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第二章 始まりの街防衛戦‼

第百六十九話 鍛冶師の蹂躙

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 1人単独でゴブリンの群れの中に入ったナギは縦横無尽に動き回って周囲のゴブリンを倒していた。
 群れの中心の方に入ってしまったナギだが身長差でその戦いぶりは良く見えて、陣営に入ってゆっくりと前進しているドラゴ達からもその圧倒的強さは見えていた。

「「……」」

 そして初めて目の前で見たナギの圧倒的な戦闘風景にグレンとエレンの2人は言葉を失くして唖然としていた。
 2人の姿にドラゴ達4人は何とも言えない曖昧な笑みを浮かべていた。

「まぁ…初めて見るとこうなりますよね」

「そりゃそうだよな…」

「俺も初めて見た時はこんな感じだったな」

「私も初めて見た時は言葉でなかったでうすよ~」

 どこか同情しているようで懐かしむようにドラゴ達は唖然としているグレンとエレンの2人を見てしみじみと言った。その間にも見えているナギは囲まれて上に飛んだと思えば、空中で2段飛びして別の場所へと大きく跳び移っていた。

「「「「はぁ~~っ⁉」」」」

「今、なんか変な跳び方しませんでした?」

「してたな…」

「いつの間にあんなスキルをっ」

「ちゃんと報告するように言ったのに、また端折ったな~!」

「あいつ、本当に鍛冶師なんだよな?」

「「「さぁ~?」」」

 もはや下手な戦闘職よりも高い戦闘力を発揮しているナギの姿に思わずドラゴはその職業に疑問を浮かべ、それに誰も断言できずに全員が首を傾げていた。
 そしてナギの蹂躙劇を見て驚いていたのは何もドラゴ達だけではなく他のプレイヤー達も、更には住人の冒険者や騎士達の何割かも同様に驚いていた。

 後ろでそんな風に見られているとは知らずに群れの中で戦っていたナギは、その激しい動きとは裏腹に退屈していた。

(あぁ…こいつら思ってたより弱いな。ちょっと期待しすぎてたのかな?もしかして数が多いだけの雑魚だったりは…はぁ……)ザシュッ

『グギャァァッ』

 想像以上に弱いゴブリン達にすでに飽きが来はじめたナギは動きが徐々に粗が出始めていた。証拠にいま攻撃されたゴブリンは首ではなく、肩を深く切られてはいたが即死ではなく叫びながらのたうち回っていた。
 それにはナギも気が付いたがさすがに敵の集団の中で足を止めて一体に集中するのは自殺行為なので、止めを刺すのを諦めて移動する。

「ふぅ…集中しないとな。今のが師匠にばれたら……」

 怯えたように一瞬体を震わせたナギだったがその隙に周囲のゴブリン達が一斉に飛び掛かった。さんざん好き勝手やられてゴブリン達も怒っていたようでその表情は憤怒に染まってより怖くなっていた。
 だが全方位から襲いかかって来るゴブリン達にも何故かナギは対処しようとしなかった。それが後方の陣営に参加して戦いながら観察していたドラゴ達は危ないっ⁉と思わず叫びそうになった。

 そんな次の瞬間、襲い掛かるために飛び上がったゴブリン達の下から土の壁が四方を囲むように出現した。空中に居たゴブリン達は真下から出て来た土壁によって更に上空へと打ち上げられた。

『グギャッ⁉』

「悪いな1

 急に上空に打ち上げられて驚くゴブリン達に同じ高さまで跳び上がったナギは静かにそう言うと小太刀を振るって3体倒し、他の個体にも課題のために量産した銅の短剣を適当に投げてダメージだけは負わせるようにした。
 そして普通なら自由落下するところだがナギはMPを消費して【空歩】を使用して別の場所へ空中を跳んで移動する。

『上手くいきましたね!』

「あぁ連携の練習をして措いて正解だったな‼」

 土壁を出したのはナギのコートの中に隠れていたソルテの土魔術によるものだった。事前にナギとソルテの2人で連携の練習をしていてその成果が今、本番として現れた形となった。
 その事を空中に居ながら2人は楽しそうに笑い合っていた。

 ただ楽しそうなのはナギとソルテの2人だけで、後方の防御陣に参加しているプレイヤーや住人達はただただ見惚れるように目の前の光景に唖然としていた。

「俺達いなくてもいいんじゃないか?」

 誰かがそう言ってしまう程に目の前でナギは楽しそうにゴブリン達を蹂躙していた。時には走り抜けて小太刀で首を断ち切り、時には魔法で圧縮した火球で吹き飛ばすなどして群れの中を一人で圧倒していたのだ。
 そんな光景を見せられれば自信をなくしても仕方のないことかもしれないが、反対に住人の冒険者や副隊長のウェインのような者達は深刻な表情を浮かべていた。

「まだ通常のゴブリンしか現れないな…」

「周囲を何人かに監視させてるが目撃報告は上がっていません」

「と言う事は、まだ本隊は現れるつもりはないと言う事か」

 部下からの報告を聞いたウェインは遠くで戦っているナギの姿を確認しながら重くそう言った。
 そして戦っているナギも敵に何の変化もない事を不思議に思っていた。

「こんだけ倒しても上位種が現れない。何か作戦があるのか、それとも本体が動き出すのに撃破数とかの条件があるのか…」

 いつまで立っても出てくるのは通常のゴブリンだけで報告に会った上位種の姿が一体も見えないのだ。
 普通のゴブリンの数が多い事も報告書を見せてもらったからナギも知ってはいたが、それを含めてもそろそろ上位種が一体くらいは出てきてもいいはずだとナギは考えていた。

 ただ考えていても周囲のゴブリン達が動きを止める訳ではなく、その間にも何度もナギへと近い個体から攻撃を仕掛けていた。だが攻撃のことごとくをナギは最低限の動きで当たらないギリギリを見極めて避け、ついでに数度体を切りつけた。

「後何体倒せば出て来るかな~」

『20か40くらいじゃないですか?』

「その位で済めばいいけどな。もし今見えている群れを半減させるとかだと…死ぬほどめんどくさい…」

 敵の中心地で戦っているとは思えないほどに縦横無尽に動き続けるナギだったが、この後の展開をソルテと予想し合っているうちに嫌な考えばかりが浮かんでうんざりした表情を浮かべていた。
 それでも今はナギには目の前のゴブリンを倒す以外に方法は思い浮かばないず、なによりに備えて感覚を研ぎ澄ませておきたいと言う思いがあった。

 なのでいろいろ考えるのも疲れて来たナギは吹っ切れたように落ち着いた表情に戻り、同時に動きの切れが徐々に少しずつだが確実に上がっていった。短刀を持った手をだらり…と力を抜いた状態で体ごと振るように動かすと、まるで腕が鞭のように目の前の2体のゴブリンの首を切り飛ばす。しかもそれだけでは終わらず勢いを利用して回転しながら横へ跳び、次々にゴブリンを倒していった。

 その動きはどこか踊るように見え不思議と見ている者達には綺麗に見えた。しかし周囲に居るゴブリン達にとっては死の舞踏にほかならず、目の前で敵が躍ると仲間が死んでいくのだ。
 ゴブリン達も黙ってやられている訳ではなく囲んで一斉に襲い掛かったり、遠距離から投石で攻撃したりと対策を取ろうとしていた。

 ただことごとくがナギに対しては無意味だった。囲んで攻撃しても上空に逃げられて上から火属性の魔法で爆撃され、遠距離からの投石は避けられたうえでお返しに銅の短剣が弾丸のウに飛んでくるのだ。しかも魔法攻撃では密集しているところが狙われ爆発する事もあって大ダメージを負い、銅の短剣は不自然なほどに正確に投石したゴブリンの眉間や肩を貫くのだ。

 こんな戦い方をされれば人間なら恐怖して逃げ出してもおかしくないのだが、ゴブリンにはそんな判断ができないのかすべての個体が恐怖することなく必死の形相で次々に襲いかかって来た。
 そんな状況でもナギは特に動揺したりする事なく近くの個体から順に淡々と切り倒した。

 そしてナギにとってはもう戦いと言うよりも作業に近くなってきていて、今のナギの頭の中にあるのは『より正確に、より速く、確実に』そんな思いだけだった。動きは鋭さを増して早くなっていき最初は一撃でゴブリン1体倒していたのが、今では一撃でゴブリン3体を倒せるようにまでなっていた。

 後ろでナギの戦いを見ていたプレイヤーと住人達は既に戦いに参加する事すら忘れ、目の前のナギの戦いに夢中になっていた。洗練されていて舞のような動きに見惚れる者、大量の敵に囲まれてもやられる事無く戦い続ける姿にあこがれる者、あんな強者と戦いと戦意を滾らせる者と思いはそれぞれ違ったが全員の視線はナギにのみ注がれていた。

 その中には当然ドラゴ達も居たのだが今日初対面のグレンとエレンの2人は他の者達と同じように見惚れていたが、ドラゴ・焔・ヒカリ・ホホの昔からの付き合いのある4人は何処か呆れたような安心したような微妙な表情で見守っていた。

「本当に何で鍛冶師を選んだのか不思議だったけど、楽しんでるようで何よりだな」

「あはは…そうですね。最初は少し無理やりでしたけど、あの様子を見る限りちゃんと楽しんでるみたいです」

「そりゃ珍しく睡眠時間削るくらいにハマってますから」

「本当に珍しかったよね~」

 本来なら緊張感に包まれているはずのその場所でドラゴ達は和やかに薄っすらと笑みを浮かべながら戦うナギを見つめていた。
 ナギ本人は気が付いてはいなかったが本気で戦闘して楽しんでいる時、口元が無意識に笑みを浮かべる癖があったのだ。それを知っているドラゴ達は本当にAOをナギに進めてよかったと安心したのだ。

 そんなドラゴ達からの視線にナギは戦いながら気が付いていた。最も気がついても別に何かあるわけでもなく、ナギは視線の方向を見たりすることなく小さく息を吐いた。

「ふぅ…心配しなくてもこの位の敵にやられたりしないのにな」

 自分に向けられる視線を身を案じているのだと勘違いしたナギは小さく笑みを浮かべながらそう言った。
 その後もナギの動きは緩むことは一度もなく常にトップギアで動き続けるのだった。
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