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第73話 対策はあるか
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「うっ」
楓は落下の衝撃で声を漏らした。
高所から落下させられると思っていただけに、少しの痛みで済んであとはなんともなかった。
落下が原因の怪我はない。
送られたのは楓の部屋。
にしては床が柔らかいと思い見下ろすと、気絶している茜を下敷きにしていることに気づいて、楓は慌てて茜の上からどいた。
部屋が荒らされた形跡はなく、単に向日葵がいないだけだった。
「くそっ」
楓は壁を叩いた。
そう、向日葵がいないだけ。向日葵が朝顔の手中だった。
犠牲になるのは自分だと考えていた。
向日葵や茜などが捕まることなど想像もしていなかった。
前線に立つのだから、真っ先に傷つくのは自分だと思っていた。
茜が言った通り、失敗しても捕まるまでの期間が早くなるのだと考えていた。
だが違った。
結局楓はどこへ行っても守られるだけの存在だった。
「僕が作戦の提案なんかしていなければ! 大人しく朝顔のところにいることを覚悟していたら!」
楓は壁に頭をぶつけた。
こうしていても、自分を傷つけいても、向日葵が帰ってこないことはわかっていた。
それでも止めることはできなかった。
「そんな風に自分を責めないで」
楓は振り返った。
床で横になりながら、茜がぼんやりと天井を見つめていた。
目を覚ましたようだ。
「私も向日葵ちゃんも楓の作戦に乗って、楓の力になることを自分の意思で決めたの。だから、傷つくことも想定していたのよ」
「でも」
「言ったでしょ。無理はしないでって。あれは、いざと言う時は助けを求めてってことでもあるのよ」
「やっぱり僕はどうしようもないやつってことだね」
楓はうつむいた。
最初から他人の力になることなどできない。
そもそも、能力だって何かが突出してできるわけでもない。
一芸なんて持っているわけがない。
そんな自分がでしゃばったって、人の助けを借りないとまともにできることなんてないのだ。
「そんなことないわ」
茜はきっぱりと言った。
「え?」
「別に人を頼ったっていいじゃない。向日葵ちゃんにとって、僕を頼ってって言われたことは嬉しかったと思うわ。楓が提案している時、反対はしていながら顔はほころんでいたもの。それに、何かをしてもらえば返せばいいのよ」
「返す? 僕が向日葵に?」
「そうよ。まだここにいるってことは、まだ終わったわけじゃないってことでしょ」
「でも、僕の考えは通用しなかった。それに、もう向日葵も茜ちゃんも動けそうにないよ」
「だから、自分を傷つけてタイムリミットまで時間を潰すの? 私は頼ることは許しても、理由なく自分を傷つけることは許さないわ」
楓はギクリとした。いつの間にか諦めて、目の前の問題と向き合うことから逃げていた。
「けど、状況を打破する手なんて残されてるのかな?」
「まだ試してないことがあるでしょ。胸に手を当てれば思いつくんじゃない?」
「試してないこと? それって?」
「私は疲れたからもう寝るわ」
「え! ねえ、茜ちゃん! 茜ちゃん?」
楓は茜に咄嗟に駆け寄った。
嘘だ。嘘だ嘘だ。
残された時間はあと一日しかないというのに、ここで茜を失っては一日動けないかもしれない。
すぐさま楓は茜の胸に耳を当てようとして動きを止めた。
すうすうという寝息が聞こえたからだった。
茜は本当に眠っただけだった。呼吸している。
ほっと一安心するも、ゆっくりしている時間はない。
いっそ自分を差し出して向日葵を助ける決断をしたいが、茜が言うにはまだ手が残されているらしい。
それも、向日葵も茜も必要ない手で、今まで試していない手。
そこまで絞り込むと楓に一つ心当たりがあった。
今まで一歩踏み出せなかったこと。おそらく失敗の最たる原因。
いざとなると、心が抵抗していたこと。
だが、今となっては手段を選んではいられない。
向日葵が人質、もとい神質になっている。
楓は頬の傷の手当てを軽く済ませ、覚悟を決めるために家を出た。
楓は呼び鈴を鳴らした。
少ししてドアが開かれた。
「どうしたの? 楓たんが顔に怪我なんて珍しいね」
桜の言葉に楓は苦笑いを浮かべた。
「ちょっと焦ってて、転んで切っちゃってね」
楓は言った。
「そっか」
「それより、桜に教えてほしいことがあるんだ」
「あたしに? あたしに教えられることならいいよ。まあ立ち話もなんだし中に入ってよ」
「おじゃまします」
楓は桜の家に上がった。
向日葵以外の女子の部屋に入るのは初めてだが、今はそのことを気にしている場合ではない。
覚悟を決めるために、桜から教わることにした。
できなかったことをするために。
桜の後ろについて移動し、促されるまま部屋に入った。
部屋には椿の姿があった。
椿は楓が部屋に入ると気づいたように顔を上げた。
「あら、楓さん? 楓さんも向日葵さんに、わからないところがわかったから、わからないところを教えてほしいって言われたの?」
「ううん?」
なんだか要領を得ない言葉を聞き流し、楓は桜と向かい合って座った。
「それであたしに教えてほしいことって? 勉強はご覧の通り教わってるだけで、この間みたいに教えるのはまた頼んでもらわないと無理だよ」
桜はニヤニヤして言った。
楓は首を横に振った。
「勉強を教えてもらいに来たんじゃないんだ」
「じゃあ何?」
「それは……」
楓はここにきて言葉に詰まり、うつむいた。
覚悟をしてきたはずだった。
だが、手で髪をもてあそぶだけで、うまく言葉を吐き出せなかった。
自然と頬が熱くなり、心拍が上がる。
やはり恥ずかしい。
椿の視線も気になり、楓はソワソワするだけで声が出せなかった。
「何か悩みがあるとか?」
「そうとも言えるんだけど……」
楓は曖昧に答えた。
目を上げると、桜は当てようと考えているのか上を向いていた。
椿も自分の勉強に戻っているらしかった。
あまり大きな声を出さなければ、周りには聞こえなさそうだと楓は思った。
ここでずっと足踏みしているわけにはいかない。
楓はそっと桜の耳元に顔を近づけた。
「その、き、キスを教えてほしい」
「え? 楓たんが? あたしに?」
突然、桜が大きな声を出したことで、椿は顔を上げた。
咄嗟に桜の口をふさぎ、人差し指を立てる。
桜がこくこくと頷いたところで、楓は椿に向き直った。
「なんでもないよ」
「そう? 私には言えないことなら帰ろうか?」
「いや、それは悪いよ。第一そこまでじゃないから」
「そうなの?」
椿は首をかしげていたが勉強に戻った。
「でも急にどうして?」
ささやき声で桜に聞かれ、楓は返答に迷った。
キスを人から教わる理由など、今まで一度も考えたことがなかった。
そもそも、人とすることなど前世では考えたこともなかった。
あわよくばと考えても、どこか夢のようで現実味がなかった。
なんと言おうか口を動かしていると、桜がじれったそうに、
「わかった。向日葵たんを満足させたいんだね」
と言った。
「まあ、そんなところ」
と楓も答えた。
「なら恥ずかしがることもないじゃん。彼女を満足させたいんでしょ? それであたしに教えてほしいと」
「人に教わってうまくなるのかな?」
「わかんないけど、ただ闇雲にやるよりもいいんじゃない? 経験豊富だろうと思ってのことでしょ?」
「うん」
「じゃ、早速始めようか」
「もう? 何も準備してないけど」
「いいからいいから。善は急げってね」
視線を宙に泳がせ、未だ言い訳を考えようとする楓を桜は逃さなかった。
前に突き出されていた楓の両腕も意味をなさず、楓の唇に桜の唇が当たった。
ここまではいつものことだった。
朝顔を屈服させるには実際に行動に移すだけで十分かもしれない。
その覚悟さえあれば大丈夫かもしれない。
続けて、舌先が触れ合う。これもまた、日によっては日常。
だが、今日の桜はいつもよりも熱烈だった。
教えると言っただけあり、挨拶程度では済まなかった。
楓は一瞬視界がぼやけた気がした。
「ねえ、二人は何してるの? それが言えなかった原因? どういうこと?」
「大丈夫だよ。すぐ終わるから」
「答えになってないんだけど?」
椿の言葉で桜は一度起き上がったが、返答すると再び楓に戻った。
「これでうまくなるの?」
「楓たんにその気があればね」
楓はポーッとしてよくわからなかった。
なんだかポワポワして、ふわふわしていた。
今までのはなんだったのか、全て夢だったのではないかと思ってから頭を振った。
桜の余裕そうな笑みを見て、これではいけないと思い楓は桜に飛びついた。
まだ、こんなもんじゃないはずだ。
「結局勉強は進まなかったわけだけど」
椿が言った。
椿はご立腹だった。
「ごめんなさい」
楓は謝っていた。
「楓さんは悪くないわ。何か大切なことがあるんでしょ? でも、桜さん!」
「はい?」
桜は楓の隣で恍惚とした表情を浮かべていた。
「あなたは私に勉強を教わろうとしてたはずだけど?」
「いや、ふふ。なんだかどうでもよくなっちゃって」
「全然よくないわよ。もう教えないわよ。勝手に終わらないで叱られてればいいんだわ」
桜は突然ハッとしたように我に返った。
荷物をまとめ出て行こうとする椿の肩を掴んだ。
「やっと勉強するつもりになった?」
振り返った椿は優しい笑顔を浮かべていた。
「楓たん。実践だよ」
だが、桜は椿の質問には答えなかった。
「さっきから会話が噛み合わないのだけど」
「え? どういうこと?」
楓は聞いた。
「椿たんとするんだよ」
「桜さんは何を言ってるの?」
「でも、椿と?」
「椿たん嫌い?」
「ちょっとなんてこと聞いてるの?」
「好きだけど」
「楓さん? ねえ友達としてってことでしょ? 嬉しいけど、どういうこと? 最初から私がはめられてたってことなの?」
「じゃあ決まりね」
「何が?」
「ごめんね」
「全く話が読めないんだけど、何をするの? ねえ、楓さん? 黙ってないで答えて。そんな桜さんみたいな真似はしないわよね。ね!」
楓は落下の衝撃で声を漏らした。
高所から落下させられると思っていただけに、少しの痛みで済んであとはなんともなかった。
落下が原因の怪我はない。
送られたのは楓の部屋。
にしては床が柔らかいと思い見下ろすと、気絶している茜を下敷きにしていることに気づいて、楓は慌てて茜の上からどいた。
部屋が荒らされた形跡はなく、単に向日葵がいないだけだった。
「くそっ」
楓は壁を叩いた。
そう、向日葵がいないだけ。向日葵が朝顔の手中だった。
犠牲になるのは自分だと考えていた。
向日葵や茜などが捕まることなど想像もしていなかった。
前線に立つのだから、真っ先に傷つくのは自分だと思っていた。
茜が言った通り、失敗しても捕まるまでの期間が早くなるのだと考えていた。
だが違った。
結局楓はどこへ行っても守られるだけの存在だった。
「僕が作戦の提案なんかしていなければ! 大人しく朝顔のところにいることを覚悟していたら!」
楓は壁に頭をぶつけた。
こうしていても、自分を傷つけいても、向日葵が帰ってこないことはわかっていた。
それでも止めることはできなかった。
「そんな風に自分を責めないで」
楓は振り返った。
床で横になりながら、茜がぼんやりと天井を見つめていた。
目を覚ましたようだ。
「私も向日葵ちゃんも楓の作戦に乗って、楓の力になることを自分の意思で決めたの。だから、傷つくことも想定していたのよ」
「でも」
「言ったでしょ。無理はしないでって。あれは、いざと言う時は助けを求めてってことでもあるのよ」
「やっぱり僕はどうしようもないやつってことだね」
楓はうつむいた。
最初から他人の力になることなどできない。
そもそも、能力だって何かが突出してできるわけでもない。
一芸なんて持っているわけがない。
そんな自分がでしゃばったって、人の助けを借りないとまともにできることなんてないのだ。
「そんなことないわ」
茜はきっぱりと言った。
「え?」
「別に人を頼ったっていいじゃない。向日葵ちゃんにとって、僕を頼ってって言われたことは嬉しかったと思うわ。楓が提案している時、反対はしていながら顔はほころんでいたもの。それに、何かをしてもらえば返せばいいのよ」
「返す? 僕が向日葵に?」
「そうよ。まだここにいるってことは、まだ終わったわけじゃないってことでしょ」
「でも、僕の考えは通用しなかった。それに、もう向日葵も茜ちゃんも動けそうにないよ」
「だから、自分を傷つけてタイムリミットまで時間を潰すの? 私は頼ることは許しても、理由なく自分を傷つけることは許さないわ」
楓はギクリとした。いつの間にか諦めて、目の前の問題と向き合うことから逃げていた。
「けど、状況を打破する手なんて残されてるのかな?」
「まだ試してないことがあるでしょ。胸に手を当てれば思いつくんじゃない?」
「試してないこと? それって?」
「私は疲れたからもう寝るわ」
「え! ねえ、茜ちゃん! 茜ちゃん?」
楓は茜に咄嗟に駆け寄った。
嘘だ。嘘だ嘘だ。
残された時間はあと一日しかないというのに、ここで茜を失っては一日動けないかもしれない。
すぐさま楓は茜の胸に耳を当てようとして動きを止めた。
すうすうという寝息が聞こえたからだった。
茜は本当に眠っただけだった。呼吸している。
ほっと一安心するも、ゆっくりしている時間はない。
いっそ自分を差し出して向日葵を助ける決断をしたいが、茜が言うにはまだ手が残されているらしい。
それも、向日葵も茜も必要ない手で、今まで試していない手。
そこまで絞り込むと楓に一つ心当たりがあった。
今まで一歩踏み出せなかったこと。おそらく失敗の最たる原因。
いざとなると、心が抵抗していたこと。
だが、今となっては手段を選んではいられない。
向日葵が人質、もとい神質になっている。
楓は頬の傷の手当てを軽く済ませ、覚悟を決めるために家を出た。
楓は呼び鈴を鳴らした。
少ししてドアが開かれた。
「どうしたの? 楓たんが顔に怪我なんて珍しいね」
桜の言葉に楓は苦笑いを浮かべた。
「ちょっと焦ってて、転んで切っちゃってね」
楓は言った。
「そっか」
「それより、桜に教えてほしいことがあるんだ」
「あたしに? あたしに教えられることならいいよ。まあ立ち話もなんだし中に入ってよ」
「おじゃまします」
楓は桜の家に上がった。
向日葵以外の女子の部屋に入るのは初めてだが、今はそのことを気にしている場合ではない。
覚悟を決めるために、桜から教わることにした。
できなかったことをするために。
桜の後ろについて移動し、促されるまま部屋に入った。
部屋には椿の姿があった。
椿は楓が部屋に入ると気づいたように顔を上げた。
「あら、楓さん? 楓さんも向日葵さんに、わからないところがわかったから、わからないところを教えてほしいって言われたの?」
「ううん?」
なんだか要領を得ない言葉を聞き流し、楓は桜と向かい合って座った。
「それであたしに教えてほしいことって? 勉強はご覧の通り教わってるだけで、この間みたいに教えるのはまた頼んでもらわないと無理だよ」
桜はニヤニヤして言った。
楓は首を横に振った。
「勉強を教えてもらいに来たんじゃないんだ」
「じゃあ何?」
「それは……」
楓はここにきて言葉に詰まり、うつむいた。
覚悟をしてきたはずだった。
だが、手で髪をもてあそぶだけで、うまく言葉を吐き出せなかった。
自然と頬が熱くなり、心拍が上がる。
やはり恥ずかしい。
椿の視線も気になり、楓はソワソワするだけで声が出せなかった。
「何か悩みがあるとか?」
「そうとも言えるんだけど……」
楓は曖昧に答えた。
目を上げると、桜は当てようと考えているのか上を向いていた。
椿も自分の勉強に戻っているらしかった。
あまり大きな声を出さなければ、周りには聞こえなさそうだと楓は思った。
ここでずっと足踏みしているわけにはいかない。
楓はそっと桜の耳元に顔を近づけた。
「その、き、キスを教えてほしい」
「え? 楓たんが? あたしに?」
突然、桜が大きな声を出したことで、椿は顔を上げた。
咄嗟に桜の口をふさぎ、人差し指を立てる。
桜がこくこくと頷いたところで、楓は椿に向き直った。
「なんでもないよ」
「そう? 私には言えないことなら帰ろうか?」
「いや、それは悪いよ。第一そこまでじゃないから」
「そうなの?」
椿は首をかしげていたが勉強に戻った。
「でも急にどうして?」
ささやき声で桜に聞かれ、楓は返答に迷った。
キスを人から教わる理由など、今まで一度も考えたことがなかった。
そもそも、人とすることなど前世では考えたこともなかった。
あわよくばと考えても、どこか夢のようで現実味がなかった。
なんと言おうか口を動かしていると、桜がじれったそうに、
「わかった。向日葵たんを満足させたいんだね」
と言った。
「まあ、そんなところ」
と楓も答えた。
「なら恥ずかしがることもないじゃん。彼女を満足させたいんでしょ? それであたしに教えてほしいと」
「人に教わってうまくなるのかな?」
「わかんないけど、ただ闇雲にやるよりもいいんじゃない? 経験豊富だろうと思ってのことでしょ?」
「うん」
「じゃ、早速始めようか」
「もう? 何も準備してないけど」
「いいからいいから。善は急げってね」
視線を宙に泳がせ、未だ言い訳を考えようとする楓を桜は逃さなかった。
前に突き出されていた楓の両腕も意味をなさず、楓の唇に桜の唇が当たった。
ここまではいつものことだった。
朝顔を屈服させるには実際に行動に移すだけで十分かもしれない。
その覚悟さえあれば大丈夫かもしれない。
続けて、舌先が触れ合う。これもまた、日によっては日常。
だが、今日の桜はいつもよりも熱烈だった。
教えると言っただけあり、挨拶程度では済まなかった。
楓は一瞬視界がぼやけた気がした。
「ねえ、二人は何してるの? それが言えなかった原因? どういうこと?」
「大丈夫だよ。すぐ終わるから」
「答えになってないんだけど?」
椿の言葉で桜は一度起き上がったが、返答すると再び楓に戻った。
「これでうまくなるの?」
「楓たんにその気があればね」
楓はポーッとしてよくわからなかった。
なんだかポワポワして、ふわふわしていた。
今までのはなんだったのか、全て夢だったのではないかと思ってから頭を振った。
桜の余裕そうな笑みを見て、これではいけないと思い楓は桜に飛びついた。
まだ、こんなもんじゃないはずだ。
「結局勉強は進まなかったわけだけど」
椿が言った。
椿はご立腹だった。
「ごめんなさい」
楓は謝っていた。
「楓さんは悪くないわ。何か大切なことがあるんでしょ? でも、桜さん!」
「はい?」
桜は楓の隣で恍惚とした表情を浮かべていた。
「あなたは私に勉強を教わろうとしてたはずだけど?」
「いや、ふふ。なんだかどうでもよくなっちゃって」
「全然よくないわよ。もう教えないわよ。勝手に終わらないで叱られてればいいんだわ」
桜は突然ハッとしたように我に返った。
荷物をまとめ出て行こうとする椿の肩を掴んだ。
「やっと勉強するつもりになった?」
振り返った椿は優しい笑顔を浮かべていた。
「楓たん。実践だよ」
だが、桜は椿の質問には答えなかった。
「さっきから会話が噛み合わないのだけど」
「え? どういうこと?」
楓は聞いた。
「椿たんとするんだよ」
「桜さんは何を言ってるの?」
「でも、椿と?」
「椿たん嫌い?」
「ちょっとなんてこと聞いてるの?」
「好きだけど」
「楓さん? ねえ友達としてってことでしょ? 嬉しいけど、どういうこと? 最初から私がはめられてたってことなの?」
「じゃあ決まりね」
「何が?」
「ごめんね」
「全く話が読めないんだけど、何をするの? ねえ、楓さん? 黙ってないで答えて。そんな桜さんみたいな真似はしないわよね。ね!」
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