記憶喪失から始まる青春 〜目が覚めたらクセが強い女の子たちに絡まれ始めた件〜

Taike

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1年生編

私は君のことが...

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-side  田島亮-

 元日に岬さんから送られてきたメッセージは新年を祝う類のものではなかった。

『田島くんって市村さんとどういう関係なの?』

 いや、岬さんが新年早々こんなこと聞いてくる意味が全く分からない。仁科には2人でいるところを見られたから聞かれても不思議はなかったけどさ、この子に関してはマジでこんなこと聞かれる理由が思いつかないんだけど。

『なんで急にそんなこと聞くの?』

『田島くんが市村さんをおんぶしてるところを偶然見たから』

 グハッッ!

 ...え? あれを見られてたわけ? 岬さんに? なにそれ。想定外にも程がある。

 これ仁科の時よりよっぽど面倒くさい状況になってね?

 これは次学校で会った時に弁明するとか流暢なこと言ってる場合じゃない。今すぐ誤解を解かないとやばい。

『俺と咲はただの幼馴染だよ。それ以上でもそれ以下でもない』

『でも普通幼馴染をおんぶして帰るかな?』

 この子意外と食い下がるのね。

『咲が靴擦れして歩けなくなってたから仕方なくおぶっただけだよ』

『あ、なるほどそういうこと...』

『納得してくれた?』
 
『うん、突然変なこと聞いてごめんね』
 
 良かった。誤解は解けたようだ。

 でも俺にはここで1つ気になることがあった。

 岬さんが俺と咲の関係を知る必要ってあるのか? 俺と咲の関係性が岬さんに与える影響なんてあまり無さそうなものだが。

 その辺が気になった俺は岬さんに質問してみることにした。

『なんで突然そんなこと聞いてきたの?』

『えっと、それは...』

 ん? なんか歯切れが悪いな。

『女の子は他人の恋愛に興味がある生き物なんだよ!』
 
『だから俺と咲の関係が気になったってこと?』

『そうそう、そういうこと!』
 
 そんな理由なのか...
 
 でも普段は物静かな岬さんもそんな考えを持ってたりするんだな。なんか意外。

『まあ納得したよ。追求するような真似してごめんね』

『田島くんが謝ることないよ! 急に変なこと聞いたのは私だし』

『じゃあまた始業式の時に学校で会おう』

『うん! また学校で!』

 ふぅ...一応岬さんへの対処も完了だな。なんか岬さんの意外な一面を垣間見た気がしたわ。

 

-side  岬京香-

「はぁ...絶対変だって思われたよね...」

 田島くんとのやりとりを終えた私は勉強机に座って頭を抱えていた。目の前の宿題を進める手が完全に止まっている。

 女の子は他人の恋愛に興味がある生き物なんだよ! は言い訳として無理があったでしょ...ていうか普段の私なら絶対そんなこと言わないよ...

 でもあの時は無理にでも言い訳するしか無かったのよ。本当のことを伝えるわけにはいかなかったからね。


――『田島くんのことが気になってるから市村さんとの関係を知りたかった』なんて言えるわけないじゃない。


 田島くんが家に来たあの日以来、私は彼のことがずっと気になっていた。気づけば教室で彼のことを目で追うようになっていた。私の命を救ったヒーローだから一時的にかっこよく見えていて、そのせいで彼のことが気になるだけ。最初はそう思っていた。でもそれはきっと違う。

 あの日以来、私の心には変化が生まれた。

 田島くんが休み時間に仁科さんと話しているのを見るとなんだか胸がモヤモヤなるようになった。以前は仁科さんと仲良くしているのを見ても何とも思わなかったのに。

 そして今日田島くんが市村さんをおんぶしているのを見た時、胸がズキッと痛むような感じがして苦しかった。こんな感覚を今まで味わったことなんてなかったのに。

 それにあの日から2ヶ月経ったはずなのに、彼があの日の帰り際に見せてくれた優しい笑顔をまだ忘れることができない。今でもあの笑顔を思い出すと胸が熱くなってしまう。彼に近づいてあの笑顔をまた見たいと願ってしまう。

 そして私に起きた最大の変化。それは田島くんに私のことを知ってほしいと思い始めたこと。お互いを理解し合ってもっと深い関係になりたい。もっと私のことを見てほしい。もっと私のことを考えてほしい。そんなことばかり考えるようになった。

 ああ、そうか。やっと気づいた。




 ――私は田島くんのことが好きになってしまったんだ。



 今までこの感情には気づいてなかった。でもきっと一目惚れだった。私はあの日見た彼の優しい笑顔に一目惚れしたんだ。

 いや、もしかしたら事故から助けてくれたあの瞬間から好きになっていたのかもしれない。私を車から庇ってくれた、あの瞬間から。

 きっと今まで私はこの気持ちから目を逸らしたいただけなんだ。叶うかわからない恋をするのが怖くて逃げていただけ。恋愛感情を無理やり友愛感情だと思い込いんでいただけ。

 でもあの日から2ヶ月間メッセージを交わして彼の人柄を知ってしまった。今まで人を避けていて話題を提供するのが苦手な私に面白い話をいっぱい聞かせてくれたし、会話が苦手な私に対しても呆れずに優しくしてくれた。

 それに学校で会話するのではなく、メッセージで私とコミュニケーションをとるのは人目が苦手な私への気遣いなんだと思う。

 そんな彼の優しさを知ってしまった私はこの恋心を認めざるを得なかった。

「でもこのままじゃダメよね...」

 自分の感情を理解して1つ前へ進むことができた。でも彼に好きになってもらうためにはもっと距離を縮めないといけないわよね。そのためには学校で会話したいけど皆の目が怖い...

「はぁ...私どうすればいいんだろう...」

 新たな悩みの種ができた私はその日から3学期が始まるまで悶々とした日々を過ごした。
 



-side  田島亮-

 本日は1月8日。元日は色々あったがそれ以降は特に何も無い平穏な日々を過ごし、始業式の日を迎えた。3学期の始まりである。たまに1年生3学期を2年生0学期とか言う先生がいるが、俺はそんなこと言っちゃう先生は好きになれない。せめて3月までは1年生でいさせてくれよ。学年が上がるという現実を見たくないんだよ。

 というかこんな寒い中、学校に行かなければならないという現実すら見たくない。コタツぬくぬくエブリデイだった冬休みに戻りたい。

 ああ、引きこもってたから歩くのもしんどい。そうだ! セグウェイ買えば歩かなくてすむじゃん! あ、学校で置く場所ないわ。

 そんな感じでくだらないことを考えながら俺は今通学路をのらりくらりと歩いている。ぶっちゃけこのペースだと遅刻する可能性大。新学期早々遅刻で怒られるのはしんどいなぁ。でも今から急ぐのもそれはそれでしんどいなぁ。

 そうしてダラダラ歩いていると校門が見えてきた。

「おい、急げ田島! 予鈴まであと1分だぞ!」

 校門前には柏木先生がいた。大声で俺を呼んでいる。

「あけましておめでとうございます。先生」

「ああ、あけまして...じゃなくて急げ田島! 予鈴まであと1分だと言ってるだろ!」

「いや、急いでも意味ないっすよ。俺走れないから今から教室向かっても確実に遅刻です」

「そ、それはそうだが...」

「ていうか先生なんで校門前にいるんですか?」

「始業式の日は遅刻者が多い傾向があるからな。校門前に教師が立って遅刻者に直接注意をすることになっているんだ」

「それで今日は柏木先生が担当になったというわけですか?」

「そういうことだ...というかお前はここで私と話す暇ないだろ! 遅刻だぞ!」

「はいはい、教室行きますよ。教室行く前にかわいかわいい柏木先生に会えて良かったです」

「なっ...! お前、今年はそういう冗談少しは減らせよ! 怒るからな!」

「善処しまーす。それじゃ、また後で会いましょー」

「おい! お前全然聞いてないだろ!」

 奈々ちゃん先生は年が変わっても照れ屋で顔真っ赤っかで可愛かった。今年も時々怒られに行って癒されよう。

 そして柏木先生のおかげで憂鬱な気分が少し晴れた俺は教室へと向かった。




ーー-------------------------

 教室に入って席に着くとすぐに翔が声をかけてきた。

「おっす、亮。学期始めからいきなり遅刻かよ」

「はは、まあな。でも今日柏木ちゃん校門前にいたから多分朝のHR無しだろ? それに始業式まではまだ時間あるしセーフだろ」

「ところで亮、お前が席に着いてから仁科がお前の方をずっと見てるのだが」
 
「み、見てないし! うるさい新島!」

「仁科、俺に何か用か...?」

「田島、アンタ私に何か言うことあるんじゃない?」

「言うこと? 何のことだ?」

「あー、もういい! 田島、ちょっとこっち来て!」

 そう言うと仁科がいきなり席を立って俺の学ランの襟を掴んできた。

「ちょ、苦しい! 息できないから! 離して仁科!」

「ほほう、お二人とも朝からお熱いようで」

「だまれ新島!」

「うわ! 仁科! 襟引っ張らないでくれ!」

 そして俺は襟を引っ張られたまま強引に教室の外へと引きずり出された。

 なす術もなく廊下に引きずり出される俺。そして俺の顔をじっと見てくる仁科。

「ねぇ、田島。始業式の日に市村さんとの関係を教えてくれるって話だったよね? 忘れてたとは言わせないよ?」

 

 あ、すいません、完全に忘れてました...
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