが恭次郎的には心底あり得ない話だった。冷静沈着で硬派な彼女が「可愛い」と言われて満更でもなさそうに照れている姿などいくら見たって飽きやしない。何回抱いたって、まだ足りない。

「きょ、じろ」

 余裕のない呼び方をされ、少し視線をそらして「もう大丈夫だから」と言われた日には。

 ・・・

「お前最近あれだな、歯を食い縛らなくなったな」

 今までも痛くは無かったんだろ?とにゅるりと自身を櫻子に挿入しながら恭次郎は吐息の合間に問う。

「恭次郎のせいで広がっ……んんッ」
「真実だったとしても言葉にすんなって」

 頬を赤らめ、笑っている櫻子の額から首筋にかけてを撫でる恭次郎は気持ち良さそうにしている彼女をさらにすりすりと指の背で撫でる。

「気持ち良いか」
「ん?うん……なんか、不思議なの」

 恭次郎の手、好き。
 もっとして、の要求の声は甘い。
 そんな彼女を深く愛すほどに恭次郎も心地好さに似た不思議な感覚を知る。多分、櫻子が言っているのはこれなのだ。
 大きく腰を引いて、打ち付けるよりは彼女の大切な所をねぶるようなストローク。何度も、何度も、愛情を彼女に塗り込めるように恭次郎は筋肉で引き締まった腰を動かして小さく喘いでいる櫻子に「愛してる」と吐息と一緒に囁いた。

 そんな男の低い官能の声を聞かされ続ければ櫻子もいつもより感じ、彼を締め付けてしまう。

「腹がざわついてる」

 片手でここ、とわざわざ教えてくれる恭次郎だったがそんなことをされたら……。

「や、押しちゃ……だ、め」
「なあ、このやわらけえ腹の奥、覚えてくれたか?俺の――」
「ッあ、やだ、や、いっちゃ……っ」

 耳元でわざとらしくモロに言った途端、櫻子が甘く果ててしまった。

「あ、ぅ……も、なんでそんなこと言……ひ、んっ」
「あー、ヤバいわ」

 何が、ってナニが、ではあるが。

「まっ、て、まだいっ……て、んんッ」
「あ゛ぁ、これ、絞り取られ、る゛」

 ぐ、と堪えようとしてももう遅かったのか恭次郎は先ほどとは打って変わって櫻子の入り口もお腹も全部、音が立つ程に愛し始めてしまった。

「悪い、さくら……っ、止まンね……ッあ゛あ」

 普段の恭次郎はずっと手加減をして気を使ってくれていたのだと思い知らされる。たまに羽目を外すこともあるがそれでも傷にならないように、痛い思いをしないように。

「きょ、じろ待って」
「許してくれ、今日、ヤバ」

 許してほしいと言われてしまったら櫻子もどうしようもなかったが彼にもし『本気』で『手加減なし』で抱かれたらどうなってしまうのか。

 想像したのが悪かった。

「さ、くら?」
「あ、ぁ……っ、いっ、く、またいっちゃ、う……っ」

 櫻子の切ない声とざわめく腹にぐっと背を丸めた恭次郎も堪えきれなかったのかもう出してしまおうと色々とぐちゃぐちゃなのも構わず、衝動のままに彼女を抱いてしまう。

「ああ、さくら……お前はとんでもねえくらいイイオンナだが、っ……誰にも、やらねえ……ッ、愛して、る。愛してる、から……あ゛ぁ、またイクか?苦しく、ねえ?」

 頷く姿にそれなら、ともうピストンとも言えない恭次郎の体重をかけた強烈なプレスに圧された櫻子はなすすべなく、彼の肩に爪を立てて涙をこぼしながら震え、果ててしまった。
 痙攣した腹の中では恭次郎も自分の腫らした肉欲を擦りつけ、最奥で愛情を一滴残らずスキンの中に出し尽くしている。

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