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【異世界学園の】面倒事対処 その04【劣等従者】
スレ40 洗礼は火炙り
しおりを挟む学園の廊下をサーシャと歩く。
それだけなのに、俺のメンタルは生徒たちにだいぶ砕かれた気がする。
だがそれでも、動いていれば目的の場所に辿り着く。
「──ここが、Xクラスの教室か」
[そう]
「たしかXクラスは、全学年の生徒が同じ教室らしいよな。そういうのって、どっかで見たことある設定なんだが……まあ、人数が少ないからか?」
[たぶん]
目の前にある教室の室名札には、『X』としか書かれていない。
教室の所々に修繕の跡が見られるが、損傷が激しいかつ多いらしく、間に合っていない部分が見受けられる。
「……というか、損傷が激しいな」
[ボロボロ]
「俺、入るの怖くなってきたな。絶対馴染めないよ、何がどうなったら教室が壊れるような展開を起こすんだ? 善良な学生であった俺に、そんな場所で過ごすのは無理だよ」
いやいや、どんだけ不良クラスなんだよ。
ドラマとかだとよく見る光景だが、実際にはあんまり見ないモノの一つである……あんまり、だけどな。
[善良……ふ]
「おい、『ふ』ってなんだ。……おい、まさか『ふっ』とかやりたかったのか? 笑いたいのか、俺の善性を」
[善良な人は、あんな悪魔みたいな魔法使わないはず]
「誰が悪魔だ。(無魔法)しか使えないんだから、仕方ないじゃないか。それに、全部属性魔法に比べれば優しいもんじゃないか」
たしかに、たまに変なことになるけど……全部“原点回帰”で戻してるじゃないか。
属性魔法なら、燃やしたり濡らしたり吹き飛ばしたり土を被せたりするところを、無属性なら魔法のダメージだけなんだぞ。
無駄なモノがない分、コスパも良い。
まさに、倹約家へ教えたい魔法だな。
「……まあ、とりあえず入るか。サーシャ、先に扉を開けて入ってくれ」
[り]
スライド式の扉を開けたサーシャは、すぐさま盾を生みだして何かを防ぐ。
ボムッと音と衝撃がすぐに生まれ、その存在が実在することを証明した。
魔力を溜め込まれていた気がしたので、先に入るように指示したんだが……どうやら予想通りだったか。
タイミング良く、教室の中から声がする。
「おっ、今回の奴はやれるみてぇだな」
[何]
「先輩からの洗礼ってヤツだよ……というかそれ、なんだよ」
[気にしない]
サーシャよ、片手で相手しちゃうのはいろいろと傷つけちゃいそうだから止めなさい。
まだ気づいていないからいいけど、気づいたら本当にショックだから。
声の主は男、だが俺よりも若いな。
入学した歳は関係なく、入っていた時間と昇級試験の合否が決めるものだ。
まあ、それでもこのクラスは全学年入るんだし……ある意味先輩の洗礼って、この場所でしかできないんだよな。
[誰]
「おっ? 俺のことか、俺はブラスとぉおおおおおおおお! ……おい、何すんだよフェルナス!」
「アンタが有りもしない洗礼で、新人をイジメようとするからよ。ゴメンなさいね、この馬鹿がいきなり魔法なんて飛ばして」
[大丈夫]
自己紹介をしようとしたブラス何某は、自身がフェルナスと呼んだ少女──俺からは見えないが声は若い女のもの──から魔法をくらったようだ。
属性は水、威力はそこまでない。
あくまで懲らしめるための魔法だった。
「ワタシはあのバカと同学期の二回生。フェルナスって呼んでね」
[サーシャ、よろしく]
「サーシャね、分かったわ。それで……どうしてサーシャは、甲冑なんて着てるの?」
そこからはまあ、女子トークが行われる。
女子と気付いていなかったようだが、それでも俺から見れば女子トークだ。
「さて、俺も入ることにしよう」
洗礼をする奴も文字通り頭を冷やしているようだし、俺も教室に入りますか。
教室の中には、数人の生徒が居た。
体を水浸しにした赤髪の少年、サーシャと話す耳が尖がった緑髪の少女、窓際の日当りのいい場所で眠る金髪の少女、その近くでただ黙々と読書をする同じく金髪の少年。
髪色が明るい、顔が良い……俺はこの二つの特徴を知るだけで、なんとなく学園生活を憂鬱に感じた。
異世界人には関係ないのだが、この世界の人たちにとって、魔法適性は目に見えることがあるらしい。
──髪と瞳の色だ。
属性適性がずば抜けて高い者のそれらは、属性が関する色と同色になる。
家族が別の色だろうと、魔法適性が高ければその色に染まるんだとか。
色は明るければ明るいほど強く、暗くても適性が髪色として発現しなかった者よりは強くなる。
火属性は赤、水属性は青、風属性は緑、土属性は茶、光属性は金、闇属性は黒色となるのが有名なんだと。
なので、闇魔法を使えない場合黒髪は、大抵が異世界人なのですぐバレる。
俺は魔道具で闇魔法を誤魔化せるから問題ないが……他の異世界人、どうする気かな?
そんな黒髪のモブ、教室に入った途端に魔法が……飛んでこない。
ポツンと立ち尽くすモブ、そんなヤツに誰かから話しかけてくる声……こなかった。
何もないまま空いている後ろの方にある席に座り、サーシャがフェルナスと名乗る少女と話す姿をボーッと見つめる。
何やら戸惑っているようで、会話と並行して俺のチャットにヘルプコールをしているようだが……当然スルーだ。
普通の出会いをした友達がいない俺に、初めて会う少女とのコミュニケーション方法など分からん。
そう伝えるとどうやら諦めたようで、彼女とのお喋りに集中した。
その様子に満足して息を吐き──そして、気づいてしまう。
「……あれ、俺って空気?」
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