記憶喪失から始まる青春 〜目が覚めたらクセが強い女の子たちに絡まれ始めた件〜

Taike

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1年生編

変わりゆく想い

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-side  仁科唯-

 私は田島が隣に座ったのを確認してから話を始めた。

「昔話をしようと思うの。まあ昔といっても4ヶ月前の話なんだけどね」

「ちょっと待ってくれ。昔話をするのはいいけどお前寒さで手震えてるじゃねえか。これ着とけ」

 話を始めようとすると田島が学ランを脱いで私の肩に掛けてくれた。少し体温が残っていてあったかい。

「でもこれを私が着てたら今度は田島が寒くなるんじゃないの?」

「まあ寒いけどバカは風邪引かないって言うだろ?」
 
「ふふ、なによそれ。だったら私もバカだから風邪引かないじゃん」

「点数俺の方が低いからきっと俺の方が風邪引きにくいんだよ。あとこれは俺の勝手な予想なんだが、お前結構無理して勉強したから身体弱ってるんじゃないか?いいからとりあえずそれ着とけ」

「うん、わかった。ありがとう」

 田島の気遣いで心も身体も暖まった。夏休み最終日に2人で話した時もそうだったけどこの男は無自覚でこういうことをするから困る。記憶を失ってもそういうところは変わらないんだね。でもこういうの軽々しくやっちゃだめよ? 私以外の女の子だったら勘違いしちゃうからね?

 私は田島のことをある程度分かっているから勘違いしたりなんてしない。田島は普段はバカやってふざけてるだけに見えるけど、実は周囲の人のことがよく見えている。そして多分周囲の人優先で行動してしまう奴なんだ。だから自分が寒いのを我慢してまで私のことを暖めてくれてるんでしょうね。

 あれ? だとしたら他人がよく見えている田島に夏までイジメを隠せてた私ってすごくない? ってこんなの誇れることじゃないか...

 田島のこういうところは良いところだと思うけど悪いところでもあると思う。田島は自分のことをもっと大事にするべきよ。周囲の人優先でもいいけどたまには自分のことも優先してほしい。事故の時みたいに自分の命を張ることだけはもうやめてほしいの...

 あと田島は周囲の人はよく見えているけど自分のことはあまり見えていないと思う。だから周囲から自分に向けられてる感情に全然気付かないんじゃないかな。

 あ、だから市村さんの露骨な好意に全然気づいてないのか...あんだけ教室で見られてたら普通気づくでしょ。多分田島以外みんな気づいてるよ。

「おい、なんで急に黙り込むんだ? 昔話をするんじゃないのか?」

 田島に声をかけられて現実に引き戻された。いけないいけない。つい物思いに耽ってしまった。

「あ、ごめん。なんかぼーっとしちゃった。じゃあ昔話を始めるわね」

「おう」

 そして夏休み最終日に落ち込んでいる私を田島が見つけてくれたことや、泣いている私を田島が励ましてくれたことがあったと伝えた。

 このことは入院中の田島には伝えていなかった。私が1番大事にしているこの思い出だけは2人きりで、自分の口で田島に教えてあげるんだと決めていたから。

「そんなことがあったのか。なんか意外だな」

「意外? なんで?」

「いや、1ヶ月ここに通って分かったんだがお前って結構男女問わず友達多い人気者じゃん? そんなお前が人目がないところで1人で泣いているってのが想像できなくてな」

「普段の私は本当の私じゃないからね」

「どういう意味だ?」

 私はここで本当の自分を田島に全てさらけ出すことにした。テストで点数勝負を持ちかけた時から決めていたことだ。

 私が田島にしてもらいたいこと。それは私の弱い部分を全て田島に知ってもらうことだ。今からこれを伝えたら私は前よりも田島に依存することになるかもしれない。もしかしたらそれは良いことじゃないのかもしれない。

 でもそんなの関係ない。私はコイツとはこれから隠し事なしで接していきたいの。それが私の本心なの。

 さあ田島、私の全てを受け入れなさい!


-side  田島亮-

 仁科からいきなり普段の自分は本当の自分ではないと言われた。突然のことでどういう意味なのか全くわからない。

 気になって仁科にどういう意味なのか尋ねると左隣にいた彼女は突然立ち上がり、俺の目の前にやってきて仁王立ちのポーズをとった。座っている俺が彼女を見上げて向かい合っている状態になる。ちくしょうスカートの中が見えそうで見えねえ。

 絶対領域をチラ見していると仁科が突然俺の方を右手で指差してきた。

「どういう意味かって? いいわ、教えてあげる。私、本当は結構臆病で傷付きやすいし泣き虫なの。臆病で友達が離れていくのが怖いから普段は『明るい人気者の仁科唯』を演じているの」

 なんですと...

「そうだったのか...それって結構きつくないか?」

「きついに決まってるじゃない。ずっと演技してるのだもの。でも友達が離れていく方が辛いわ」

「別に演じなくても誰も離れていかないと思うぞ?」 

「そうかもしれないわね。私の友達は良い人ばっかりだし。でもずっと演じてきたから今更やめるのも怖いのよ」

「なるほどな...」

 演技をしている理由は分かったしやめられないという事情も分かった。でも1つ気になることがある。

「だったらなんで今ここでお前は演技をしていないんだ?」

 今の仁科は明らかに教室にいる時と様子が違う。多分素の仁科はこんな感じなんだろう。でもなぜ今演技していないのかが分からなかった。
 
「それはね...田島になら本当の私を見せられるからだよ」

「え!?」

 予想外の返答にドキッとしてしまった。
それってもしかして俺のこと...

「なーんてね。田島はバカだから一生懸命演技して接してもあんまり意味ないかなって思っただけだよ。あれ、顔赤いけどどうしたの? もしかして何か期待しちゃった?」

「お、お前なあ...」

 ちくしょう完全にからかわれた。この小悪魔め。俺の純情を弄びやがって。

「これからは定期的に私のガス抜きに付き合うように。普段演技も部活もやってて結構ストレス溜まってるんだから」

「ガス抜きってこんな感じで2人で話すってことか?」

「そうそう。約束ね」

「ええ...」

 こんなことを定期的にやるなんて耐えられない。主に俺の心臓が。

「勝者の言うことは」

 ガス抜きを断ろうとすると仁科が笑顔で俺に詰め寄ってきた。目が笑ってない。怖いっす。

「なんでも聞きます...」

 こうしてテストの敗者である俺は定期的に仁科のガス抜きに付き合うことになった。

「一応言っとくけどこの事は他の人には内緒ね」

「こんなこと他のやつに言えるわけないだろ」

「よろしい」

 そう言うと仁科が体を屈めて俺と目線の高さを合わせてきた。やばい、顔近い。

 目線の高さを合わせた仁科は鼻先に人差し指を当て、右目でウィンクをしてこう言った。

「2人だけの秘密だぞ?」

 ああ、これは、これは...

 

 か、かわえぇぇぇぇぇぇぇ!



 なんかこう、あれだ。同級生に対してドキドキするというよりはテレビでアイドル見て悶えてるような気分だ。

 いつも友達として普通に話してるから仁科が超かわいいってこと完全に忘れてたな...今思い出したわ。

「っ!?」
 
「ん? どうした仁科?」

「か、帰る!」

「え、ちょ、おい!」

「バイバイ!」
 
「待てって、いきなりどうしたんだよ!」

 仁科が急にダッシュで体育館裏から去ってしまった。なんか顔真っ赤だったけどどうしたんだろ...俺なんか悪いことしたかな?よく分からんけど今度謝っとくか。

 こうして短かったけど色々あった俺の2学期は終わった。

-side  仁科唯-

 私は今自分のベッドの上で枕に顔を押し付けている。もう夜中なのに全然眠れない。

「いつも友達として普通に話してるから仁科が超かわいいってこと完全に忘れてたな...今思い出したわ」

 田島! あの発言はどういう意味なの!?
いや、なんかあの時は目合ってなかったし心の声が出ちゃったみたいな感じなんだろうけどね!? それでもどういう意味よ!?

 あいつ私のことかわいいって言ったよね? 女子として意識してるってことなのかな? でも友達として普通に話してるって言ってたし...


 あー! あいつにとって私ってどんな存在なのよ! 全然わかんない!




 今までは田島に話を聞いてもらえればそれでいいと思ってた。でもこの日を境に私の考え方は少し変わった。アイツにどう見られてるのかが気になり始めたんだ。




ー  田島は私のことどう思ってるのかな?
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