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第三章 神の悪戯

第百八十九話 第二区域:甲虫の行進《前編》

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 ボス部屋を出て先に進むと豪華な宝箱が一つと、近くに何かが書かれた紙が落ちていた。
 しかもその宝箱の置かれていた部屋はセーフエリアになっているようで、ベットや簡易的な机などが置かれていて休むことが出来るようになっていた。
 その目の前の光景にナギは死ぬほど嫌そうに眉間に皺を浮かべる。

「もう嫌な予感しかしないな…」

『ハハハ…そうは言っても開けないと先に進ませてくれないみたいですよ?』

「だから、嫌な予感がしてるんだよ…」

 うんざりした様子でそう言ったナギが見た先には固く閉じられた鉄の扉が存在した。
 この状況を見れば誰でも宝箱を開けない限り開く事の無い扉だと理解できる。それだけにナギは宝箱の中や落ちている紙に嫌な予感を感じてどうしてもやる気が出なかった。

 しかしずっと何もせずに立っている訳にも行かないので少し目を閉じて考えていたナギは、最終的にいろいろ疲れたように溜息を吐き出してゆっくりと宝箱の前に腰を下ろした。

「………」

『……』

 宝箱の前に移動したナギとソルテの2人は最初にこれ見よがしに宝箱の前に置いてあった紙を拾い、そこに書かれていたメッセージを見て2人は揃って動きを止めた。
 ソルテは掛かれている内容に言葉を失くした事もあったが、それ以上に自分の横にいるナギから感じる気配に怯えていた。

 そしてセーフエリアを一気に暗い空気に染めあげたナギは手に持つ紙に書かれたメッセージを見ながら震えていた。
 そこに書かれていたメッセージと言うのが…

『やっほ~!達成できた‼って安心した?ちょっとはしちゃった~?残念でした~まだ達成できていないのでした』

 メッセージはすでに最初からこんなテンションで始まっていた。
 それだけでも神経を逆なでするような内容なのに加えて、続きの内容が体から怒りのオーラがにじみ出る原因だった。

『と言う事で第一区域踏破おめでとう!いや~思ったより早かったね?一度くらいやられると思ったのに、残念!この扉の先は第二区域なのでした!第一とは違う趣向を凝らしてみたから楽しんでね?それとなんか愉快な事になってたよね?具体的に言うと私のペットに追いかけられたり?大いに笑わせてもらったからね~お礼にちょっと良い物用意して置いたから役立ててくれよ~…と言う事で次も無様…じゃなかった、慌てる姿を楽しみにしているよ~』

 と言うように書かれていた。本来はもっとナギをバカにした内容が多分に含まれていた。
 そんな内容を見たナギはしばらく肩を震わせていたかと思うと手に力を込めてメッセージの書かれた紙を破ろうとした。だが不思議な力に守られているようで紙は小さく破ける事も無く、引っ張ったナギにはまるでゴムでも引っ張るような感覚を味うのだった。

『残念でした~♬その紙は破壊不能の付与をしてあるから絶対に壊れないんだよ~?』

「……」ブチッ

 そして破くのを諦めたタイミングで余白に浮かび上がったメッセージを見たナギは無言だったが、肩に乗っていたソルテには確かに何かが切れる音を聞いた。
 メッセージを見て不気味なぐらい無口になったナギはメッセージの書かれた紙をそこらへんに捨てると、何もない壁に背中を預けて目を閉じて精神統一を始めた。時間がないとはいえ何をやっているのか分かったソルテは一言も言葉を発さず大人しくナギが目を開くを待った。

「……ふぅ、待たせて悪かったな」

『いえいえ、今回は理解できますから大丈夫ですよ!』

 それから20分近く精神統一していたナギは目を開くとすぐにソルテへと謝罪したが、ソルテは特に気にした様子も無く笑顔で答えた。一緒にメッセージを見ていただけにナギが何に怒っていたのか理解できて、今後を考えて落ち着くための精神統一は必要だと理解できたのだ。
 理解を示してくれたソルテにナギは嬉しそうに笑顔を浮かべる。

「そう言ってもらえるとありがたい。じゃ早速だが宝箱開けてみるか?」

『はい!』

 落ち着きを取り戻したナギはそう提案して宝箱へと向かう。宝箱自体はお礼と言っていただけあって鍵などは掛かっていないで簡単に開く事ができた。
 ただ宝箱の中に入っていた物にナギは首を傾げることになった。

「これは…なんだ?」

 そう言ってナギが宝箱から取り出したのはこぶし大の大きさの球体だった。材質はガラスのようだったが、その中に何かあるのかゆらゆらと揺らめいているように見える何かが入っていた。

『これは……なんでしょう?』

 しかもナギが知っているかと思ってソルテに見せても正体が分からなかった。
 ただお礼とまで言って用意した物が役に立たないガラクタだとはどうしても思えず、少し嫌な予感を感じながらも鑑定スキルを使用した。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【????】 品質:伝説 ランク:7

備考:????????????
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「はい、何もわからない」

 しかし鑑定スキルを使っても?が大量に並んでいるだけでろくに分らず、もはや投げやりになったナギは念のために謎の球体をアイテムボックスにしまった。
 すると今まで硬く閉じていた扉が静かに開いて第二区域への道が現れた。

「……もう少し休んでから行こうか」

『そうですね』

 この先に何が待っているのかは分からなかったが嫌な予感がしたため、一先ず休んで英気を養ってから扉の先に向かうことにしたのだ。ただナギも用意されていた物を使うのに不安を感じていたようで、妥協して机と椅子だけを使ってしばらく休みを取った。

「さて、それじゃ…行くか」

『嫌そうですね?』

「行きたくないからな」

 本当に嫌そうにしながらもナギは扉の向こうへと足を踏み出した。すると数歩進んだところで後ろの扉がいつの間にか閉じて姿を消していた。
 それを見たソルテは驚いていたがナギは特に気にした様子も無く、すぐに正面を向くと迷いなく先へと進んで行った。

『ちょ⁉扉無くなっちゃいましたけどいいんですか⁉』

「別に、あいつならやりそうな事だろ。気にしても疲れるだけだし、それなら早く先に進んでここから出て、報酬を私に来るだろう奴の顔面に一発決めることを考える方が生産的だろ?」

 そう言った時のナギの顔にはまるで肉食獣のような獰猛な笑みが浮かんでいた。肩に乗っていたソルテはその強烈な表情を間近で見てしまい、腰を抜かしたように倒れそうになったがなんとかしがみつく事で堪えた。
 しかし自分の肩のソルテの事には気が付いていたがナギは先に進むことを優先して、視界の端で落ちていないかだけ確認しながら駆け足で先へと進む。

 この第二区域は第一とそんなに変化は無く武骨な削り出されただけの洞窟のような形だったが、優位つ一つだけ差異が存在した。
 それは通路の幅と高さが1m70㎝ほどで統一されていた。さすがに僅かな差異はあって正確な形ではなかった。
 しかしよく見ると均一に誰か、あるいはの手が明らかに入っているように見えた。

「これはなんかいるな…」

『何が居るんでしょう?』

「それが分かったら楽なんだけどな」

 そんなかる愚痴を交わしながらナギは進んで行き、しばらくすると交差点のように複数の通路が混じる場所へと出た。
 すると何かを感じ取ったのかナギは死角になるようなへこみへと素早く身を隠した。

『どうしたんで「静かに」っ!』

 不思議に思ったソルテが何か質問しようとすると、すぐに反応したナギによって強制的に口を塞がれた。
 ただ理由は次の瞬間には別の通路から通路を作った何かが正体を現した。

 それは南の草原に住んでいるビック・アントに似た姿をしていたが、圧倒的にそれよりも大きな体をしていて何より攻撃的な外見をしていた。
 黒い甲殻は変わらないが所々に攻撃的なとげのような突起が存在していて、足も通常のアントよりも発達していて太く比例して顎も大きく強靭になっているようだった。

 しかもアントの数体で行動すると言う特徴は引き継いでいるのか見えている範囲でも5体の姿が確認できた。
 間近に敵がいる状況にソルテは動揺しているがナギが全力で押さえているので大人しくなっていき、そうしてしばらく待てば進化型アント達は別の通路へと入っていった。

「はぁ…」

『ぷっ…はぁ…はぁ…』

 姿が完全に見えなくなるとナギとソルテの2人はいつの間にか止まっていた呼吸を再開した。

「…今回は本気で警戒して行こう」

『はぁ…はぁ…そうですね』

 さすがにあの数には勝てる気がしなかった2人は疲れた様子でそう言って頷き合うのだった。
 そうして改めて気を引き締めてナギとソルテは警戒しながら奥へと進む。この時ソルテは極力戦いを避けて行くつもりだったが、ナギの考えているのははぐれ個体を見つけて試しに戦う事だ。
 その認識のずれが原因で後々少し混乱することになってしまうのだった。
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