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第四章 鍛冶師の国

第二百七話 素材集めと言う蹂躙

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 そして1日十分に睡眠をとって次の日が休日だったこともあって渚は朝早くに起きて家事を全て昼前には終わらせて、すぐにAOにログインしていた。

「よし!今日は素材集めに行くぞ‼」

『本当に唐突ですね…』

「いや、素材の量確認してみたらウルフの素材ってそんなになくってな。補充しないと間に合わない可能性が…」

 ログインしてからナギはすぐにアイテムボックスの中の素材を見ながら、ウルフの素材で鍛冶に使えそう者はどれか選り分けようと確認していたのだ。
 ただいざ確認してみると想像以上にウルフに関する素材が少なく、試作を何回も繰り返せば数日で底をつきそうな程度しかなかった。

 そのためナギは急遽素材集めに予定を変更することにしたのだ。

『使う素材を決めた時に確認しておきましょうよ…』

「いや~面目ない…」

 今回の事は自分の確認不足が理由だと理解しているだけにナギは本当に申し訳なさそうに頭を下げる。別にそこまで怒っていないソルテは少し困ったように苦笑いを浮かべていた。

『まぁ今からでも間に合いますし、今回はいいですけど…今後は本当に気を付けてくださいよ?』

「了解!」

『…本当に分っていますか?』

「…たぶん」

 最初は自信満々だったナギも改めて聞かれると断言できるほどの自信は無いようだった。
 それでもこの反応はようするにナギが本心を話してくれている証拠でもあるのでソルテは特に不機嫌そうではなかったが、やはり何処か呆れた様子ではあった。

 そうして話している間にも2人は東のフィールドまで来ていた。

「さて、とにかくウルフを狩りまくるとしますか!」

『素材集めですよ!倒すのが目的ではないですから、そこは忘れないようにしてくださいね‼』

「わかってるって!」

 戦闘になると人格の変わったようにのめりこむことを心配してソルテが注意するのだが、当の本人であるナギはそこまで真剣に聞かずに楽しそうに笑っていた。
 根本的にナギは鍛冶のような集中してやる作業も好きだが同時に戦闘も同じくらい大好きだった。

 それだけにロキからの試練ではまともに戦闘が出来ず、少しストレスの溜まっていたのもあってテンションが少し上がっていたのだ。ソルテは今のナギの様子から何を言っても無駄だと判断して大人しくサポートだけに専念することにした。

「それでは今度こそ行くぞっ‼」

『はい!』

 掛け声に合わせてソルテがコートの奥に入っていき、それを確認したナギは一気に加速して東の森へと向かう。
 その途中で周囲にいるプレイヤーの数が以前来た時よりも少なくなっている事にナギは気が付いたが、人が少なくなっていても別に困る事がある訳でもないのですぐに興味を無くしたようだった。
 ただナギの懐に入っているソルテは周囲の変化が気になったようで顔を少しのぞかせていた。

『今日は人が居ないですね?』

「あぁ…たぶん新しい町だか国に行った奴が居るみたいでな。それにつられて皆先のフィールドに移動したんだろ」

『あぁ~そう言う事だったんですか。だから主様も?』

 人が減った理由を聞いたソルテは納得したように大きく頷くと、すぐに他の国に行こうとしている自分の主でもあるナギもそうなのか?と聞いた。
 それに対してナギは速度を落とす事なく答えた。

「俺も話を聞いて鍛冶に関係のある国があったからだな。それがなかったら今も窯の前から動いていなかったと思うぞ」

『ははは!確かに主様ならそうしそうですね‼』

 身も蓋も無い素直なナギの答えにソルテは楽しそうに大きな声で笑った。
 その声に引き寄せられるようにラビットが何体か出てきたがレベルの上がっているナギによって瞬殺された。しかし体を大きくひねって蹴ったので、反動でソルテが胸元から落っこちそうになったが手で受け止めた。

「とにかく今は危ないから、ソルテはちゃんと奥に入っていろ」

『は、はい!そうします‼』

 さすがに不注意で落っこちてしまっただけにソルテは慌ててそう言うと光の玉になってナギの胸元へと吸収されるように入っていった。
 それを見送ったナギは『ロキの試練の時もこうすればよかったんじゃ…』と少し思ったが、すでに終わった事なので口に出す事はなかった。

 そしてソルテを完全に気にしなくてよくなったことでナギは遠慮なく本気で走る事ができるようになった。
 おかげで数分ほどで森に着いたナギは速度を落とす事なく中へと入り、速度を利用して手ごろな木へと一気に駆け上がった。

「ふぅ…さて、後はウルフを探して狩るだけだな。でも森の中での戦闘は久々だし、軽くなにかと戦いたいところだな。あれでいいか…」

 肩慣らしになるような相手を探していたナギは遠目にスパイダーの巣を見つけると目標を決めて、木々の枝を音を最小限に抑えて飛び移り移動した。
 ほどなくしてスパイダーの巣と本体を見つけた。

 その姿を視認するとナギは足に力を溜めて一気に跳び、更にちょうどスパイダーの真上に来ると空歩を使用して頭上から強襲した。完全な不意打ちで落下の勢いが加わった短刀は綺麗にスパイダーの体を真っ二つに切り裂いた。
 さすがに体が切り裂かれればHPも全損してしまい光となって消える。

「あっけなさすぎるな。正直肩慣らしにもならない…」

 すぐに倒せてしまったことにナギは詰まらなそうに言うと小さく息を吐いて、気分を変えて周囲を見回す。
 相変わらずプレイヤーは少ないがおかげで魔物の数は以前よりも多く見かけることが出来た。

「しかたない。こうなれば…見える範囲全部狩りつくすか!」

 大量に溢れる魔物にテンションの地味に上がったナギは他人が聞けばどうかしたのと思われることを嬉々として言った。しかも同時に木の枝に足をかけて逆さにぶら下がると、反動をつけて勢いよく目の前を通り過ぎようとしたはぐれウルフに跳びかかった。

『ッ⁉』

「1体目」

 急に頭上から襲われたウルフは悲鳴を上げることすらできずに首にナギの短刀を受け、一瞬にしてHPを全損して消えてしまう。その様子を見ながらナギは冷静に次の獲物を求めて周囲を探るために再度木の上へと登った。
 するとそこそこに離れていたが遠目に5体ほどのウルフの群れを見つけ、同時にナギは枝を音を立てずに跳び移って接近して行った。

『ガウッ‼』

 たださすがに完全に音を消すことまでは出来ず、接近している途中で枝が軋んでしまってウルフ達に居場所がバレてしまった。
 木の上にいるナギに気が付くとウルフ達はリーダーの個体が声を上げ、それを合図に一斉にいつでも攻撃できる体勢を取った。

 それを見てもナギは気にした様子も無く冷静に観察して考えると、慎重に気づかれないほどゆっくりと足に力を溜めた。
 少し経ってウルフ達が我慢の限界で跳びかかろうとするタイミングで足に溜めた力を使い大きく上空に跳んだ。
 そして周囲の木々を超えるほどの高さまで跳ぶとゆっくりと勢いが落ちて、自由落下が始まった。

「1,2,3,4,5…」『ファイヤーボール』

 刻一刻と地面とウルフがせまって来る状況の中でもナギは冷静にウルフ達の位置を瞬時に確認して、周囲の木々に燃え移らないように威力を最小限に絞って火球を放った。

『『『キャウンッ』』』

 1体につき一発ずつ放った火球は3発がウルフの体に直撃して大きく吹き飛ばした。
 残りの2発は近くの地面に落ちてしまいたいしたダメージは与えられなかったが、怯ませることには成功した。
 それでもナギは全弾をウルフに当てるつもりだったようで悔しそうに舌打ちをした。

「ちっ…やっぱり完全にはまだ制御はできないか」

 ただ悔しそうにしていても攻撃を止めることはなく、近くで怯んだ2体のウルフに対して一気に距離を縮めて短刀で頭を穿って更に首を跳ねた。
 これで2体が倒せて残りの3体はようやく立直ったようだが、仲間が一瞬で2体もやられた事で慌てて逃げ出そうとした。だがナギがやすやすと逃亡を許すはずもなく拾い集めていた石を指弾にして逃げるウルフの背後から足を狙って放った。

 しかもウルフ達が逃亡を諦めてもアイテムボックスに大量に有る石で玉切れする様子も無く放ち続け、程なくしてウルフ達はナギに届く目前でHPが尽きてしまった。

「だいぶ体も慣れて来たな。それじゃ本当に狩りつくしてやるかな‼」

『…これ私いらなかったですかね?』
 
 数度の戦いで戦闘の勘を完全い取り戻したナギは上がったテンションそのままに森の奥へと向かった。そんなナギの様子にソルテは自分の補助は必要なさそうだな…と思って傍観を決め込むのだった。

 その後は結局ナギは本当に東の森に棲んでいるウルフがほとんど見当たらなくなるまで狩りつくした。
 しかも途中で以前のゴブリン達の残党らしき集団を見つけて、ついでにとそのまま全滅させてしまった。

 すべてが終わって正気に戻ったナギは盛大に恥ずかしがって悶えることになったが、自業自得なために誰も慰めたりはしないのだった。
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