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第四章 鍛冶師の国

第二百八話 地獄インゴット製作

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 ひとまずウルフを大量に狩った事で素材は大量に手に入ったナギは一度昼食を含めて休憩を取って、万全の状態で再度ログインすると真っ直ぐにゴド爺さんの店へと向かった。
 AOではちょうど夜のようで店は閉まっていたが、許可のあるナギは普通に入って作業場の自分の窯の前に腰を下ろしてこの後の事を考えていた。

「それで素材は揃ったけど、まだやることがあります」

『やる事ですか?』

 すぐに製作するとは思っていなかったが素材がそろったので作業工程を考えると思っていたソルテは不思議そうに首を傾げた。
 そんなソルテに対してナギは真剣な表情で答えた。

「あぁ…今もの凄く重要で、必ずやらないといけないことだ…」

『それは何ですか?』

「それは……剣や指輪を作るためにインゴットにしないといけない!」

 もの凄くもったいぶった言い方をしながらナギは宣言すると同時にアイテムボックスから鉄鉱石を取り出した。
 際限なく吐き出され続ける鉱石はすぐに山済みになって、さすがに山が崩れてしまうのでほどほどのところでナギがアイテムボックスを閉じて鉱石は止まった。

「今出したのだけでも100近くあるけど、アイテムボックスにはほぼ同じ数がまだ残っている。そしてこれをインゴットにしない事には試作すら始められません…」

『マジですか…』

「残念ながらマジなんだよ。俺もインゴットがない事に気が付いた時からちょっと腹痛くなっている」

『でしょうね・・・』

 ただでさえ鉄はまだ楽に加工する事すらできていない状況で、更に課題を達成するために品質すら落とさずに製作しなくてはいけない。しかも期限は短くて出来るなら試作に時間を割きたいところでの大量のインゴット製作はナギとソルテのに2人をしてもかなりのストレスとなっていた。
 だがやらないという選択肢は存在しないのでナギとソルテは少しすると顔を上げて動き出す。

「はぁ…憂鬱ではあるけど頑張ってやりますか」

『そうですね。こうして動かない時間が一番もったいないですし…』

「そう言う事だな。幸いと言えばいいのか微妙なところだが、大半がロキの悪戯で閉じ込められたところで手に入れたから品質は高いから。仕分けはしないでいいから少しは楽だぞ」

『確かに…それがないだけで気分的に少し楽ですね…』

 ソルテも大量に有る高品質の鉱石には助かるのだが、その出元が少し素直に喜ぶことのできないテンションにさせていた。
 ただ今は考えているような余裕もないので少し嫌そうにしながらもナギはゆっくりと鉄鉱石を掴んだ。

「ふぅ…余計な事を考えるのは止めて、いまは作業に集中しよう。さすがにこの鉱石全部は無理だけど、一日集中してやればそれなりの数はできるだろ」

『そうですね。切り替えて頑張ります‼』

「おう!」

 そう言って今度こそナギとソルテの2人はインゴット製作のために動きだした。
 ナギは窯の温度を鉄の加工に適したものに調整を始める。もっとも鉄は数回しか挑戦していないのでだいたいは、最初にやった時の温度とほとんど変わらず後は感覚で微調整しただけだ。
 その間にナギの背後に回ったソルテもこの後使う鍛冶魔法の内容を整理して、すぐに適切な魔法を使用できるように準備した。

「よし、それじゃ始めるか…」

 静かにしかし重くそう言うとナギは二つの鉱石を窯の中へと入れた。
 それからは熱がちゃんと通っているか慎重に観察しながら温度を適時調整しながら見守り、しばらくして赤く染まると急ぎながら丁寧に取り出して鎚で叩く。その時に背後で構えていたソルテも筋力強化などの補助魔法を使用してサポートした。

 しばらく繰り返すと熱が完全に冷めきってしまう前に窯の中へと戻し、また熱が加わり赤くなると取り出して叩くを繰り返すのだ。この工程は銅のインゴットや武具を作る時の工程と大して差はないが、加工する事の難易度がそもそも段違いに鉄の方が高いのだ。
 そのため鎚を振るうナギの表情はいつも以上に真剣だったが同時にどこか険しい感じになっていた。

「っ!」

 スキルによるアシストに加えてソルテの補助魔法もあって幾分楽にはなっているが、それでもまだ楽に出来るような事はなく神経をすり減らしながら作っていた。
 それから約40分近い間、休むことなく鎚を振り続けると1個のインゴットを完成させることが出来た。

「はぁ…はぁ…やっぱり鉄の加工は疲れるな」

『まだレベルが追いついてないですし、何よりも経験が圧倒的に足りていないですよ』

「レベルと経験って何が違うんだ?」

『簡単に言うとレベルは『自分はこれだけの事ができるぞ!』っていう指針のようなもので、それとは関係なく経験と言うのは本当に感覚的な物なんです。例えば『剣を握って2日の男』と『熟練の剣士』が同じ技を同時に丸太に放ったとしてどうなると思いますか?』

 出来るだけ分かりやすいたとえを出しながらソルテは質問を返した。
 その問いにナギは少し考えるとゆっくりと答える。

「同じ結果にはならないだろうな。おそらく『熟練の剣士』は丸太を両断するが、『剣を握って2日の男』は剣が途中で止まってしまうか、荒い切り口になるだろうな」

『正解です!ただこれだけだと明確に分らないと思うんですけど、鍛冶屋生産に関わると言うのは特定の素材の加工に対する経験なんです。主様は銅は何度も課題なんかも含めて大量に加工した事でかなりの経験を重ねていますけど、他の素材を扱う事には経験がたりていないと言う事なんです』

「…あぁ~つまり熟練度って事か…」

 説明を聞いたナギは昔にやっていたポータブルゲームにあった熟練度のようなものだと理解した。正直なところ説明を聞いただけだとそこまで大げさだとは思えなかったが、そうやって熟練度としてとらえると一気に理解できたのだ。

「なるほど、つまり解決する方法はとにかくやるのみって事だな」

『まぁ…簡単に言うとそうなりますね‼』

「なら、話すのはまた今度だな。一秒でも多く挑戦して、本番の武器と指環を作る時に少しでも楽に出来るように準備するとしよう!」

 話を聞いたナギは結局は数多くこなさないといけないと言う事が分かったので、休憩も兼ねた無駄話を止めて作業を再開することにした。
 急な切り替えにソルテは少し戸惑っていたがなんとか素早く立ち直ってナギの背後に引っ付くようにして準備する。

 それを軽く確認したナギは楽しそうに口元に笑みを浮かべると鉱石を二つ新たに取って窯の中へと入れる。
 更に一回目の時の感覚を元にして最適だと思う温度に調整して十分に熱が伝われば取り出して鎚で打つ、この時にも一回目を参考にして最適だと感じるように力の入れ方・叩く角度などを微調整する事も忘れなかった。

 始めはキン!という甲高い金属音に混ざってガッ!と言うような鈍い音も混ざっていたのだが、回数を重ねるごとに雑音は減っていた。それでも何度となく高温の炎が燃える窯に至近距離まで近づき熱された金属を出し入れするのはナギをしても少し覚悟のいる作業だった。

 慣れてくれば気にならなくはなって来るが、それでも温度の調性や鉱石への熱の加わり方などを正確に把握するために本当に至近距離で見ているのだ。
 そして観察結果を元にして窯の温度を最適なものへと近づいていた。
 しばらく続ければ先ほどよりも数秒ほど早くなったように感じながらナギは追加でインゴットを一つ完成させた。

「っぷはぁ~!」

 集中しすぎて少し息の止まっていたナギは完成すると同時に必死に息をする。
 その様子をソルテが後ろから心配そうに見ていたが、ソルテも何度となく補助魔法を使用していてナギほどではないにしても疲れていた。
 しかし2人には時間がそんなに残っておらず少しの休憩を挟むとまだ山済みになっている鉱石を確認した。

「…はぁ、ちょっと無茶な気がして来たな」

『本当に今さらですよ…』

「ハハハ…でも一度決めたからにはやりきる!終わったら全力で寝てやる!」

 呆れを滲ませたソルテの言葉にナギも乾いた笑みを浮かべたが、すでに一度やり切ると決めているので今更やめるつもりには慣れずに覚悟を決めるのだった。
 その後はひたすらに休憩と作業を延々と繰り返し現実で1日すべて使って鉱石の山の半分以上を消費してインゴットを30個以上作る事ができたのだった。

 その日の終わりにナギは宣言通りに気絶したように熟睡するのだった。


 
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