記憶喪失から始まる青春 〜目が覚めたらクセが強い女の子たちに絡まれ始めた件〜

Taike

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1年生編

取材(取材とは言ってない)

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-side  田島亮-

 俺は今密室で美女と2人きりになっている。字面だけ見ればドキドキワクワクする状況なんだろうが、今の俺にそんな感情は微塵もない。あるのは恐怖と緊張だけだ。

「じゃあそこの壁の前に立ってくれる?取材始めるから」

「は、はい...」

 え? 俺今勢いで返事して壁際に立っちゃったけど取材のインタビューって椅子に座ってやるものじゃないの? なんで俺壁際に立たなきゃいけないの?

「では取材を始めます...そりゃ!」 

 取材の開始を告げると渋沢先輩が俺に急接近してきた後、ドンッと壁を思い切り叩いた。端的に言うと壁ドンされた。

「おわっ! いきなり何するんですか!」

「え、何って取材だけど」

 取材ってなんだっけ?(哲学)

「取材するのになんで俺が壁際で渋沢先輩に迫られなきゃいけないんですか!」

「私はこの距離感でしか良いインタビューができないの! いいから始めよ!」

 いや、どんな理屈だよ。

「いや、顔近すぎますって! こんなんじゃインタビューなんてできませんって!」

「ではインタビューを始めます。あなたが記憶喪失になったのはいつですか?」

 ねえ、俺の話聞いてた?

「に、二学期の始業式の日です...」

 このままインタビュー始められるのは正直きつい。でも俺にこの状況を打開する策など無い。というわけで質問に答えて取材をさっさと終わらせる方針に切り替えることにした。

「記憶喪失になった原因は何ですか?」

「交通事故です。通学途中に軽トラに跳ねられました」

「記憶喪失になった後の周囲の反応は?」

「俺に自然に接するように心がけてくれていたと思います。その気遣いにとても感謝しています」

「なるほどなるほど。良い話だけどインパクトに欠けるなー」

「...はい?」

「記事にした時に面白くなりそうな話とかない?」

「いきなりそんなこと言われましても...」

「このままだとなんか面白みのない記事になりそうなんだよー。ねえ、なんか無いのー? 周囲の人の気遣いとかそんなのを記事にしてもインパクトに欠けるんだよー。捏造でもいいからなんか捻り出してよー。『実は僕の記憶喪失は演技でした!』とかさー」

「...」

 先輩の発言は些細なものだったかもしれない。普通の人なら流せるレベルの発言だったかもしれない。でも俺はこの発言に対してイラついてしまった。

 インパクトに欠ける? そんなの知ったことか。周囲の人の気遣いに俺はめちゃくちゃ感謝してるんだよ。その気持ちを『インパクトに欠ける』の一言で一蹴するんじゃねーよ。俺にとっては大切な気持ちなんだよ。 

 あとさ、『実は僕の記憶喪失は演技でした!』とか言えるものなら言ってみてーよ。これが演技だったらどんなに楽だろうか。その一言で友達家族が俺との思い出を無くした悲しみを消せるならどんなにすばらしいことか。

 でも現実はそうじゃないんだよ。そして今まで俺たちはその悲しみや苦しみを時間をかけて乗り越えてきたんだよ。だから軽々しくそんな発言捏造させようとするんじゃねーよ。ふざけんな。

 多分渋沢先輩は純粋に面白い記事が作りたくて軽い気持ちでこんな事を言ったんだろう。おそらく悪意を持って言ったわけではないんだ。

 それでも世の中には言っていいことと悪いことがある。たとえ言った側は悪意を持たずに軽い気持ちで言ったとしても、受け取る側の事情や心情次第で深く傷ついたり苛立ったりすることだってあるんだよ。

 もし渋沢先輩が今後も取材を続けるのならこの事を知っておくべきだ。今後取材対象になる人の気分を害さないために。そして渋沢先輩自身が他人の気持ちに配慮できるようになるために。

 だから今から俺が教えてやる。こんなの柄じゃないけどな。教育的指導だ。

「どうしたの? 急に黙り込んで」

「すいません、先輩のために面白い話を必死に考えていたんですよ」

「それで面白い話は思いついた?」

「はい、今思いつきました」

「ほんとに!? 話して話して!」

「分かりました。では渋沢先輩、俺の隣に立ってもらってもいいですか?」

「壁に背を向けて君の隣に立てばいいの? 別に構わないけどなんで?」

「面白い話をするために必要なことなんです」

「よくわからないけどまあいいや。移動するよ」

「お手数おかけします」

「はい、移動したよー。こんな感じで立ってればいいの?」

「ええ、それで構いません。じゃあ次は俺が移動しますね」

「え、なんで?」

「面白い話のために必要な事です」

 そして俺は渋沢先輩の真正面に立った。二人で向かい合う形になる。

「では失礼して...オラァ!」

「きゃっ!?」

 俺は渋沢先輩に急接近して壁を思い切り叩いた。ふはは、壁ドン返しだ。

「ちょっと田島くんどうしたの!? 君こんなことする子だったの!?」

「渋沢先輩、俺は今から先輩のためになる話をします」

「面白い話の予定じゃなかったっけ!?」

「先輩に質問です。今まで先輩は取材の時に『ちょっとこの発言まずかったかな...』とか一度でも思ったことありますか?」

「いや、全く」

 答えは分かってたけど即答かよ。

「だったら今まで取材対象になった人全員に今度謝っといて下さい」

「え、なんで?」

「さっき先輩は俺に対して『周囲の人への気遣いはインパクトにならない』と言いましたよね?」

「うん」

「俺はその発言を聞いてイラっとしました」

「え...」

「今までも似たような発言を他の人にしたことがあるんじゃないんですか? 『〇〇はインパクトにならないからもっと面白い話をして!』が口癖になったりしてませんか?」

「それは...」

「個人的な考えですが今後そういう発言は控えた方がいいと思います。先輩は面白い話を聞き出したくて言っているつもりでも言われた側は自分の発言を否定されたような気分になるんです。苛立ったり傷ついたりするんです。実際に俺も結構腹立ちましたし」

「...」

「だから今後取材する時は取材対象になる人をもっと詳しく調べておいて下さい。そしてタブーになるような発言はないか取材前にしっかり把握しておいて下さい。人の気持ちに配慮できるようになりましょう」

「う、うん分かった...」

「それともう一つ。先輩は捏造することに対して抵抗はありますか?」

「いや、全く」

 この人言い切りやがった...

「今まで捏造した話を記事にしたことはありますか?」

「ええ、取材対象になった人に今まで何度も面白い話を考えてもらったわ!」

「それって相手に無理矢理嘘をつかせたってことですよね?」

「いや、そんなつもりじゃ...」

「嘘をつかせることって取材を受ける側の本心とか、実際に起きた事を否定して別の事実を作り出させるってことですよ? なんかそれってすごく辛いことだと思うんです。今の話を聞いても先輩は面白い記事のために俺に嘘をつけと言えますか?」

「い、いいえ...」

「あと普通に考えて学校新聞でフェイクニュース流すのはアウトっす。ジャーナリスト魂持ってるなら真実を伝えてください」

「う、うぅ...」

 あれ? 先輩が俯いて大人しくなってしまった。

 ...あれ? やりすぎた? ちょっと言いすぎちゃった? 俺もしかして女の子泣かせちゃった?

「...めて」

 ん? 先輩が俯いたまま何やら小声で呟いているがよく聞こえない。

「すいません、今なんて言いましたか?」

「男の人が真剣に怒ってくれたのなんて初めて...」

「そ、そうですか...はっ!」

 やばい。言いたいこと言ってスッキリして冷静になって思い出したけど俺今ハーフ美女と密室で二人きりだったわ。

 てか俺なんで壁ドンしてんの? 冷静になるとすげー恥ずかしいんだけど。つーか先輩との距離が超近い。良い匂いするし顔がすぐそこにある...って静まれ俺の煩悩ぉぉぉ!
 
「急にこんなことしてすいませんでした! 今すぐ離れます!」

 我に返った俺は先輩から離れようとした。

 しかし、俯いたままの先輩にいきなり右腕を掴まれて離れることができなかった。

「え!? ちょっと渋沢先輩!?」

 先輩はその状態のまま話を始めた。

「私は今までかわいいかわいいとチヤホヤされてばかりで男の人に叱られることなんて全然なかった...」

「そ、そうですか...」

「だから私を叱ってくれた男の子は田島くんが初めて...」

「は、はあ...」

「嬉しい...嬉しい...嬉しい...............好き」

「え? 最後なんとおっしゃいました?」

「好き! 田島くん大好きぃ!」

 そう言うと渋沢先輩がいきなり俺に抱きついてきた。

「うわっ! ちょっと! 急に何してるんですか! 離れて下さいよ!」

「いやだぁ! 離れない!」

「なんで!?」

 あのですね。渋沢先輩は俺より少し背が高いわけでしてね。だからその、今俺の顔に仁科ほどではないものの豊かな胸が押し付けられてるわけでして...





 あぁ、理性が! 俺の理性がもたないからさっさと離れてくれぇぇぇ!
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