記憶喪失から始まる青春 〜目が覚めたらクセが強い女の子たちに絡まれ始めた件〜

Taike

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1年生編

ハイテンション新聞部長

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-side  田島亮-

 容疑者田島亮、現在検察官仁科唯から廊下で取り調べを受けております。

「で、市村さんとはどういう関係?」

「ただの幼馴染です」

「ふーん。でも2人きりで初詣なんて仲良すぎない?」

 た、確かに言われてみればその通りだな...
ちくしょう、その辺は適当に言い訳するしかない。

「多分咲は家に引きこもってる俺を見かねて外に連れ出しただけだ」

「ふーん?」

「なんか納得いってないみたいだな」

「いや、別にぃ?」

 クソ、なんか腹立つ態度だな。でも意地悪な感じがちょっとかわいいから憎めない。なんか悔しい。

「つーかお前なんでそんなに追求してくるんだ? 俺が咲と深い関係にあったら何か困ることでもあるのか?」

「っ! そ、それは...」

 ん? なんだ? 仁科が急に大人しくなったぞ?

「おい、お前たちそんなところで何してるんだ? そろそろ始業式始まるから体育館に向かってくれ」

 モジモジしている仁科を眺めていると背後から柏木先生が現れた。おそらく1年6組の生徒に始業式へ向かうように伝えに来たのだろう。先生は俺たちを一瞥すると教室の中に入っていった。

「た、田島!」

 柏木先生が教室に入ると急に仁科から呼びかけられた。

「え、なに?」

「べ、別に市村さんとの関係を聞いたことに深い意味は無いから! 勘違いしないでよね!」

 こいつは何を慌ててるんだ?

「まあわかったよ」

「はい、じゃあこの話終わり! 始業式始まるし一緒に体育館行こっ!」

「おう、そうだな。そろそろ行くか」

 大人しくなったと思ったら急に慌てたりして忙しいやつだ。まあそれが仁科の面白いところかもしれないな。

 こうしてなんとか弁明を済ませた俺は仁科と体育館へ向かった。



--------------------------



 始業式は想像していたよりも早く終わった。年末に行われた全国大会で優勝した駅伝部の表彰と校長の特にありがたくもない話があっただけだったのだ。

 そして始業式の日は授業もないし補習もない。つまりめっちゃ早く帰れる。やったぜ。さっさと帰ってコタツに入ろう。

 そう思って意気揚々と校門から出ようとした時、突然背後から声をかけられた。

「君、田島亮くんだよね?」

 振り向くとそこには金髪ロングヘアーの女子高生が居た。身長は俺より少し高い。俺が身長165cmだからこの人170cmくらいあるんじゃないか...?

 顔立ちを見ると日本人以外の血が入っているような印象を受ける。いわゆるハーフ美女というやつだ。

「私の顔に何かついてるのかな?」

「いや、そういうわけでは...」

 しまった。ハーフの女の子見たのなんて初めてだったからついジロジロ見てしまった。

「で、君が田島亮くんってことでいいのかな?」

「はい、そうですが...どちら様ですか?」

「あ、ごめん。私が先に名乗るべきだったよね。私の名前は渋沢アリス。天明高校2年生。新聞部の部長をやってます」

「その新聞部の部長さんが俺に何か用ですか?」

「そう! 私は君に用があるのよ!」

 なんかハイテンションな人だな...
 
「その用ってなんですか?」

「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれた。その用とはズバリ! 君に取材を申し込むことよ!」

「...はい? 俺を取材? なんでですか?」

「聞くところによると君は記憶喪失になったそうじゃない」

「まあそうですが」

「そんな珍しいことは滅多に無い! これは取材せねば! と思ったのよ。私のジャーナリスト魂にビビッと来たわ!」

「そ、そうですか...」

 なんか変な人に絡まれたな...
 
「というわけで明日の昼休みに君の記憶喪失について色々聞かせてくれないかな?」

「まあそれは構いませんけど期待に応えられるような面白い話はできないと思いますよ?」

 事故に遭って記憶を失った。ただそれだけのことだ。特に話すことなんてなさそうなものだが。

「面白い話を引き出すのは私の役目よ! 心配しなくていいわ!」

「は、はあそうですか...」

「というわけで明日の昼休みに新聞部の部室に来てほしいのです」

「すいません、新聞部の部室の場所分からないんですけど」

「だよねぇ...じゃあ明日昼休みになったら君の教室に迎えに行くよ。1年6組だよね?」

「すいません、お手数おかけします」

「よし、じゃあ私は別件の取材が入ってるからこの辺で失礼するわね! また明日ー!」

 渋沢先輩はそう言い残すと全力疾走でその場を去ってしまった。

 なんか変な人に出会ってしまったな...



ー------------------------


 

 翌日の朝、登校して席に着いた俺は翔に渋沢アリス先輩について何か知っていることがあるか聞いてみることにした。

「なあ翔、お前2年生の渋沢アリスって人知ってるか?」

「知らないわけないだろ。逆にお前知らなかったのか?あの人有名人だぞ」

「そうなのか?」
 
「父親が日本人で母親がイギリス人のハーフ。容姿端麗、スタイル抜群の長身美女。おまけに父親は新聞社の社長で家は超金持ち。これだけ属性があれば有名にもなるだろ」

「確かにそうだな...つーか、なんでお前そんなに詳しいんだよ」

「はっはっは、俺は天明高校の美女については知り尽くしているのさ」

「恐ろしいリサーチ力だな。新聞部にでも入ったらどうだ?」

「冗談にしてもそれは絶対にお断りだ」

「なんでだ? 美人の渋沢先輩が部長やってるんだぞ?お前なら喜んで入部しそうなものだが」

「いや、あの人は性格がちょっとな...多分悪い人ではないんだが」

「確かにあのハイテンションについていくのはきついな」

「え、お前もしかして渋沢先輩に会ったのか?」

「昨日の帰りに会った。なんか取材申し込まれた」

「それはまずいな...」

「え、なんで?」

「あの人は面白い話が聞けるまで取材のターゲットになった人物を監禁してひたすら質問責めにするらしい。これはあくまで噂なんだけどな」

「噂だろ...? 実際にやるわけないよな...?」

「まあ一応気をつけておけ」

「お、おう...」

 取材のために監禁? 渋沢先輩がいくら変人だからってそんなことするわけ...
やばい、ちょっと不安になってきた。

 良からぬ噂を聞いた俺は午前中の授業が全く頭に入ることなく昼休みを迎えることになった。




------------------------ー





「たっじーまくーん! 迎えに来たよー!」

 4限目の終了及び昼休みの開始を告げるチャイムが鳴った直後、教室の扉が開いて渋沢先輩が現れた。あのー、まだ4限担当の先生いるんですけど。来るの早過ぎね?あんたちゃんと最後まで授業受けてきたのか?

「あれ渋沢先輩だよね?」

「田島くん呼んでるよね? え、なんで?」

 やばい、あの人があまりにも大声で俺を呼ぶものだから教室がざわついてる。教室中の注目が俺に集まっちゃってる。

 あとなぜか仁科と咲と岬さんから冷たい視線を感じるんだが。おい、俺が君たちに何をしたっていうんだ。

「田島くん早く行こーよー! はーやーくー!」

「分かりました! 分かりましたから大声出すのやめてください! 今行きますから!」

 そして教室中の注目に耐えきれなくなった俺はそそくさと教室を出て渋沢先輩と合流した。

「よし、じゃあ行くとするか! 私についてきたまえ!」

「はい...」

 そして合流した俺たちは部室棟へと歩き始めた。

「あのー、渋沢先輩? あんなに大声で俺のこと呼ぶ必要ありましたか...?」

「あ、ごめんねー。パッと見じゃ田島くんがどこにいるのか分からなかったからさ、大声で呼べば気づいてもらえるかなーって思って」

「だったら教室の入口付近にいる生徒に俺を呼んでもらうとかでも良かったじゃないですか...」

「おー、その発想は無かった。君はもしかして天才か!?」

 えぇ...俺この高校だと結構バカな方なんですけど...

「あと取材受ける前に1つ聞きたいことがあるんですけど聞いてもいいですか?」

「よろしい。何でも聞いてきたまえ」

「なんで今になって俺を取材しようと思ったんですか? 俺が登校を再開したのは2ヶ月前ですよ? その時に取材しようとは思わなかったんですか?」

 俺は昨日からこの事がずっと気になっていた。明らかに取材の時期がおかしいんだよ。

「あ、えっと、それは...2ヶ月前は期末テストが近かったから勉強してて...」

 おい、あんたが昨日言ってたジャーナリスト魂とやらはどこ行った。

「ほ、ほら着いたよ! ここが新聞部室!」

 そうこうしているうちに新聞部室の前に着いてしまった。ついに取材が始まるのか...

「じゃあ中に入ろうか」

「了解です」

 新聞部室の中は想像していたよりも殺風景だった。室内の真ん中に長机が1つあり、壁際にパイプイスがいくつか置かれているだけで他には何も無かった。

「全然物とか置いてないんですね」

「まあパソコンで記事作ってるだけだからねー。イスと机さえあれば十分」

 渋沢先輩がそう言った後、新聞部室の扉の鍵がカシャンと閉まる音がした。


...ん? ちょっと待て、なぜ鍵を閉める?

 そしてここで俺は朝に翔から言われたことを思い出す。

『あの人は面白い話が聞けるまで取材のターゲットになった人物を監禁してひたすら質問責めにするらしい。これはあくまで噂なんだけどな』

 これってまさかそういうことなのか...? いや、でもさすがに...

「あのー、渋沢先輩? なんで鍵を閉めるんです?」

「え?取材終わるまで君が出ていかないようにするためだけど?」

「...」






...あ、これ詰んだわ。
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