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第二章 始まりの街防衛戦‼

第百七十四話 ゴブリン・キングの脅威

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 バキバキ!と森の木々を薙ぎ倒しながら現れたのは盛でナギの遭遇したゴブリン・キングとジェネラルだった。
 ジェネラル5体に周囲を守らせながら現れたゴブリン・キングは数の減った自身の群れを見て、体を震わせて大きく息を吸い込んだ。
 その姿を見たウェインはナギに見せてもらった鑑定結果を思い出して叫んだ。

「全員耳を塞いで衝撃に備えろっ‼」

『ガァァァァァァァァアァァァァッ‼』

「「「「⁉」」」」

 次の瞬間ゴブリン・キングの咆哮が全体を駆け抜けた。ウェインの指示が聞こえて反射的に反応していた何割かは無事だったが、間に合わなかった者達のほとんどが麻痺状態になって動けなくなっていた。
 これが鑑定した時に書かれていた『咆哮』スキルの効果で『自分よりもレベルの低い敵を一定確率で麻痺状態にする』と言う内容だった。

 その事を知っていたウェインは咄嗟に咆哮を防ぐ方法を叫んだのだ。
 咆哮が止んだのを確認したウェインが周囲の状況を確認すると動けているのは指示に従った者達を含め、全体の2割ほどであった。
 本来なら麻痺治しなどを使用して動けない者達を少しは回復させたかったが、ゴブリン・キングがそんな隙をただ見ている訳も無いのでウェインはすぐに判断を下す。

「動ける者達はすぐに立ち上がれ‼前衛職は前に出て応戦準備!後衛職の者達は回復や支援攻撃、余裕のある者は動けない者達を回復‼早く動けっ相手は待ってくれないぞ‼」

「「「「了解‼」」」」

「「「「おうっ‼」」」」

 まだ混乱していた防衛陣の者達はウェインの言葉に素直に従って元気に返事をすると指示通りに動き始めた。
 今回のイベントで参加したプレイヤーの大半がこの人数の指揮はまだできないし、やるにしてもある程度の事前打ち合わせが必要だと理解していた。なので現実の人間と思考力が変わらず今までの指揮で実績のあるウェインの言葉に素直にしたがうことにしたのだ。

 その間にもゴブリン・キングとジェネラル達も動き出していた。ジェネラル5体は2体をキングの護衛として残し、他の3体が左右に均等に散って生き残っている数10のゴブリン達を纏めて隊列を組み始めた。
 最初に動いたのはゴブリン・キングで足に力を入れると全力で跳躍して防衛陣の目前に着地して、持っている身の丈以上の大剣を横に勢いよく振るった。

「「「ぐわぁぁぁっ!」」」

 一番近い前列に居た盾職が軒並み一振りで吹き飛ばされてしまった。一昔前の無双ゲームみたいに人が空を舞う光景に見ていた者達は唖然としていた。
 ただちゃんと動き出す者達も一定数はいて近くにいた騎士の1人が持っている槍を手に突撃を仕掛け、大剣を持つ冒険者も合わせるように回り込んで下から救い上げるように切り上げた。他にも後衛職の弓使いが矢が複数に増えるアーツを使用し、数種類の魔術が放たれた。

『グガ』

『『グギャ』』

 キングが合図すると背後からついて来ていたジェネラル2体が遠距離からの攻撃を持っている盾で守った。そして突撃してきた騎士と冒険者は大剣は大剣を立てにして防がれ、槍に至ってはゴブリン・キングは何事も無いように掴んで止めて力任せに投げ捨てた。
 その間に何とか大剣を受け流すことに成功した冒険者は大きく後ろへと下がった。

 それに合わせるようにして防衛陣側からゴブリン・キングの死角から通常より大きな火球が狙い済ましたように放たれた。ただその攻撃も気が付いていたゴブリン・ジェネラルによって防がれてしまった。

「この攻撃でもダメですか。もっとちゃんと連携して行かないと、あの3体の連携は超えられそうにないですね」

「それに他に移動したジェネラルって言う奴も、なんとかしないと真面目に全滅する事になるぞ」

「確かにそうだよなぁ」

「まぁ私達の場所からは遠いし、今は近い人たちに任せて私達は目の前の3体に集中しましょう?」

「エレンの言う通りだと私も思いますよ~」

 ゴブリン・キングとジェネラルが攻撃された方向を確認すると、どこではドラゴ達が警戒を解いたわけではないが楽しそうに話しながら前へと出て来た。
 一応中央よりの位置では1・2を争う高レベルパーティーだったために前線に出ることを選択したのだ。
 ただ考え無しに勝てると思う程ドラゴ達もうぬぼれている訳ではなく、普通に話しながら歩いて来ているように見えて全員が武器を下ろす事無く警戒心を研ぎ澄ませていた。

 そんなドラゴ達の姿を確認してもゴブリン・キングは余裕の態度を崩す事なくニヤニヤといやらしい笑みを浮かべていた。

「いくぞ‼」『グランド・スラッシュ』

 最初に仕掛けたのはドラゴだった。気合の入った叫び声をあげると全力で大剣スキルのアーツを発動した。
 剣系統のスキルの初期アーツは共通して『スラッシュ』なのだが、レベルを上げて解放された大剣スキルの『グランド・スラッシュ』は体験を普通の片手剣のような速度で振るって威力が倍近く跳ね上がっていた。
 横ナギに振われたアーツを発動したドラゴの大剣に対してゴブリン・キングは受け止めるのは拙いとと判断したのか後ろに下がって躱し、大剣を振り切って隙だらけになっているドラゴへと体当たりを仕掛けた。

「むやみに突っ込まないでください‼」『ファイヤーウォール』『ファイヤーウォール』『ファイヤーウォール』

 ただ攻撃される前に進路を遮るように焔が火魔術で炎の壁を三枚展開した。そんな炎の壁に対してもゴブリン・キングは気にした様子もなく真っ直ぐに跳び込み、多少のダメージは負ったがそれ以外になんの影響も受けていないようで目の前位のドラゴ目掛けて勢いを乗せた大剣を振るった。

「くっ」

 逃げるのが間に合わないと判断したドラゴは咄嗟に振り返って大剣を盾にして防いだが、前衛職を数人纏めて吹き飛ばす力に耐えられるわけもなく弾き飛ばされた。
 その様子を見ていた焔達はすぐに出も助けに向かいたい衝動に駆られたがゴブリン・キングはそんな余裕を与えない。

 目の前の敵を遠くへと弾き飛ばしたゴブリン・キング残りの獲物へと目を向けて飛び出したのだ。
 真っ先に狙われたのは先ほど魔術で進路を塞いできた焔だった。一直線に後衛の焔を目指すゴブリン・キングは間に立ちふさがるように出て来たヒカリとグレンの2人には見向きもせず進んだ。

「無視すんじゃねぇよっ‼」

「簡単に行かせるか!」

 しかし2人のレベル的にも上位に居るプレイヤーの1人だ、見向きもされずに無視されてもめげずに近くを通り抜けるゴブリン・キングの足へと剣を突き刺し切り裂いた。だがその程度でゴブリン・キングの進行には数秒ほども影響を及ぼせず、足を振り払った衝撃でヒカリとグレンはその場に叩きつけられた。
 更には衝撃で一瞬動きの止まった2人にキングの後をついて来ていたジェネラルが攻撃を仕掛けて来た。

『グラァッ‼』

「ちっ‼」

「危なっ⁉」

 ギリギリのところで2人の回避は間に合ったが、そのせいで完全に防衛陣との間にジェネラルに陣取られてしまった。
 その間にもゴブリン・キングは焔に目掛けて体当たりしていく。

「逃げても無駄そうですね。と言う僕のAGIだと確実に追いつかれますね」

「魔術師なんだから仕方ないわ。私もAGIやSTRは低いから仕方ないわよ。それよりもとにかく抗ってみましょうか?」

「そうですね」

『ファイヤー・アロー』

『フォター・アロー』

 焔と近くにいたエレンは逃げられない事はわかっているので逃げることを止め、少しでもゴブリン・キングにダメージを与えてやる!と決めて早さ優先のアロー系統の魔法を放った。
 火と水の矢はもの凄い速度でゴブリン・キングの大剣を持つ手だけを狙って放たれた。

『ガギャ…』

 その攻撃の狙いが自分の大剣にあると気が付いたゴブリン・キングは攻撃を避けようと腕を上げ、自身も横へと大きく避けた。
 ただ焔はその事を予想していたようで放った火の矢の他に待機させておいてゴブリン・キングが避けた場所へと放った。

『グギャァァァッ!?』

「よし、先輩なみに現実場あれしてないので狙いやすくて助かりましたね」

 見事に焔の放った攻撃はゴブリン・キングの大剣を握っている手へと命中して痛みから叫び声をあげて取り落とした。その様子を確認しながら焔はナギと比べてやりやすい相手だと安堵していた。
 ただ結果的にゴブリン・キングを完全に怒らせてしまいもう片方の手で落ちた大剣を拾うと、声も出せない程の怒りの表情で焔の方へと突っ込んできた。

「これはもうダメそうですね…」

「ふふふ!最後に全力で攻撃してから華々しく散りましょうか」

 焔とエレンの2人は完全に諦めていたが何もしないで倒されるのは癪なので2人で全力で最後の攻撃に備えた。
 その間にもゴブリン・キングは目の前へと迫っていて、ついに衝突する時に割り込むようにして2人とゴブリン・キングの間に火球が次々に着弾した。

 ドドドドドドドドドッ!

「いや~ギリギリ間に合ったか。準備に少し手間取ってしまったぜ!」

 そして爆発の影響で周囲を覆った土煙の中から出て来たナギは楽しそうに笑顔を浮かべていた。
 その姿を見た時に焔は安心したように笑みを浮かべて脱力したようにその場に座り込んでしまうのだった。

「よう、ゴブリン・キング?さっきぶりだな~?今度はちゃんと相手してやるよ。かかってこい…」

『グリャァァァァ‼』

 あからさまに挑発するナギにゴブリン・キングは怒りのオーラを滾らせて叫び声で答えるのだった。
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