記憶喪失から始まる青春 〜目が覚めたらクセが強い女の子たちに絡まれ始めた件〜

Taike

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1年生編

恋の魔力

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-side  田島友恵-

 部活を終え、家に帰って携帯を開くと久しぶりに京香さんからメッセージが来ていた。

『友恵ちゃん久しぶり! 急な話になるんだけど今度休みの日に一緒に出かけない? 田島くんも誘って3人で!』 

 こりゃまた急な話ね...

 でも京香さんと出掛けるのは別に嫌じゃない。中学校の時も何回か一緒に2人でショッピング行ったことあるし。

 それに京香さんは部活中は物静かだったけど私と2人で居る時はいつもより喋ってくれた。だから一緒にいて結構楽しかった。

 でも兄貴も誘う理由が分からない。今までみたいに2人で行けば良くない? というか兄貴居たら私的にはむしろ邪魔なんだけど...

 そこで私は京香さんに今抱いた疑問をぶつけてみることにした。

『なんで兄貴も誘うんですか?』

 すると返信はすぐに来た。

『私4ヶ月くらい前に田島くんと友達になったの。だから田島くんともそろそろ一緒にお出かけしたいなーと思って』

『それなら兄貴だけ直接誘えば良いんじゃないんですか?確か同じクラスでしたよね?』

『そ、そんなことできないよ! 私からデートに誘うみたいになるじゃない!』

 まあ言われてみれば確かにそうね。

『だったら勘違いされないように『友達』ってことを強調した上で誘えばいいんじゃないですか?』

 まあ、あの鈍感兄貴にそこまでする必要無いと思うけど。

『いや、そこまでするのは気が進まないというか何というか...』

 え? どいういうこと? 友達として見られたいんじゃなかったの?

『それってどういう意味ですか?』

『友達ではあるけどずっと友達として見られるのはちょっと嫌だな...と』

 え? 友達として見られるのは嫌なの?

 じゃあ、それってもしかして...
 
『もしかして京香さんは兄貴に異性として見られたいんですか?』

『えーと、はい、そうとも言えなくはない...かな
...』

 うわ、あっさり認めちゃった...

 でも私は京香さんがあっさり認めたことに違和感を覚えなかった。

 多分京香さんの性格上、今まで誰にも兄貴との事を相談できなかったんじゃないかな。でも恋愛関連のことを1人で溜め込むのって辛かったんだと思う。

 だから耐え切れなくなって私に話したくなったんじゃないかな。まあ、推測なんだけどね。

『京香さんは兄貴のことが好きなんですか?』

『まあ、そうなります...誰にも言わないでよ?』

『言うわけないじゃないですか笑』

 まあ、あんな兄貴でも京香さんにとっては命をかけて自分を守ってくれたヒーローだもんね...
好きになっちゃってもまあおかしくはないか...

『京香さんは兄貴と出かけたいんですよね?』

『うん』

『兄貴に女の子として意識して欲しいんですよね?』

『うん...』

『だったら私に任せてください!』

 ごめん、咲さん! 咲さんにとって京香さんはライバルなのかもしれないけど、私は京香さんの恋も応援してあげたいの!

『え、それって私に協力してくれるってこと...?』

『そういうことです。私は恋する乙女の味方なのです』

『友恵ちゃん...!』

『京香さん、今週の日曜は空いてますか?』

『一応空いてるけど...急にどうしたの?』

『日曜に天明高校前の駅に来てください。集合時間は朝10:00で。私が兄貴を連れて行きます』

『え? ほんとに!?』

『任せといてください。電車で隣町に映画でも見に行きましょう。3人で』

『なんか悪いよ。そこまでしてもらうなんて』

『いいんですよ。じゃあ当日はバッチリおしゃれしてきて下さいね!』

『うん、わかった! 友恵ちゃん本当にありがとう!』

『いえいえ、では日曜に会いましょう』

『うん、またね!』

 ふぅ...よし、これであとは兄貴に日曜の事を伝えるだけだね。

 そして私は今決まったことを伝えるべく兄貴の部屋へと向かった。


-side  田島亮-

「兄貴ー、入るぞー」

 部屋の床の上で寝転がってラノベを読んでいると友恵が急に俺の部屋に入って来た。

「急に何の用だ。あとパンツ見えてるぞ」

「黙れ変態」

「いや、冬なのにミニスカ穿いてるお前が悪い。普通床から見上げたらパンツ見えるだろ。不可抗力だ」

「普通見えてても言わないから」

「防御力低いスカート穿いてるお前が悪い」

「なんで咲さんと京香さんはこんなのを...」

「ん? 何か言ったか?」

「いや、なんでもない」

「ところでお前が部屋に来るなんて珍しいな。一体何の用だ?」

「ああ、そうそう。兄貴今週の日曜暇? というかどうせ暇でしょ?」

 失礼な。俺だって日曜が暇じゃない時はある。例えば日曜はラノベ読んだり、漫画読んだり、ゲームしたり、あとは...あとは...



...あ、俺常に暇ですわ。

「まあ暇だな」

「じゃあ一緒に映画見に行かない?」

「は? お前と2人で? えぇ...お前実はブラコン...?」

「バーカ、天地がひっくり返ってもそれは絶対ないわ。他にも人来るに決まってんじゃん」

 妹よ、そこまで言わなくても良くない? お兄ちゃんも傷つく事だってあるんだよ?

「じゃあ誰が来るんだよ」

「京香さん」

 ん? 京香さんって岬さんのことか? いや、まさかな...

「すまん、よく聞こえんかった。ワンモアプリーズ」

「だから! 岬京香さんが来るの!」

「なんで!?」

「私と京香さんは部活仲間だったって話は聞いてるよね? その時から私と京香さんは2人で出かけるくらい仲良かったのよ」

「なるほど...でもそれって俺も一緒に行く理由になるか?」

「そ、それは...京香さんがもしよければ兄貴も一緒にどうかって言ってくれたの!」

 え? マジ? 俺も誘ってくれてるの?

「岬さん...なんて良い人なんだ...」

「なるほど。誘ってくれた相手を『良い人』って思っちゃうのか...こりゃ重症だわ...京香さんこの先大変だろうな...」

「お前さっきからちょいちょい俺に聞こえないように何かブツブツ言ってない?」

「気のせいでしょ。じゃあ日曜10:00に天明高校前の駅に集合で」

「OK」

 そして用を済ませた友恵は俺の部屋から出て行った。

 まさか岬さんと映画見に行くことになるなんてな...

 そういや岬さんとはメッセージのやりとりは結構してるけど学校では全然話してなかったな。どうも岬さんは人目が苦手みたいだからさ、学校では話しかけない方が岬さん的にも気が楽なんじゃないかと思っちゃうんだよね。

 いやー、でも日曜は友恵が来てくれるから安心だわ。隠れ美人の岬さんと2人きりだったら絶対耐えられなかったわ。メンタル的な意味で。

 あ、岬さんに誘ってくれたお礼伝えないといけないよな。メッセージ送っとくか。



 そして俺は勉強机の上に置いている携帯へと手を伸ばした。


-side  岬京香-

 友恵ちゃんとのやりとりを終えた私はベッドの上であれこれと考え事をしていた。

 はあ...友恵ちゃんに田島くんが好きってこと話しちゃったな...

 いや、最初は私が会話の流れを上手い具合に操作して自然な感じで誘うつもりだったのよ? 好意を漏らすつもりなんて微塵も無かったのよ。

 でも完全に会話の主導権を友恵ちゃんに奪われてしまった。友恵ちゃんのコミュニケーション能力が異常に高いことを完全に忘れてた。普段他人と話さない私が友恵ちゃんとの会話の流れを操作するなんて無理に決まってるじゃない。なんでもっと早く気づかなかったのよ...

 しかもあろうことか田島くんのことが好きだということまで話してしまった。友恵ちゃんのペースに完全に乗せられてしまってうっかり話してしまった。ていうか私すぐに好意漏らすとかチョロすぎない?

 でも仕方なかったのよ。この気持ちを自分1人で抱え込むのって結構辛いの。言いたくても言えない想いを溜め込むのって苦しいのよ。

 だから私はせめて自分がどんな想いを抱いているのかを誰かに知って欲しかったのよ。この想いを誰かと共有したかったの。そして私にはこの気持ちを共有できる人物なんて1人しかいなかった。

 それが友恵ちゃん。中学時代、いつも人を避けていた私と友達になってくれた優しい子。彼女にならこの気持ちを吐露してもいいと思えた。

 だから私は友恵ちゃんとの会話の中で田島くんが好きだということをあっさり認めてしまったんだと思う。

 でもあの子って田島くんの妹なのよね...
複雑な気分になったりしてないかな...
ちょっと心配になってきたな...

 友恵ちゃんのことを案じていると突然枕元に置いている携帯が鳴った。

 画面を確認すると田島くんからメッセージが来ていた。

『この度はお誘いいただき誠にありがとうございます』

 あぁ、そうか。友恵ちゃん、日曜のこと伝えてくれたんだ。

『田島くん、なんで敬語なの笑』

『いや、なんとなく』

『なにそれ笑』

『とにかく誘ってくれて嬉しいよ。日曜楽しみにしてる』

『私も楽しみにしてる!』

『あ、それと1つ確認しときたいんだけど』

 ん? 確認? なんだろう。

『岬さんは日曜日もいつも通り前髪下ろした状態で映画館行く感じ?』
 
『うん、そうだよ。でもなんでそんなこと聞くの?』

 外出と前髪になんの関係があるんだろう。

『いや、もし前髪上げてたら街でナンパとかされそうだなと思って』

『え、なんで?』

『この前岬さんの家に行った時にさ、前髪上げて俺に素顔見せてくれたじゃん?』

『そうだね』
 
『あの時見せてくれた顔がかわいかったから』


 ...え!? 私の顔がかわいい!?

 こんなこと男の子に言われたのなんて初めて...
しかもよりにもよって田島くんに言われるなんて...
すごく嬉しい...

 どうしよう、今の一言だけで鼓動が高鳴って顔がどんどん赤くなっていくのが自分でも分かる。早く返信しなきゃいけないのに全然頭が回らない。

 あぁぁぁ! もう!

 すぐ思ったことを言うのは田島くんの唯一嫌いなところよ! 急にこんな不意打ちするなんてずるい! 田島くんのバカ!

『そ、そういう冗談を軽々しく言っちゃダメ!』

『あ、なんかゴメン』

『じゃあ私そろそろ夜ご飯の時間だからこの辺で失礼するね! バイバイ!』

『わかったよ。じゃあまた明日ね』

 頭が回らなさすぎてつい会話を強制終了させてしまった...ほんとはもっと会話続けたかったんだけどなぁ...

 彼のたった一言で私の心は嬉しさや動揺で乱れてしまった。さっきからずっと頰が緩みっぱなしでニヤニヤしてしまう。あはは、今鏡で自分の顔見たら気持ち悪いんだろうね...

 今までは近づけないことを辛く感じるだけだから最近は恋なんてしなければ良かったと思うことが結構あった。

 でもこんな些細なことで私の心は幸福感に満たされる。そしてそれがとても心地良い。きっと、この感情は私が今恋をしているから味わえている。だったら恋をしたのは悪いことじゃなかったのかもね。

 恋とはよく分からないものね。ひとたび恋が関われば些細なことで一喜一憂してしまう。喜びも苦しみも普段より強く感じてしまう。本当に不思議。

 





 最近は悩み事のせいで上手く眠れていなかった私だが、その日の夜は幸福感に包まれて久しぶりにぐっすりと眠ることができた。
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