48 / 81
48
しおりを挟む「随分熱心に読んでいたね。そんなに面白いかい?」
にこにことした笑みと共に送られる言葉にハッとして立ち上がる。
アレクが来ることをすっかり失念してしまっていたようだ。
「すみません、知らない事が書かれてあったのでつい…」
手にしていた本を閉じて苦笑を浮かべる。アレクが室内にいるという事は、ノックしても返事が無かったという事だろう。
王族に対してなんて失礼な事を、と頭を下げたがすぐに下げた頭を上げさせられた。
「気にしなくていいんだよ。ここでの生活は退屈だろう?少しでも気が紛れればいい」
相変わらずにこにこと笑みを浮かべたままで懐の広さを感じさせる発言をする。
その言葉に有り難いと思いつつ、ずっと立たせっぱなしのアレクに椅子を勧めた。例の、座り心地は最高だが豪華すぎるソファにだ。俺はアレクの向かい側に座ろうとして、手招きされている事に気付く。
またか…。
内心呆れつつ素直に傍に寄ると、手をやんわりと握られ軽く引かれて隣に座らされた。
ことある毎に部屋を訪れるアレクは、こうして俺を隣に座らせたがる。最初は遠慮して断っていたが、断る度に悲しそうに眉を寄せる様子を目にしてしまっては、断りづらい事この上ない。
仕方がなく隣に座ると、それはもう良い笑顔を浮かべるのだ。
「そう言えば、護衛達からシンが王族用の鍛練場を使いたいという事を聞いたんだが」
騎士達が先に話してくれていたらしい。俺はその話に頷き使用許可を取り付ける。
「はい。流石に中庭で剣を振り回す訳にはいかないですから。もし難しいのであれば諦めますが…」
最悪、この部屋の中で筋トレをするだけで我慢しようと自分を納得させる。部屋は十分に広いが、刀を振り回したら傷付けそうで怖い。
半ば諦め掛けてアレクを見れば、その顔には困ったような表情が浮かんでいた。
「私の説明が分かりずらかったようだね。先日、城の中にいるなら自由にしてくれて構わないと言ったのを覚えているかい?あの時シンは鍛練出来る場所を使わせてくれと言ったじゃないか。既に使用許可は出しているから、好きに使っていいよ」
安堵すると同時にそう言えば、と思い出す。確かに鍛練出来る場所を使わせて欲しいと言っていた。自分で言っておいて忘れるなど情けない。
申し訳ない気持ちで頭を下げる。
「気にしなくていいよ。この際だから言っておこう。王族の居住棟、政務棟、そして真ん中の高い塔。この3つの場所以外は全て自由にしていい。訓練場だけは居住棟の端にある。王族専用だからね。ただ、居住棟を通らずに向かう通路があるから明日にでも案内させよう」
アレクの言葉に頷く。何処が何処かは分からないが、人に聞きながら色々見て回ればいい。
「それから、やはり侍従は付けさせてもらうよ。護衛に護衛の仕事をさせてあげてくれるかい?」
暗に、道案内させるなと言いたいらしい。俺は反論する事が出来ず頷く。
護衛騎士達にも余計な仕事をさせてしまったと申し訳なくなり、後で謝ろうと決める。
「分かってくれて良かった。そうだ、シンに1つお願いがあるんだが…いいかい?」
余計な手間を掛けさせてしまった俺が嫌だとは言えず、出来る範囲でと一言添えて聞く。
「普段のように話してくれるかい?仮とは言え婚約者な訳だし、名前だけ砕けた呼び方もどうかと思ってね。公の場に出る予定はないが、そういう場以外では普段通りに話してくれ」
「それは…構わないですが…。不敬罪とかになりませんよね?」
要するに、敬語で話してくれるな、と言いたいらしい。
別に構わないが、次期国王に向かって例え婚約者であろうと良いのだろうか。目上の人に対する礼節などは弁えているつもりだが、王族とか、身分のある人に対するマナーなんて分からない。
この世界でも本にするまでもない常識だからなのか、そういった事が書かれている本は見当たらなかった。
アレク本人がそう言っているから大丈夫なのだろうが、念の為人前では殿下呼びに戻して敬語を使わせてもらおう。
「大丈夫。ならないから。私本人がそう望んでいるからね」
人前では殿下呼びで敬語を使わせてもらう代わりに、人目がない場所では普段通りに気兼ねなく話す旨を伝えると、あまり納得はしてくれなかったが了承はしてもらえた。
それからアレクは暫く部屋で過ごした。何気ない会話をしただけだったが、妙にボディタッチが多かったような気がする。
それと同時に何やら熱っぽい視線を寄越された。
具合でも悪いのか?
いや、寂しがり屋だからか?
それとも婚約者っぽく振る舞ってるとか?
まさか、そういう意味じゃないよな?
俺にはギルとレイドが…って伝えてるし。
等と考えている内に話は進み。
明日侍従を連れて来るらしく、その時に訓練場へも案内すると伝えられ、危うく聞き流しそうになった。
「いえ、あの…侍従さん連れて来るんだよな?ならその人に頼むから。アレクがわざわざ案内する事無いって」
慌てて断りを入れるが、その表情を見て固まる。
「私の息抜きも兼ねてと思っていたんだが…迷惑かい?」
眉を寄せ、とても……とても悲しそうに見つめられる。
そんな顔されたら断りずらいじゃーん!!!
なんて言えず、しどろもどろにいいえ、としか答えられない。
結局、アレク自ら案内してくれる事になり、その時に鍛練を一緒にする事にもなってしまった。
何だか流されているような、上手い具合に踊らされているようなそんな気分になる。
ともかく、明日から身体を動かせる事に喜んでおくとしよう。
23
あなたにおすすめの小説
異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました
ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載
小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~
朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」
普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。
史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。
その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。
外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。
いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。
領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。
彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。
やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。
無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。
(この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
* ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)
インスタ @yuruyu0
Youtube @BL小説動画 です!
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです!
ヴィル×ノィユのお話です。
本編完結しました!
『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました!
時々おまけのお話を更新するかもです。
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】
ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。
異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる
七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。
だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。
そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。
唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。
優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。
穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。
――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。
【完結】悪役令息の従者に転職しました
* ゆるゆ
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
透夜×ロロァのお話です。
本編完結、『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました!
時々おまけを更新するかもです。
『悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?』のカイの師匠も
『悪役令息の伴侶(予定)に転生しました』のトマの師匠も、このお話の主人公、透夜です!(笑)
大陸中に、かっこいー激つよ従僕たちを輸出して、悪役令息たちをたすける透夜(笑)
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる