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第四章 鍛冶師の国

第二百三十三話 試作の日々《ロングソード:前編》

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 そして投擲ナイフの実戦での使い心地を確認したナギは帰ってからのソルテとの話し合いを終えて、今後の予定は完全に決まった。

「それではこれから数日は新しいレシピに乗っていた武器の試作と実戦での確認の繰り返しと言う事で!」

『はぁ…やっぱりそうなりますか』

 嫌そうにしていたソルテだがなんとなくこうなる予感はしていたようで強く反対する事はなかった。
 こうして話が纏まってしまえばナギの行動はとにかく迅速で鉱石は心配にならない程豊富に持っているので、素材集めの必要はないと判断してゴド爺さんの店に来ていた。
 中にはちょうど夜なためか誰もいなかったので静かに作業場で窯の前に座った。

「さてっと、まずは手に入ったレシピを一つにつき10個ずつ作って試してみるか」

『10個ですか…中には消耗品ではない物も多数ありますけど?』

「そこは気にするな。試作だからずっと修復しながら使う訳でもないし、ある意味で使い捨てだ」

『あぁ…そう言う事ですか』

 ものを作る物として作品を使い捨てにする事にソルテは少し不満そうにしていた。
 そんなソルテの気持ちを理解できたナギは苦笑いを浮かべていた。

「ただ試作が終われば自分専用に一点物を作るつもりだから、その時は全力でやるぞ」

『っわかりました‼私も全力でサポートしますね‼』

 今後の事も考えてナギが元気づけるように説明するとソルテは一瞬で元気を取り戻して、むしろ前よりもやる気に満ちた様子で全身でやる気を表現していた。
 その姿を微笑ましそうに見ながらナギは頷き話を進める。

「おう、よろしく頼むぞ。と言う事で今日はロングソード辺りが比較的簡単だろうからやりたいところなんだけど、その前にインゴットの数が足りなそうだからそっちからだな」

『そう言えば結構使いましたから補充しないとですか』

「そう言う事だ。もう慣れたから少しは楽になったけど、大量生産は辛い…なんて言っている時間も勿体ないし、すぐに始めるぞ」

『はい!』

 ここ数日の間に何度となく武器の生産しかしていなかったつけと言うべきか、持っていたインゴットの数が心もとなくなっていたのでナギとソルテは武器の前にインゴットを作る事になるのだった。
 それでも今のナギは何度となく難しい属性付与された短剣や指輪の生産をした影響で職業とスキル両方のレベルが大幅に上がっていて、更にはソルテもサポートに徹し続けたことでいくつかのスキルレベルが上がっていた。

 そのため今までも鉄のインゴットは15分以上掛かっていたのだが、今では1個作るのに5分強と言った程度の時間しか掛からなくなっていた。もっともこれから使う分の事を考えると作るのは数個ではまったく足りないので結局のところ、晩御飯の準備にログアウトするまでの数時間で30個まだ作った。
 ただ現実で晩御飯や後片付けなどのやる事を終わらせたナギは再度ログインすると、すぐにゴド爺さんの店へと戻って今度は普通に昼間なのでゴド爺さんは居たので軽く挨拶はした。だがナギが走って来た様子にゴド爺さんも本格的に何かを始めたのだと理解したようで、ながく話したりすること無くすぐに中へと迎え入れてくれた。

 その心遣いに甘えてナギはすぐに窯の前に座ると火を入れて追加のインゴットを急いで仕上げていった。
 程なくして追加で20個以上作れたところで一度手を止めた。

「ふぅ…飽きたな」

『はい…』

「やっぱりインゴット製作は詰まらないな」

『必要だから仕方ない事なんですけどね~』

「…よし、インゴットはここまでにしてロングソード作るか‼」

 いままでにも何度となく作ってきたインゴットの生産に本当に飽きた様子のナギは今日はここまで!と割り切って、元々決めていたロングソードを作ることにした。
 そのナギの決定にソルテも嬉しそうに晴れやかな笑顔を浮かべていた。

「それで作り方は…インゴットを2個も使うんだよな」

『今まで作って来た物とは大きさが段違いですからしかたないですよ』

 レシピを改めて確認したナギは作り方自体には今までの延長と言った感じで気にしなかったが、使うインゴットの数が倍に増えたことに少しもったいなさそうにしていた。
 ただ作る物の大きさ自体がかなり違うのでソルテの言葉もあって悩んだりはしなかったが、使った分のインゴットを後で作らないといけない事だけは憂鬱に思うのだった。

「まぁ今回はまだ少ない方だし気にするだけ無駄だな」

『そうです。それよりも早く始めましょう‼』

「ははは!そんじゃ始めますか‼」

 我慢できないと言った様子で急かしてくるソルテに楽しそうに笑ってナギもやる気に満ちた様子で作業を始めることにした。
 まずはいつもと同じように窯に火を入れるところは同じなのだが、その後に入れるインゴットが今回は倍の2個なのでおく場所を注意する必要があった。
 しかし初めてやる事なので瞬時に適切な場所が分かる訳ではないのでひとまずは中心部に纏めて置いた。後はいつものように魔力操作で炎が拡散しないように半球状に状態を維持する。

『いつ見ても魔力操作の腕がすごいですね…』

 瞬時に魔力を操作して望んだ通りの形状まで炎を操作するナギの腕前にはソルテも静かに感心していた。
 その声も全力で集中しているナギの耳には届いていなくて窯の中にしか意識は向いていなかった。

(やっぱり少し熱の通りにむらがあるかな?…とりあえずは通りの弱いところに火を少し誘導して…)

 感覚的に熱の入りが均一でない事を感じたナギは炎を調整して均一にして、程なくして完全に赤く染まった鉄のインゴットを2個とも取り出して混ざるように鎚で打った。
 現実でこんな大雑把にやると上手く混ざらない可能性もあるが、どんなにリアルでもAOは仮想世界のゲームなのでシステム的な物で完全に一つの素材として加工する事が可能だった。

 もっともそれはオート機能を使っているプレイヤーにとっての話であって、マニュアルモードで完全に自力でやっているナギはシルテ無的に可能な事でも難易度はかなり高く設定されていた。
 そのためか何度となく窯に入れて取り出して鎚で打つという工程を繰り返してもほんの少しずつしか纏まっていかなかった。ただ同じ鉄のインゴット同士でナギ自身が現実でも鍛冶を少し経験していたりと、色々な要素がかさなっているためか1時間弱と言う比較て短い時間で一つにまとめ上げることに成功した。

「はぁ…はぁ…はぁ…すごい神経使う…」

『私もMPが半分しか残ってないです…』

 鉄のインゴットを一つの素材としてまとめることには成功したが代わりにナギとソルテの2人は想像していた以上に疲れ切っていた。
 まずナギは普段は気にしない熱の入りの調性のためにいつも以上に繊細な魔力操作をして、サポートに徹していたソルテも初めての武器の製作に適切な補助魔法をまだ決め切れていなくて試しながらなのでMPをかなり消費していた。
 そのため少し休憩を挟みながらだったがナギとソルテは今日中に一本は完成させようと必死に製作に集中した。

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